日暮れに処刑の太鼓が鳴る ★★★★☆

 サカモラス国という南米系の架空の国へ出張に出かけていた刑事が、革命軍によって殺人の罪を着せられた現地の兄妹を救うために奔走する話。

 

 アイリッシュの小説って無実の罪を晴らすために奔走する話が多いですね。

 この物語では事件解決までに時間制限があって、『走れメロス』のような展開が熱いです。

 

 主人公の刑事が現地でちょっと関わっただけの兄妹を抜群の行動力で救うイケメンに描かれている反面、敵側の革命軍の人たちが愚かに描かれ過ぎているかなとは感じました。

 でも、確かに刑事はめちゃくちゃナイスタフガイで格好良かったですが。いかにもアメリカ的ヒーローで。

 

 犯行の時間トリックも今だとありがちかもしれませんが、当時はなかなか斬新だったのではないかなと思います。

 

死ぬには惜しい日 ★★★★★

 これもめちゃくちゃ悲しい。この本の収録作品の中でたぶん一番悲しい作品。

 

 自殺志願者の女性がひょんなことから一人の男性と出会い意気投合。二人は急速に惹かれ合うが・・・という話。

 

 正直、ストーリー的にはオチも含めてよくある感じなのですが、描かれ方が巧みでものすごくせつない。

 ラストもこうなるのは予想できるんだけど、そこの描写がもう本当に悲しくて読後にしばらくへこみました・・・。

 

妻が消える日 ★★★★☆

 些細な夫婦喧嘩がきっかけで新婚の妻が家出した。そしてそれ以来妻の消息は途絶えてしまう。心配になった夫は妻を探すが、帰宅すると自宅の周りを警察が張り込んでいて・・・という話。

 

 殺人の罪を着せられた男が刑事と真相を究明するバディもの。なかなかハラハラする展開でおもしろい。この間一髪で間に合う感じ、緊迫感があってたまらないですね。

 

 ラストはハッピーエンド!・・・なんだけど、お母さんが無残に殺されているのでめでたしめでたしとはいかない後味の悪さも少し。

 

総評 ★★★★☆

 ウィリアム・アイリッシュのミステリ短編集。

 アイリッシュの作品に登場する刑事はみんな有能でかっこいいので好きです。アメリカ的なタフガイ感がある。イケメン。

 

 ストーリーも伏線がちゃんと張られていて、緊迫感のある展開なので最後までダレずに楽しめます。

 どの収録作品も一定以上のおもしろさがあるので、どれもオススメです。

 

 

コカイン ★★★☆☆

 麻薬を盛られ意識を失っているうちに殺人の罪を着せられた男が、刑事の義兄と共に無実を証明しようと奮闘する話。

 

 義兄が刑事って頼もしいけど若干怖いな。ちょっと圧強めだから余計に。

 義兄にしたら無職で隙が多くてドジ踏むタイプの義弟というのもいささか面倒だろうけど、なんとか無実の手がかりを掴もうと頑張ってくれているんだから、すごくいい人なんだろうけど。

 

 最後のやり取りが海外ドラマっぽいウィットで好き。

 

夜があばく ★★★★★

 これは悲しい。ドラマティックなサスペンス。

 夜、不審に出歩く妻を探して街に出た男が、ある悲しい事実に出会ってしまう物語。

 

 奥さんももともとこういう人だったわけではなくて、おそらく事故の後遺症で・・・ということだから余計に悲しいですね。

 ラストがあまりに救いのなさすぎるバッド・エンド。いや、奥さんはあそこで死ねてむしろ良かったのかもしれないけれど。

 

 最初は奥さんに対して同情的で気遣う様子だった男が、奥さんの秘密を知ってしまううちに彼女に対して冷たく厳しい態度になっていく様が悲しくて印象的でした。

 

葬式 ★★★☆☆

 追い詰められた犯罪者が隠れた場所とは・・・という話。

 

 これはわりとよくある感じのストーリーかな。隠れ場所も含めて。

 ちゃんと伏線も張られているのがいい。

★★★★☆

 

 Switchでダウンロードソフトとして発売したミステリAVG『アルタイル号の殺人』についてのレビューです。

 

 あらすじは、木星の衛星カリストにある研究基地「シオン・フロンティア」の爆発から一年。貴重な研究成果の残骸を回収するため派遣された宇宙船「アルタイル号」は、周辺のデブリの中に漂っている冷凍カプセルとそれに寄り添うようにしがみつく少女型アンドロイドを発見する。

 その後、冷凍カプセルに入っていたと思われる未知の生命体が逃げ出し、直後に乗組員が何者かに殺害されてしまう。

 アルタイル号のAIである主人公は、アンドロイド「フレム」を操作し、船内の事件を解決に導こうとするが・・・という話。

 

 途中途中で選択肢や調べる箇所が出てきてプレイヤーはそれらを選びながら進めていくスタイルですが、ゲーム的な操作ができる箇所はあまりなく、ほぼテキストを読んでいるだけの一本道のゲームです。が、シチュエーションやキャラクターも良く、先が気になるストーリーで約千円というお値段を鑑みるとわりと楽しめました。

 宇宙船に謎の生命体が侵入して人が死んでいくという展開はSFミステリとしてはベタ中のベタですけど、やっぱりこういうシチュエーションはワクワクするので個人的には大好物です。

 

 ストーリーを進めていくとしばらくは何も起こらないのですが、第一の殺人が起きた辺りからの緊迫感がいいですね。被害者もわりと主人公的なポジションだろと普通思うような人物がいきなり殺されているので意外性がありました。

 

 殺人自体は全部で二回起こりますが、どの殺人トリックもやや雑というか、「これ本当にそんなうまくいくのか?」的な大雑把さがありました。宇宙環境ならではのトリックが使われているのは良かったですが。あの船内環境で本当にそうなるのかというのを実際に検証してみたくなります。

 

 ひとつ唸った箇所といえば、第一殺人の一枚絵が、初見と真相がわかった後に見た時とでは、印象がまったく180度変わるのはすごくおもしろいなと思いました。ここは本当すごい演出だなと。

 

 ちょっと残念だったのは「触る」コマンドが実質キャラとイチャイチャするためだけのコマンドでしかなかったことかな。せっかくのミステリジャンルなんだから、たとえば脱出ゲームパートみたいなのを設けていろいろ触りながら謎解きできればよかったのに。

 実際は「触る」コマンドが謎解きに関わることはほとんどなくて、キャラに触った時の反応が無駄に何パターンもあるおかげでいちいち数回「触る」コマンドを押さなくてはならないのが面倒でした。スルーしとけばいいんでしょうけど、もしかしたら何かあるのかもしれなかったので。

 

 結末はいちおうハッピーエンドでいい終わり方をしているのでまあまあスッキリなんですが、大事な人が殺されてたり、これから残されたメンバーにもそれなりの苦境が待っているような気がするので万事解決とは言い難いかな。でも、いろいろモヤモヤは残りつつも現状ではこれが最善かもしれませんね。

 エンディングのスタッフロールがあっさりしてたのが少し残念。でも全体的にはわりと楽しめました。

 

 

華胥 ★★★★☆

 これ、ジャンル的にはミステリですよね。十二国記でミステリっておもしろいなと思いながら読んでいました。

 才の国は今までちらっと出ているだけで国の内情はあまりわかっていなかったのですが、このような苦難の歴史があったのですね。

 

 責めることは誰でもできるけど、実際に自分がやるとなると難しいというのは本当その通りで、なかなかに考えさせられる内容でした。最後は残された登場人物がみんな心に痛みを抱えつつも、まだ希望はあり再生はできるという終わり方で余韻が残りますね。

 

帰山 ★★★★★

 柳の国で久しぶりの再会を果たした二人の男、風漢と利広。彼らは柳の国の雲行きの怪しさを語り合うが・・・という話。

 

 長く国々の行方を見てきた国政にかかわる二人が国の終わりを語るというシチュエーションがおもしろいです。なかなか怖い話でもありますが。

 

 実はこれまで登場した十二国のうち現状国をまあまあ維持できている中で、私が一番終わりを想像できそうなのが雁なんですよね。本当にこの話で語られているような終わり方しそう。

 雁は延王も延麒もめちゃくちゃ有能だしりっぱな人物だけど、延王が突然王でいることに飽きて国を壊滅させて延麒を失道させて自分も死ぬっていう、そういう未来がなんか見える危うさもあるんですよね。ゼロから興した国をまたゼロに戻すみたいな。

 一応この物語の中ではそういう未来も見越してやんわり否定もされていたけど、ちょっと怖いなーって。

 

 奏はどうかなー。この話で語られていた終わり方もしそうといえばしそうだけど、案外別の終わり方もしそう。

 しかし、自分たちにはもう前例がないというのは想像以上に怖いことだろうな。今がほぼ順調だから余計に。

 雁も奏も好きな国なので、終わりは必ず来るとはいえ、登場人物が笑っているのをずっと見ていたいです。

 

 十二国の中で今一番ミステリアスなのは柳かなぁ。一体どうなっているのだろう。

 いつか柳を舞台にした新作を読んでみたいです。

 

総評 ★★★★★

 十二国シリーズの現在二冊出ている短編集のうちの一冊です。

 どの話も短いのでさくっと読めるし、おもしろいのでおすすめ。

 

 長編ではあまり語られていなかった国の様子もうかがい知ることができるので、ファンの方ならぜひ。

 

 

冬栄 ★★★★★

 戴での暮らしをスタートさせた驍宗と泰麒。泰麒はかつてお世話になった廉麟にお礼を言うために漣国を訪れるのだが・・・という話。

 

 なんだろう・・・泰麒が驍宗様に抱っこされて景色を眺めている挿絵を見ると泣けてくる・・・!

 

 これまであまり内情が描かれる機会がなかった漣国の様子がわかる貴重な短編です。

 読んでいてかなりゆるい雰囲気に笑いました。南国のおおらかさってやつでしょうか。漣国おもしろい。

 

 慶の陽子って周囲の理解ない人たちによく「慣例や官をないがしろにしてる」って怒られてるけど、廉王はそれ以上に型破りだと思うわ。(笑) 泰麒だったからまだよかったけど、他国の賓客にあの対応は無礼すぎて笑う。

 いや、めちゃくちゃ良い人だし、人格者だと思いますよ、廉王。キャラクター的にはかなり好き。

 でも、ぶっちゃけあまり王には向いてない人なのかなという危うさを感じますね。あの性格がうまくハマればいいんでしょうけど・・・。廉麟もしとやかな人なので、廉王、廉麟、泰麒のまったりした交流がとてもなごみました。

 

乗月 ★★★★★

 読んでいて感じたんですが、月渓と仲韃って性格がかなり似ていますよね。

 自分の作ったマイルールにやたら厳しくて、それで周囲が困惑しているのにかまわずに自分の中の決め事を押し通そうとするところが。

 もちろん、一方は人望のある侯で一方は討たれた愚王と方向性はまったく違うんですけど、根本的な性格に同じ性質を持つ同士というのが皮肉的だなと思いました。

 

 月渓の心理を丁寧に紐解いていく内容でしたね。祥瓊と月渓、お互いが許されていく物語でした。

 

書簡 ★★★★★

 楽俊と陽子の往復書簡。餌が銀の粒というぜいたくな鳥がかわいい。

 

 王の仕事に追われる陽子と大学で必死に勉学に食らいついていかないといけない楽俊。どちらも本当は苦労が絶えないはずなのに、お互いが「自分はなんとかやれている」と告げる。そして、その "嘘" をお互いがわかっている。

 このなんともいえない二人の信頼関係と気遣いが胸にせまりました。

 

 将来はぜひ官吏として楽俊には陽子のそばにいてほしいと思うのですが、そのあたりまで書かれるか読者の想像に委ねられるのかはお楽しみというところでしょうかね。