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 なんでも、当時の探偵小説では書斎で死体が発見されるというのが「あるある」らしい。クリスティがそのあるあるネタにあえて挑んで書いたのがこの『書斎の死体』らしいのですが、ミス・マープルシリーズの第一作めの『牧師館の殺人』がすでに"書斎の死体"ものなんだよなぁ・・・。

 『牧師館の殺人』では書斎で大佐の死体が発見されたという冒頭なのですが、こちらの『書斎の死体』では、大佐の書斎で死体が発見されるというシチュエーションなのが若干ややこしい。

 

 一作めの『牧師館の殺人』もけっこうおもしろかったけど、こちらの『書斎の死体』はすごくおもしろかったですね。物語に引き込まれて先が気になってぐいぐい読めました。

 登場人物の設定が良かったからかな。キー・パーソンの足が不自由な富豪の老人コンウェイ・ジェファースン氏がとても存在感のある印象的な人物で、彼を取り巻く血の繋がらない家族の建前と本音を両面合わせ持つ心理描写もおもしろかったです。

 

 ミス・マープルの推理も『牧師館の殺人』以上に冴えわたっていましたね。自分の屋敷で死体が発見されてはしゃぐバントリー夫人が実は苦境に立たされていることや、頑健な精神力を持つジェファースン氏の心の弱いところを見抜いたその鋭い観察眼と洞察力。肉体的・精神的なタフガイであるジェファースン氏もミス・マープルに言わせるとただの寂しい男でしかなかったのは、ミス・マープル容赦ないな・・・というかちょっと怖かったですね。

 

 バントリー夫人といえば、朝起きたらメイドに書斎に死体があると報告されたバントリー夫婦の様子がシュールで笑えました。

 あと、 アガサ・クリスティのサイン持ってるよと自慢する男の子好き。

 

 真相についていえば、バントリー大佐の書斎に死体があった理由づけの部分がちょっと無茶かなという気がしましたが。人物相関図やキャラが立っていておもしろい作品でした。