私の夫は、美意識が高い。これは、知り合った頃からそうであった。

20代の頃、私は自分の会社から出向を言われて、同じ市内にある取引先に行った。そこに勤めていたのが夫だった。当時の夫は派手目なシャツにブランドネクタイを身にまとい、流行りのCalvin Kleinの香りを漂わせ、田舎の会社に明らかに異質の存在だった。

余り乗り気で無かった私を強引にボードに誘ってきた事がきっかけで、あれよあれよと付き合うようになったのだけど、何故、そんな男が地味な私に寄ってきたのかは未だに謎だけれど、食の好みだけはとにかく合った。そこだけが唯一の共通点だった。


何だかんだあって、夫と知り合ってから、20年以上が経った。


そんな男も今は3人の子持ちの中年となったが、相変わらず美意識だけは高い。体型維持のためにジム通いと週末のランニングは欠かさないし、「いつ誰に見られても恥ずかしくないように。」と背筋をピンと張って歩く。

そして、ランニング用の靴だの、ジム用の靴だの、夫の靴だけで下駄箱一つは全て埋まる。その靴の消臭をするために乾燥機は2台、消臭剤は3種類。トレーニングウェアを洗濯する時は、専用柔軟剤と香りのビーズを使用。何なら、いつぞや巷で気持ち悪いと揶揄された「デオコおじさん」の一人でもある。

夫の愛用する時計は、その手の人に人気のガーミン。ガーミンは自分の心拍数や移動距離や時速を測れるだけでなく、登録者のデータを閲覧できたり、分野別でのランキングを閲覧できるソーシャル機能も付いている。
夫はこのランキングの上位を取るために必死で走ったり、歩いたり、忙しい。連休中は、10キロのランニングに加え、10キロのウォーキングもこなしていた。同年代の運動量としては、上位1%に入ると嬉しそうに言っている。

一方、私は仕事柄、毎日地蔵のように座って過ごす。運動以前の問題だ。当然のように夫からは体型についてうるさく言われ、夫とはかなりの体型格差が出ている。美意識高い奥さんに、ぽっちゃり旦那さんという組み合わせはよくいるが、我が家は逆。想像して欲しい。その滑稽さを。

そして、良い体の人あるあるで、夫は、ピタッとした服を着たがる。且つ、ド派手なウェアで走るものだから目立つ目立つ。


「凄いスタイルの良い人がいると思ったら、まこちゃんの旦那さんだった。」


「足が長くてびっくりした。」


「通勤途中をお見かけしたけど、本当に姿勢が良いよね。」


「走ってるの見たよ。」


「着てる服がピタッとしてるよね。」


「何の為にそこまで頑張るの?女がいるの?」


と、ご近所に惜しげもなく美ボディを披露し、何なら憶測まで呼ぶおじさん。貯蓄が趣味みたいな私とはまるで方向性が違う生き物。

人生も後半戦。昔は、何なんだあいつは?と思っていたが、元気に生きる夫を見る目が微笑ましくなる私である。美意識高い奥さん持つ旦那さん達もそんな気持ちなのかもしれない。家族が健康なのは良い事だ。