Case 1. 突然の頭痛で来院した中年男性 12 合併症を回避しえたか | ある脳外科医のぼやき

ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」

急性期のコイル塞栓術に伴う血栓症を防ぎえたかというと、

防ぐことは可能だったと思います。

 

しかし、そのためには治療前からの強力な抗血小板薬の投与が必要でした。

コイルを詰める段階にはそれらの薬が既に十分に効いている状態にしなければならないため、

通常内服量の数倍量を投与するということが行われます。

 

この抗血小板剤の治療前ローディングに関しては、

破裂急性期にも関わらずステントを使用する脳動脈瘤コイル塞栓術では必須と考えられています。

 

ただ、一方で、

ステントを用いない場合については、一般的ではありません。

それは、抗血小板剤を投与するということで再出血リスクを高めると考えられているからです。

 

実際には抗血小板剤を投与したからといって、

一旦出血した動脈瘤が再出血するかというと、それはわかりません。

ただ、出血が起きた時にそれが重症化する方向に悪影響を及ぼすことはまず間違いないと考えられています。

 

動脈瘤の治療前の段階では、まだいつ動脈瘤が再破裂するかわからない状況ですので、

抗血小板剤を治療前から投与することが正しいか否かは結論は出ていません。

 

しかも、現在日本で脳領域に使用できる抗血小板剤には即効性と確実性を兼ね備えたものがないので、

2種類以上の薬を通常量の2-4倍投与して、

数時間経過してもほとんど効いていない、ということも十分にあり得るのです。

 

心臓領域で使用可能な抗血小板剤に即効性と確実性を兼ね備えた、プラスグレル、という薬剤があるので、

これを使用すればいいのですが、脳領域ではこれは保険適応外、となっています。

 

話は元にもどりますが、

もしこの男性の場合も、治療前からアスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板剤が十分に投与されて効果を発揮していれば、

きっと前脈絡叢動脈領域の脳梗塞は起きなかったでしょう。

しかしその場合には治療完遂前の再出血時のリスクが高まることを覚悟しなければなりません。

再出血時に止血がただちに出来ない状態だと、命が失われることが多いからです。

 

治療中での抗血小板剤投与でも防ぎえたかというと、

従来の脳領域で使用するアスピリンやクロピドグレルなどでは治療中に投与したとしても、効果が得られるまでに脳梗塞が完成してしまったでしょう。

ただし、即効性のあるプラスグレルを投与することができれば脳梗塞を防ぎえたかもしれません。

 

実際にはコイルを塞栓した時点では問題なく前脈絡叢動脈は見えていましたし、

その起始部周囲の血栓も治療中の撮影では認めなかったので、その時点で抗血小板剤を急速投与するかどうかは議論があるところだと思いますが、結果から考えると、ある程度塞栓が行えた時点で早く投与すべきだったのかもしれません。

しかし、その場合には保険適応外のプラスグレルが必要です。

 

プラスグレルが脳領域で保険適応外となっているのは、

脳出血などを引き起こすリスクが看過できないということで、危険という扱いをされているからです。

 

つまり、この方の脳梗塞については、

1.治療前に、十分な時間的猶予を持ったうえで、再破裂リスクを踏まえた上で従来の抗血小板剤を投与する

2.保険適応外のプラスグレルを治療直前もしくは治療中に投与する

の2つのいずれかで防ぎえたとは考えられるのですが、

 

1については、再出血による死亡リスクが高まる可能性があり、是非の判断は難しいこと、

2については、国内では保険適応外の薬剤を使うことは基本的には推奨されることではないうえに、使用して何らかの合併症が出た場合には、医師および医療機関の責任は重くなる場合が多い、

という2点があるので、現実には防ぐことが難しい脳梗塞だったということになります。

 

ただ、しかし、2についてはこれはあくまで日本での制度上の問題、保険適応の問題なので、

海外などでこの薬が脳領域でも一般的に用いられていることを考えると、

なんとも歯がゆい思いがするのは事実です。

 

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