2019/03/01

ニューヨークファッションウィーク期間中に最もバズったショーとなった日本人デザイナーのランウェイデビューコレクション・・・インスタグラム時代のインスタントサクセス!〜「TOMO KOIZUMI」2019~20年秋冬コレクション〜


インスタント・サクセス(Instant Success)という言葉があります。日本語の”インスタント”から”容易く成功する”と解釈されてしまいそうなのですが、本来の意味は「地道な努力の結果に、たちまち成功をする」であります。まさに、この”インスタント・サクセス”となったのが、初のランウェイコレクションをニューヨークファッションウィークに開催した日本人デザイナー小泉智貴氏(ブランド名は「TOMO KOIZUMI」)です。

一年ほど前から彼のinstagamをフォローしているのですが、デビューコレクションがニューヨークという離れ業で、世界的なメディア各紙で高く評価される快挙に(他人事ながら)ヒジョーに興奮しています。小泉氏は1988年4月7日生まれということなので、まだ30歳!・・・あの川久保玲氏でさえ、海外(パリ)で初めてショーを開催したのは38歳なのですから「なんたって若い」です。

幼少期から母親の影響でファッショには興味を持っていたという小泉氏・・・14歳のときにジョン・ガリアーノによるディオールのクチュールコレクションに魅せられて、クリスマスに買ってもらったミシンで独学で縫製を始めたとのこと。高校時代には、文化祭でファッションショーを企画したり、デザインコンテストに入賞・・・進学した千葉大学ではファッション系のサークルに所属して、年数回ショーや展示会を開催して作品を発表しながら、スタイリスト北村道子氏などの手伝いも経験しています。

ゲイパーティーのイベンター「fancyHIM(ファンシーヒム)」のスタッフを務めていた小泉氏・・・大学4年生の時、自作の服を友人に着せた姿がスナップサイト「Droptokyo」に掲載された写真がきっかけで、都内セレクトショップの「ザナドゥ・トウキョウ(Xanadu Tokyo)」と「ガーター(Garter)」で取り扱われることになり、在学中に「TOMO KOIZUMI」という名前でブランドを立ち上げます。

2011年合同展示会@GARTER 

デザイナーになるか?スタイリストになるか?進路に悩んでいた時期もあったようですが・・・Perfumeの衣装デザインをする機会にも恵まれたことや、師である北村道子氏からのアドバイスもあり、服作りを突き詰めていくことを決心したらしいです。


ただ当時は、仕事よりも恋愛(ラバーズ・ストーリー)を優先するところもあったようで・・・大学卒業後は、結婚の約束をしていたグラフィックデザイナーの”彼氏”と一緒に暮らすため、オーストラリア(シドニー)へ行く計画をしていたといいます。「どれほどオーストラリアに滞在したのか?」「語学留学だったのか?」は分かりませんが・・・instagamのコメントを英語で投稿することも自然にできているので、短い期間であっても”生”の英語に接した経験は無駄にはなっていないようです。

その後、その”彼氏”さんとどうなったのかは知る由もありませんが・・・しばらくして(?)日本に戻ってきたようで、多くの芸能人/アーティスト(加藤ミリヤ、BENI、富永愛、水原希子、夏木マリ、小柳ゆき、浜田ぱみゅぱみゅなどなど)のスタリングや衣装制作に携わっていきます。


衣装の仕事をしながら、ミニコレクション(2013年春夏/Minerals)を発表したり、TOKYO GIRLS COLLECTION(2014年)に参加。プレタとしての「TOMO KOIZUMI」ラインも継続されていたようですし、「GINZA」「装苑」やなどで注目のデザイナーとして取り上げられています。

2013年春夏コレクション「MINERALS」

「GINZA」2012年12月号

「装苑」2013年1月号

「フェミニン」「ネオンカラー」「コルセット」という特徴はあったものの、この頃は突き抜けたオリジナリティーを発揮するまでには至っていないような印象なのですが・・・2015年くらい(?)から発表し始めた「ふわふわシリーズ」というポリエステルオーガンザのラッフルを何層に重ねたドレスが、小泉氏のシグニチャーとなっていくのです。


2016年3月、ブロックハウスギャラリーで発表された”Ballet”と名付けられたコレクションが転機となり、今回のニューヨークデビューへと繋がっていきます。

2016年秋冬コレクション「BALLET」

2016年のレディー・ガガ来日の際、面白いデザイナーを探していると聞きつけて、音楽関係者の友人を介して”Ballet”のメインルックを届けてみたところ・・・若者に投票を訴えるメッセージを発信した時にこのドレスを着てくれて、その姿がSNSで世界へ拡散されます。


レディー・ガガが着たドレスのデザイナーとして知られるようになったことが関係しているのかは分かりませんが・・・ドリカム、木村カエラ、YUKI、ノースリーブス、芳村真理など衣装を提供する芸能人/アーティストも”有名どころ”が増えていきます。



さらに、サロン・ド・ショコラのショーの衣装を制作したり、装苑の80周年記念号で歴代の表紙をプリントした生地でドレス制作をしたり、新宿伊勢丹のショウウィンドウを飾ったり、東京メディアセンターや文化服装学園で展覧会を開催したりと、順調にキャリアを積んでいくのです。

2016年1月/サロン・デュ・ショコラ

「装苑」2016年12月号

2017年10月/伊勢丹ショウウィンドウ

2018年4月/東京メディアセンター

そんな時・・・プラダやミュウミュウのショーのスタイリングで知られるアメリカの有名スタイリストのケイティ・グランド(Katie Grand)の目に留まることになります。

イギリスのファッションデザイナー/ジャイルズ・ディーコン(Giles Deacon)が投稿した「TOMO KOIZUMI」のラッフルドレスを、ケイティ・グランドが見て自分の雑誌「LOVE」で撮影・・・その後、小泉氏のinstagamで他のドレスも見て、すぐさま一緒にショーを開催することを打診(ショー開催の4週間前!)したそうです。ケイティの友人であるマーク・ジェコブス(Marc Jacobs)と彼のアシスタントが全面協力して、24時間以内にはメイクやヘアスタイリスト、出演する有名モデルたち、靴の提供やファッションサービスエージェンシー(KCD)まで手配(それもギャラなし!)してしまったというのですから、ニューヨークファッション界の重鎮である二人が、今回のデビューコレクションを実現させたといっても過言ではありません。

ニューヨークファッションウィークの期間中である2月8日・・・「TOMO KOIZUMI」の初のランウェイコレクションは、マジソン街にあるマーク・ジェコブスの旗艦店にある長い階段を降りて(モデル泣かせ〜!)フロアをぐるりと廻るランウェイが設けられた会場で開催されました。


「TOMO KOIZUMI」の集大成的なアーカイブ28点で構成された10分程度のミニコレクションには、ショーの前からWWDなどの業界紙が注目して取材。多くのメディアや観客が押し寄せて、スタンディングオベーションで幕を下ろし、ニューヨークファッションウィーク期間中、最もバズったランウェイショーとなったのです。

メイク(パット・マクグラス/Pat McGarthが担当)も、ヘアスタイル(グイド・パラオ/Guido Palauが担当)も、ネイル(ジン・スーン/Jin Sonが担当)も、シンプルにまとめられており、渋めのBGMと相まって、キッチュな”大人服”に昇華させているように感じます。

ハンドメイドの域を出ていないところも見受けられるので、ショーの見せ方を間違えばチープなコスチュームとして受け止められたかもしれません。カラーバリエーションの豊富なポリエステルオーガンジー生地による大量のラッフルの”カラフルさ”や”シルエットの面白さ”は「インスタ映えするキッチュ」「わかりやすいアヴァンギャルド」であり・・・「ファッションの歴史を知らないなら新鮮」であります。第一線で毎シーズンコレクションを発表しているトップの”ファッションデザイナー”と同列で語るレベル(技術的にもクリエイティビティに於いても)にはありません。

商業主義とクラブファッションという両極端のイメージがあるニューヨークファッションシーンですが、王道は「大人の女性」向けファッションです。クチュール風の演出は、ニューヨークファッションを熟知するケイティとマーク二人のアドバイスだったのでしょうか?もし同じショーが東京で行なわれていたらば・・・単に”尖った”クラブイベントで終わっていたかもしれないのですから。

本来ラッフルには、クチュールのテクニックが凝縮されています。近年では、パリのオートクチュールで活動するイタリア人デザイナー/ジャンパティスタ・ヴァリ(Giambattista Valli)が、クチュール的な繊細さと先端的な縫製を駆使したラッフルを何層も重ねた豪華絢爛なイブニングドレスを発表し続けています。


袖、襟、裾などの部分使いやスカートなど、ボリューム感を演出することの多いラッフルですが・・・アヴァンギャルドな使われ方されることもあります。2000年の秋冬に、フセイン・チャラハン(Hussein Chalayan)とジュンヤ・ワタナベ・コム・デ・ギャルソン(Junya Watanabe Comme des Garçons)が発表したコレクションは、ラッフルの可能性を広げる創造性に溢れていたのは、ボクの世代には記憶に新しいことです。



デビューコレクションを、クチュリエ(高級仕立て服職人)やクリエイティブなトップデザイナーと比較するのは少々酷かもしれませんが、現時点では「服」として、あまりにも稚拙(ステージ衣装としては完成度は高いですが)・・・今後は縫製やパターンの技術だけでなく、素材や造形に於いても創造性を発揮して「ラッフルの一発屋」を超越する世界を表現して欲しいものです。

数シーズン前から、ボリューム感のある服、多色の組み合わせや柄オン柄などのマルチカラー、デコラティブなディテールなど・・・トレンドがエクストリームな方向へ再び移行しているタイミングも「TOMO KOIZUMI」には追い風になったのかもしれません。ショー開催に協力したマーク・ジェコブス自身のコレクションでも、エクストリームなボリューム感やラッフルは、今シーズンの重要な要素になっています。

トレンドという観点では”ベストタイミング”で世界デビューを果たした「TOMO KOIZUMI」の次の一歩は、何なのでしょうか?「WWD JAPAN」紙では、海外セレクトショップでの取扱い開始とプレタラインの始動を示唆しています。(日本国内の市場で既製服のビジネスとして評価されるのは難しいと思うので正しい方向性?)

イギリスのリバティ百貨店(Liberty)、ネッタポルテ(Net-A Porte)、ハーヴェイ・ニコルズ(Harvey Michols)、セルフリッジ(Selfridge's)、アメリカのドーバーストリートマーケット(DSM)、香港のジョイス(Joyce)などから、既にアポイントメントが入っており、本格的なファーストコレクションは、パリで発表するようにというアドバイスを受けたそうです。

また、今回発表されたデビューコレクションを、市場向けに落とし込むことも始めているそうなので、ウェアブルなプレタラインも近々発表されるのかもしれません。イベントに出席するセレブやプロモーションビデオへの貸し出し依頼も多数あるようですし、今年5月のメットガラ(Met Gala)で着用するドレスの制作依頼もあったということなので、衣装としてのカスタムオーダーや貸し出しは今後増えそうであります。

大学卒業時には”ラバーズ・ストーリー”を優先して”彼氏のために”オーストラリアに移住したこともある小泉氏なのですから・・・「ラッフルの一発屋」で終わらないためにも、自分自身のため(日本の居心地の良さや仲間に執着せず)世界へ飛躍して欲しいと思います。


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2 件のコメント:

  1. 的確な分析に同感です。いま話題になっているデザイナーのことよくわかりました。

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  2. この人、ラッフルだけで、いつまでもつんですかね?NHKワールドジャパン、となりのプロフェッショナル、最近テレビでているけど、何がなんでも彼を世界的デザイナーとして認知させたいんですかね。
    MISIAのドレス、明るいところで見ると、スプレーを吹き付けただけの安っぽさがすごいし、京都のホテルコラボのアフタヌーンティーもひどかったし、東京のホテルコラボのツリーはもちろん◯ ◯の一つ覚えのラッフル。一発屋芸人のネタの繰り返しと同じです。
    LVHM上層部に彼を推したい人がいるんだろうけど、それでもコラボ相手にあてがわれるLVMHブランドはマークジェイコブス、プッチ。ヴィトン、ディオールはあてがってもらえない。ラッフルつけただけの、日本限定のマークのバッグもひどかった。
    あぶく銭を稼げるうちに稼いでおこうという魂胆なんですかね。

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