2018/12/15

第1回ゴールデンラズベリー作品賞受賞の”最低ミュージカル映画”・・・ほぼオリジナルのヴィレッジ・ピープル(Village People)とディスコファッションの”タイムカプセル”としての再評価?~「ミュージック・ミュージック/Can't Stop the Music」(1980)~


アカデミー賞の授賞式のシーズンになると、話題になるのが”ダメな映画”に捧げられるゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)なのですが・・・記念すべき第1回の作品賞を受賞したのが、ヴィレッジピープルが出演した「ミュージック・ミュージック/Can't Stop the Music」というミュージカル映画だったのであります。ヴィレッジピープルは1977年から1980年まで人気を博したゲイのコスプレをした音楽グループで、今になって振り返れば・・・LBGTの認知度を高めた功績があったと考えても良いのかもしれません。

ヴィレッジ・ピープルの最初のメンバーというのは、映画「ミュージック・ミュージック」の撮影直前までリードシンガーを務めていたヴィクター・ウィリス(警官役)で・・・数名の男性バックダンサーを率いてクラブでのパフォーマンスやテレビ番組の出演で、徐々に注目されたそうなのです。既に”リッチーファミリー”というグループで、アメリカ音楽界で成功を収めていたフランス人音楽プロデューサー/作詞作曲家(そして勿論ゲイ!)のジャック・モラリは「このコンセプトいける!」と、グループとして売り出すことを思いつきます。

偶然、グリニッチ・ヴィレッジでブーツに鈴をつけたインディアン風の格好をしていたフィリッペ・ローズ(インディアン役)を見かけたジャック・モラリは、メンバーにゲイのコスプレをさせることを思いついたそうです。こうして、リードボーカルにヴィクター・ウィリス、バックコーラスにインディアンのコスプレをしたフィリッペ・ローズというヴィレッジ・ピープルの原型が生まれます。さらに、ヴィクター・ウィリスの友人だったアレックス・ブレイリー(兵士)が参加・・・他に作業員役、カウボーイ役、レザーマン役の3名を加えて1977年にレコーディングが行なわれて、レコードレーベル”カサブランカ”からファーストアルバム「Village People」が発表されるのです。


しかし、後から加わった3名はブレーク前にクビ・・・すでに音楽界や演劇界でキャリアを積んでいた、デイヴィット・ホードー(作業員役)、ランディ・ジョーンズ(カウボーイ役)、グレン.ヒューズ(レザーマン役)と入れ替えが行なわれて、我々が知る”オリジナル”のヴィレッジ・ピープルが完成するのであります。当初、ターゲットとしていたゲイ市場からは、ゲイのイメージをおもしろおかしく茶化していると受け取られて、評判が芳しくなかったそうですが、翌年(1978年)のセカンドアルバム「Macho Man」がゲイ市場でヒット・・・続いて発表された「YMCA」を含んだサードアルバム「Cruisin'」では、より広い市場に受け入れられて大ブレークします。

日本では、西城秀樹の「YMCA」のカバー曲「ヤングマン」(1979年)が大ヒットして、ヴィレッジ・ピープルも知られる存在となるのですが・・・西城秀樹の爽やかなイメージを壊さないように、元歌はゲイのグループという事実は伏せた売り方だったのです。ベスト盤的なライブアルバムと新作アルバムの二枚組「Live & Sleazy」の制作中に、リードシンガーがヴィクター・ウィリス(ライブアルバム)からレイ・シンプソン(新作アルバム)に変更されるのですが、この頃から売り上げは下降気味・・・失速感が感じられるなか、大風呂敷を広げて制作されたのが本作「ミュージック・ミュージック」なのであります。


当時としては、そこそこの制作費(2000万ドル=当時のレートで50億円くらい)の70ミリ映画であったことや、前年「フェーム」を制作したアラン・カーがプロデュースしたということもあり、結構”大作”扱いで公開された(日本ではテアトル東京でロードショー)記憶があるのですが・・・日本では何を”売り”にしているかさえ分からないような宣伝がされてたのです。ヴィレッジピープルの”ゲイ要素”を取り除いて「ファミリー映画」として制作してしまった本作は、アメリカでも日本でも興行的には超大コケしてしまいます。まだCG効果技術が乏しかったためキラキラとした画面は安っぽくなってしまったし、スプリットスクリーンやストップモーションの使い方が古臭さく、1980年という時代性を感じさない仕上がりとなっています。


まず、本作の主役はヴィレッジ・ピープルではありません。スティーブ・グッテンバーグ演じるヴィレッジピープルの親となる作曲家のジャック・モラリを中心とした群像劇になっていて、ビレッジピープルは物語の”バックグラウンド”のような扱われ方です。当時スティーブ・グッテンバーグは新人(「ポリス・アカデミー」や「コクーン」のブレイク前)で、アメリカ的な能天気な明るさ、コメディセンスのある台詞まわし、妙にマッチョな体型のどれもがジャック・モラリというキャラクターには不要な要素で、何故キャスティングされたのか分かりません。ヴォーグ誌や広告で活躍している超売れっ子モデルのサマンサ(ヴァレリー・ペリン)の元ハウスシッターで、今は弟のような存在となっているルームメイト(恋愛要素一切なし)という設定が、そもそも無茶・・・その上、サマンサは体を張って(元カレのレコード会社社長を誘惑してまで)ジャックを売り込むのですから「二人の関係って何なの?」って話です。


自分の作曲した歌を発表するために集めたメンバーが、当時クリストファーストリート周辺のウエストヴィレッジに集まっていた(だからグループ名が”ヴィレッジピープル”)ゲイのコスプレをした”男たち”ということにも本作は特に触れることもなく・・・メンバーたち(特に作業員役のデイヴィット・ホードー)は、ほとんどストレートのような描かれ方だったりするのです。さすがに、レザーマン役のグレン・ヒューズがストレートと受け入れるには無理があると思うのですが・・・保守的なチャリティー好きのオバさま方も気付いていない様子だったりします。これって、ゲイを受け入れているのでなく、ゲイの存在自体が無視されているような印象です。


サマンサのロマンスの相手として登場する弁護士のロンを演じているのが、十種競技の金メダリスト(1976年のモントリオールオリンピック)として、鳴りもの入りで映画デビューしたブルース・ジェンナー(現‥ケイトリン・ジェンナー)というのが、今になってみれば貴重な映像となっています。元アスリートらしい筋肉隆々の姿を本作で披露しているのですが、サマンサとロンのロマンスはヒジョーに雑な扱われ方のハッピーエンディングなので、所詮は誰が演じていても変わりないような役柄・・・”ビーフケーキ”的な立ち位置で俳優業に進出しようという戦略だったのかもしれません。しかし、本作のコケっぷりと酷評もあり、その後、映画出演はなし(テレビドラマに1シーズンのみ出演あり)スポーツ番組のレポーターやクイズバラエティ番組の常連という”懐かしの人”となっていったのです・・・リアリティ番組「キーピング・アップ・ウィズ・ザ・カダーシアン(原題)/Keeping Up with the Kadashians」に出演するまでは。


2015年、テレビのインタビュー番組で性同一障害であることを告白して性転換・・・「ブルース・ジェンナー」から「ケイトリン・ジェンナー」になったことは衝撃的なニュースとして記憶に新しいところです。本人によると、最初の結婚(1972年)した時には既に性同一障害は自覚していたそうなのですが、それでも3度の結婚で実子だけで6人も授かっていたというのもビックリ。元々ハンサムな男性ではあったのですが・・・想像以上にきれいに女性化したのも驚きで、現在の姿は、でっかい”ジェシカ・ラング”(身長188cm!)みたいです。


本作はそもそも、ヴィレッジピープルが生まれるまでの過程を描く物語だったわけですが・・・事実に基づいたというのではなく、事実の断片をベースにオリジナルストーリーを創作したのかもしれません。インディアン役のフィリペ・ローズが最初のメンバーだったということ、兵士役のアレックス・ブレイリーは友達の友達というコネがあったこと、レザーマン役のグレン・ヒューズがデビューするまでトンネル料金係であったことなどは事実ようなのですが、それ以外の登場人物たち・・・ルームメイトでジャックのレコード契約を成立させるのに一役かったモデルのサマンサ、サマンサのモデルエージェントを務める社長の女性、サマンサの元カレのレコード会社の社長、そして、エンディングで大きなブレークとなるチャリティパーティーをオーガナイズするという弁護士ロンの母親など、実在しない人物ばかり本作には登場するのですから。まぁ、ファミリー向けを狙った本作で、ゲイのハッテン場(バスハウスなど)での、営業の”どさ回り時代”なんて描けるわけではないのは仕方ないですが。


どこまでも能天気な登場人物たちと呆れるほどのご都合主義の物語・・・テレビのシッコム(30分のコメディドラマ)レベルのギャグと台詞のやりとりは、極めて薄っぺらくて何も心に残らないのです。エンディングで歌われる本作の主題歌でもある「キャント・ストップ・ザ・ミュージック/Can't Stop the Music」は、さび部分が何度もリフレインされるいこともあり、映画の内容が頭に残ることがない分、耳にいつまでも残ってしまうのですが・・・これこそ、ジャック・モラリの才能と評価されるべきなのかもしれません。ほぼオリジナルのビレッジピープルのパフォーマンスの”タイムカプセル”としての意味・・・また、本作公開時には、ちょっと古臭く感じられたディスコファッションなどの風俗やニューヨークらしいベタな描写も、40年近く経った今見直してみると「こんな時代だったよね〜」と懐かしむことができるのです。


本作がコケた後、ヴィレッジピープルはかなり迷走(!)・・・レコード会社を”カサブランカ”から”RCA”に移籍して、1981年に発表された「ルネッサンス」というアルバムでは、ゲイのコスプレをあっさりと捨てて、ニューロマンティック路線に大変身を試みるものの大撃沈してしまいます。しかし(!)その後は再びゲイのコスプレ姿に戻り、メンバーを入れ替わりを何度も繰り返しながら、各地でのパフォーマンス活動を続けているのです。ただ、オリジナルメンバーを知っているボクの世代からすると、現在のヴィレッジピープルは”モノマネ芸人”としか思えない・・・という感じではありますが。


「ミュージック・ミュージック」
原題/Can't Stop the Music
1980年/アメリカ
監督 : ナンシー・ウォーカー
制作 : アラン・カー、ジャック・モラリ、アンリ・ペロロ
音楽 : ジャック・モラリ
出演 : スティーブ・グッテンバーグ、ヴァレリー・ペリン、ブルース・ジェンナー(現:ケイトリン・ジェンナー)、マリリン・ブレヒト、ポール・サンド、バーバラ・ラッシュ、ヴィレッジ・ピープル(フィリペ・ローズ、ランディ・ジョーンズ、デイヴィット・ホードー、レイ・シンプソン、アレックス・ブレイリー、グレン.ヒューズ)
1980年10月25日より日本劇場公開



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