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- 登録ID
- 2122872
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- タイトル
苅田實 Weblog 詩と真実
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- 紹介文
- わたしのこころの拠りどころは いつの時にも 「わたしの詩と真実」だった。 年老いたいま、それを日記のように表現してみたい。 お読みいただき、ご感想いただければ 幸いです。
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記事一覧
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- アサギマダラ追憶3 苅田實 Weblog 詩と真実
- アサギマダラよ、いまどうしている。 私が勧めた宮古島の住み心地は良いか。 お前と出会ったのは去年の夏、の故郷蒜 山への単独山行での出来事だった。荒い息 とともに登ってゆくと、お前はひらり、ひ らりと眼前に舞い込んできた。あつ、アサ ギマダラだ。 お前数メートル先のフジバカマの花…
苅田實 Weblog 詩と真実 - アサギマダラ追憶3
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- ひかりの静けさ 苅田實 Weblog 詩と真実
- 白い髯が伸び足腰がふらつくようになって、 この冬から何故か私は二階の部屋で寝るよう になった。3日目の朝だった。カーテンの隙 間から射す柔らかだが力を感じさせる光が静 かに流れているのを見た。 私は窓辺に移動してカーテンを開けた。 およそ1キロはあるであろうか、遠くうかぶ 朝の…
苅田實 Weblog 詩と真実 - ひかりの静けさ
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- ドバトと私 苅田實 Weblog 詩と真実
- 年の暮れの三十一日、特別な日でもないの に朝の散歩の途中、自分の過去を振り返って みた。きっかけになったのは、昨日あたりか ら自家の周辺に数十羽の土鳩が飛来したこと による。 食べ物には事欠かない繁華街で生活してい た土鳩は年末年始の休みに対処して郊外の刈 田の落穂を狙って移動…
苅田實 Weblog 詩と真実 - ドバトと私
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- 老人の奇病 苅田實 Weblog 詩と真実
- 胃臓から押し出され、腐った肉襞をかけあがって吐き出される、声になろうとしてなれない呻き。その高齢の友人の呻き声を私は尋ねていった玄関のドアの隙間から聴いていた。 その老人は奇妙な病気にかかっていた。両の瞼は一日に数度落ち込み、いったん落ち込むと一時間はどんなにしても開かなくなる…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 老人の奇病
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- 夢なのか 苅田實 Weblog 詩と真実
- 悪い夢を生きているのだろうかふらりと家を出てゆく足も定まらぬまるで糸吊り人形のように水路沿いの道を歩く稲田が残る古い道だ川に架けられた鉄製の梯子が水面にくっきりと影を付け天空に上がる階段のようその影を渡れという空気の道か雲も見える空からの強い誘惑もある夢なのかとも思えず雲のちぎ…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 夢なのか
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- 芝生広場 苅田實 Weblog 詩と真実
- 草地に寝ころんだ 草の葉が 目前で葉先をとんがらせている そのとんがりが 幾つもいくつも続き 南アルプスの遥かな峰々となる 広場の針葉樹は一心に天空をめざす そして 現実は蒸発して水となった ああ、私は何処にいる、海の中、雲の中、 土と光と思念の中 静かに耐えてゆく 現代詩ラン…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 芝生広場
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- 風景に会いに行く 苅田實 Weblog 詩と真実
- その老人は「風景に会いにゆく」と言い残こして家を出た。が、開け放たれた玄関の奥には家人はいない。誰に声をかけたのか。今、老人が思うのは、無料食料配布所のことだけだ。そこでは、お米から野菜から調味料まで食べものが無料で手に入る。少しだが会話もある。その老人はここ二年、配布所のおか…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 風景に会いに行く
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- アサギマダラ追憶 苅田實 Weblog 詩と真実
- アサギマダラよ今、何処にいる沖縄の地かいまだひとりで暮らしているのかお前と出会ったのは去年の夏の終わりふる里蒜山の単独山行だった尾根筋をのぼるわたしの前にお前もひとりひらひらと迷い人のように降りてきた飯豊連峰を飛び立って南下してきたのかその距離千キロお前は疲れたようすだったフジ…
苅田實 Weblog 詩と真実 - アサギマダラ追憶
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- わが町の風景2 苅田實 Weblog 詩と真実
- わたしの住む町を歩いてみる近所の家も店も街路も干からびて静かだ車だけが亀裂の入ったアスファルトを通り抜ける人の出てこない住宅街もそっけなくただそこにある40年もこの町で暮らしたというのに思いは浅く、広がらない家の近くに遺失物のような稲田がある稲田に沿って用水がカーブを描いて流れ…
苅田實 Weblog 詩と真実 - わが町の風景2
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- わが町の風景 苅田實 Weblog 詩と真実
- 私の住んでいる町には、ほぼ中央あたりに 巨大な円形の稲田がある。住宅の浸出におか されつづけながらもいまだに収穫がおこなわ れているが誰もが気にもせず通り過ぎる。 無残とも思うそっけなさで刈り取られた切 株の連なり、そこから鋭く突き出た青い芽は そろって天へ天へと伸びている。切…
苅田實 Weblog 詩と真実 - わが町の風景
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- こんな肉体でも 苅田實 Weblog 詩と真実
- 転がしてでも 死の淵まで運ばにゃならぬ こんなに汚れた肉体ても きのう、仕事が切れた きょう、ハローワークに行った 《年齢不問》と求人票に書いてあるが 実はナナニまでよ 隣のボックスのメガネの老人が こっそり教えてくれた 俺はナナイチだ、まだいける 失礼だがあんたは ハチゼロに…
苅田實 Weblog 詩と真実 - こんな肉体でも
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- 黒銅色のカマキリ 苅田實 Weblog 詩と真実
- この秋隣家との境界にある鉄製の手摺に一匹のカマキリが来た振り上げたカマの先から後足まで全身が手摺と同じ黒銅色をしている大腿の伸びやかさ折りたたんだ羽根が鋼鉄のような輝きを放っている最初、カマキリを見たとき手摺に彫られた彫刻かと思ったカマキリと手摺の色がまったく同じだったからだ手…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 黒銅色のカマキリ
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- 老人が泣くのを見る 苅田實 Weblog 詩と真実
- 杉の古木が林立する山の斜面に一本の道が 谷に下るよう細ぼそと通じている。ゆく先に は大屋根をかぶった古寺が見える。独立した 本堂はなく庫裏と一体となったどこにでもあ る寺である。古木の間から見える寺は周囲の 清涼な空気をいっそう引き締めて厳かである。 そこへ降りてゆく我々四人は…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 老人が泣くのを見る
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- 老人の夢 苅田實 Weblog 詩と真実
- ひとり寝の老人はよく夢をみる その夢はほぼ明け方にやって来る 山の端がようやく明るくなる頃だが 町はまだ暗い 夢は、おぼろな町の風景を背後に 複数の男がからみながら歩いてくる ひとり寝の老人は画面の隅にいて夢を見ているのだが 得体の知れない不安に襲われる 彼らはひそひそと話し合…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 老人の夢
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- 猫背の老人 苅田實 Weblog 詩と真実
- そこ行く老人よ 落ちているものは何もない 先ほどやってきた大型清掃車が みんな持っていってしまった 子どもたちがアスファルトに描いた お姫さまもチューリップの花も 削り取られてなくなった そのアスファルトの下に 老人が念じた「希望」と言う字があったが これも擦り切れ変形してしま…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 猫背の老人
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- 若者と酔芙蓉と錢 苅田實 Weblog 詩と真実
- 酔芙蓉の花が盛んに活動している。朝、白色に開いた花が夕刻にはピンクに変化した。花びらは薄く大きく華やかである。 酔芙蓉の咲く小庭で萎む寸前の花頭を切り取ってバケツに浮かべている老人がいる。そこへごく普通の若者が通りかかった。 いま、流行っているらしい、やたらと錢を遣いたがる若者…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 若者と酔芙蓉と錢
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- 気の向くままに 苅田實 Weblog 詩と真実
- バスに乗って街に出て気の赴くままに歩いた岡山駅でおりると駅前商店街に入った一九六〇年代のロックな臭気が残る通りだ暖簾に昔がよみがえる左へゆくと必ず見上げた俳優の巨大な看板絵うまく描くなあ自家の窓を開けて鶏肉を並べた焼き鳥屋若い店員はいつも黒焦げに焼いた路地を抜けると「麻雀」の木…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 気の向くままに
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- 老人とコーヒー 苅田實 Weblog 詩と真実
- 一人の老人がコンビニのイート・イン のテーブルに腰かけてコンビニ・コーヒ ーを飲んでいる。 背後から見ているので美味そうな顔を しているのか、苦そうな顔をしているの か、分からない。一口飲んでは目をつむ る。顎あたりがぴくんとする。老人は淋 しそうだが楽しそうにも見える。 老人…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 老人とコーヒー
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- ホタルブクロの花 苅田實 Weblog 詩と真実
- オリーブに芙蓉、ツバキやサツキもある草木が入り乱れる我が家の小庭にホタルブクロが咲いたただ、ひと吊り暗い藪の中に静かに垂れている白色にほんのり紅がさしたような袋の花ホタルブクロが咲いたよベッドの妻に知らせた妻は起きあがってホタルブクロを見ることが出来るだろうか去年は咲かなかった…
苅田實 Weblog 詩と真実 - ホタルブクロの花
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- 恥辱 苅田實 Weblog 詩と真実
- 過去の恥ずかしい言動がなんでもないとき例えば自転車で曲がり角にさしかかったとき突然、脳裏を襲う「厭だ」、思わず声になるもう逃げるしかない何もかも捨てて、服も脱ぎ捨て走って走って恥ずかしい言動が悔恨と自虐になって波頭のように何度も何度も襲う苦しみぬいて もういっぱい脳が受付を拒否…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 恥辱
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- 締切り 苅田實 Weblog 詩と真実
- ひとは締切りがあるから生きている 締切りを果たした日 豊かなものを得てこころは歓ぶ あなたも 締切りに追われ 毎日を生きのびてきた だが、年老いて仕事がなくなると 締切りもなくなった 一日の始まりの朝、玄関に立って 茫漠とする 茫漠として許されている 歩かなくてよい、 電車に乗…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 締切り
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- 椿の実と詩 苅田實 Weblog 詩と真実
- 青黒く、固く卵のような丸みのあるもの椿の実十数個が河原の石のように寄り合い丸みをぶつけあい繭のように競っているわたしはじっと見るきのう採ってきて枕もとのテーブルにわたしは置いたきょう、二つ三つ実が裂けた四つ目から黒々と色をつけ椿の実は自ら変身して妙な風景を見せる米グランドキャニ…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 椿の実と詩
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- ツバキの実 苅田實 Weblog 詩と真実
- 部屋の机の上に採ってきた椿の実を置いた青黒い15、6個部屋の一角に出現した異形の空間丸く、固く、倒立した卵のような野兎の糞のような大小がよりそって群れをなす言い様のない空間が生まれたいくら言葉を重ねても言い表せないその成体は月の表面の未知のものとも北国のオーロラに浮かぶ山塊の連…
苅田實 Weblog 詩と真実 - ツバキの実
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- 旅の途中 苅田實 Weblog 詩と真実
- その男はいつも旅をしています空中を歩くような歩いた跡は空白です落下はしないどんづまりまでゆくが最後には救われるだって旅には明日があるんだからゆらゆらと旅の行先は不明ですその男はいつも独りで生きています独りでは寂しいでしょうそれがそうではないのです寂しい男なのに寂しさを感じない男…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 旅の途中
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- 沖縄のお婆(4) 苅田實 Weblog 詩と真実
- お婆が結びを喰っている。椅子に座って。表紙の破れた古い事典のほかは何もない机に結びひとつと味噌汁、前回食料品無償配布所でもらった楽しみのサバ缶が行儀よく並べられている。こうして独りだけの食事が始まる。 食べ物を並べた机と椅子は長女が小学校に上がるとき買ったものだ。だが、買ったの…
苅田實 Weblog 詩と真実 - 沖縄のお婆(4)
読み込み中 …