simulacrum hideous divinity
HIDEOUS DIVINITY / Simulacrum (2019)

1. Deleuzean Centuries
2. The Embalmer
3. Condense
4. Anamorphia Atto III
5. The Deaden Room
6. Actaeon
7. Bent Until Fracture
8. Seed Of Future Horror
9. Prey To A Vision
10. Implemini Exitio
11. Blood Of The Zodiac *
12. Cursed In Eternity *

HIDEOUS DIVINITYの2年振り、通算4枚目のアルバム、
Century Media Recordsからのリリース。

イタリア出身のブルータルデスメタルバンドです。
HOUR OF PENANCE人脈のイタリアンデスメタルファミリーの中では最もHoPに近いスタイルのブルータルデスを実践しているバンドであります。
デビュー当時から既にHoPにも匹敵するクオリティを備えたバンドでしたが、前作で更にメジャー感を高めた激烈な方向へとレベルアップ。遂には大手Century Mediaとの契約を勝ち取るまでになりました。
本作はCMと契約してから初のアルバムとなります。
作風としては後述する違いを考慮しても過去3作の延長にあります。
手数足数はメチャクチャ多くて速いのに1発1発がパワフルな化物ドラミングが中心にどっかり構え、確かなオールドスクールデスらしさを含みながらもより苛烈に高速回転するリフワークや芯の太いグロウルを加えて重量感を増幅させた魔人系ブルデスは今回もバチクソにクオリティが高いです。
今までの違いとして挙げられる点はデス/ブラック要素の増加。
以前からパワーで押し切るブルデスをやる一方で、冷気を帯びた高音オブリや纏わりつくように漂う黒々としたギターメロディなどを楽曲に組み込む姿勢を一部でみせていましたが、本作ではその"陰気ギターも大好きマン"な一面が俄然強まっています。ボートラでMAYHEMをカバーしているところにもそんなニュアンスの醸し出しを感じますね。
当然ながらこういう変化をすると成功パターンとスベるパターンがあるんですけど、嬉しいことに本作は成功パターン。
激烈であるが故の音のトゲや熱量は極力減らさずにデス/ブラック要素との融合が進んでいるため、持ち前の破壊力は保持したままにブルデス由来の業火の如く燃え滾る熱さとデス/ブラック由来のヒリついた冷たさによる体感温度のメリハリが効いていてとてもナイスゥなのです。
この作風の変化って実は親分のHoPが今年リリースした新譜でみせた変化とも全く同じなんだけど、激烈な中にデス/ブラック要素をアクセントとして垣間見せる手法は個人的にはHDのほうが巧みだと思いました。そもそもHOUR OF PENANCEがBEHEMOTHやBELPHEGORあたりを思わせるデス/ブラック要素を強めたのに対し、HDはそっち系統よりも無調でカオティックな暗黒デス/ブラック方面の要素を強めているという違いがあって、その違いからHDはHoPのようにメロディックな方向へ寄ることなくサウンドのおぞましさを高める結果に繋がっています。パッと聴いてキャッチーなのはHoPのほうかもしれませんが、安直でない高度な練り方をされているのはHDのほうだと僕は思いましたし、図らずも親分のHoPを"食った"形になっているなとも思いました。まさかこんなところで下克上が起きるとは誰が予想出来ただろうか。

メカニカルなストップ&ゴーを図太いヘヴィリフと絡めたキレのあるイントロ 〜 早口なグロウルと太い高速の刻みを怒涛のブラストビートに加えた#1。暗黒リフによるグルーヴパートやら単音リフの疾走など、爆走の熱量を冷まさずに変化に富んだ展開を盛り込んでいく良曲。
ゴリゴリに硬い刻みで爆走し、そのままの豪快さで爆裂にグルーヴしたり疾走のパターンをキレ重視に変えたりしていく#2。
#3はホーミーが響く30秒ほどのインタールード。
#4はデス/ブラック風のギターアクセントを盛り込んだ爆走ブルデスナンバー。グルーヴパートでの薄気味悪さはIMMOLATIONに通ずる部分があります。無調系のリフをタメながら叩きつける無慈悲なラストも良い。
#5はNILE的なリフワークと暗黒要素がぶつかり合った爆走ブルデスナンバー。
#6はいつも通りの脳筋な爆走ブルデス展開にブラック風の高音リフレインを加えた曲。中盤のギターソロを抜けてからは楽曲が一気にトーンダウンし、ブラックメタル感の強い荒涼としたスローパートで締め。
#7はグズグズと刻む爆走に時折暗黒フレーズを流し込むブルデスナンバー。
グワングワン反響するリフが爆裂ドラミングと絡むイントロの後、圧倒的な刻みで爆走しつつちょくちょく荘厳なトレモロがカットインしてくる#8。
悲哀強めなトレモロで幕を開ける#9は硬い刻みとバスドラをシンクロさせた圧の強い行進パートから黒々した爆走へ展開する曲。
本編ラストの#10は身の毛のよだつKeyからドゥーミーな演奏でドロリドロリと進め、中盤からデスメタルとしてのキレが加わってスピードアップしていく曲。ラストは宗教臭い雰囲気でスローダウンし、そのまま空虚に終了。あんなに暴れ回ったのに最後はあっけないという、"もののあはれ"を感じる幕引きです。
#11はボートラでMACHINE HEADのカバー。暗黒デス感が強まった仕上がりで非常に面白い。
#12はMAYHEMのカバー。こちらのほうが原曲に近い形でカバーしてますね。

ここ数年はHOUR OF PENANCEよりもこのHIDEOUS DIVINITYのほうが優れていると思います。
シンフォデス化したFLESHGOD APOCALYPSEに人気の面では圧倒的な差を付けられ、クオリティの面ではHDに追い越されつつある親分のHoPにそこはかとない哀愁を感じ、「あーおぶぺーんしゅがんばえー」と幼女の気持ちになって応援してしまいました。

評価:★★★★★