詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

安倍インタビュー(院政の始まり)

2020-09-18 09:34:33 | 自民党憲法改正草案を読む
安倍インタビュー(院政の始まり)
   自民党憲法改正草案を読む/番外396 (情報の読み方)

 2020年09月17日の読売新聞(西部版・14版)の1面のトップに安倍のインタビュー記事。見出しは2本。(番号は、私がつけた。)

①衆参同日選「常に頭」
②外交特使 菅氏に協力

 何とも奇妙な見出しである。
 ①は回顧、②は展望である。
 「安倍氏へのインタビューは首相在職中の15日と退任後の17日の2回行った」と本文の最後に書かれているが、なぜ、そんなに急いでインタビューし、また、それを紙面に載せないといけないのか。安倍が何を考えてきたか、これから何をしたいかよりも、いまから菅が何をするかが問題なのに。
 だから、これは逆に読まないといけないのだ。
 安倍が菅をどう動かしたがっているか、菅に何をさせたがっているか。それを語っている、と。
 同日選については、こう書いてある。

 安倍氏は政権を奪回した2012年衆院選から国政選で6連勝した。3回行われた参院選のうち16年、19年は衆参同日選が取りざたされた。いずれも踏み切ることはなかったが、「首相の判断と決断の最たるものが解散で、あらゆる選択肢を考えた。同日選は常に頭にあった」と述べた。衆院選で負ければ政権を失う一方、「国民の支持を獲得できれば、政策の推進力を得ることができる」と説明した。

 1年の任期しかない菅には衆参同日選を実行できる機会はない。参院選は予定されていない。だから菅に「衆参同日選をしろ」とハッパをかけているわけではない。後半部分から「同日選」を省略してみる。

「首相の判断と決断の最たるものが解散。衆院選で負ければ政権を失う一方、国民の支持を獲得できれば、政策の推進力を得ることができる」

 つまり、安倍は菅に早く解散し、衆院選をしろ、と言っているのだ。いまなら「御祝儀投票」がみこまれるし、河井議員の判決が出る前に選挙ができれば、判決の影響も少ない。新聞報道などで見るかぎり、私には「有罪」としか思えない。安倍から1億5000万円調達してもらった議員が有罪になれば、どうしたって衆院選に影響は出る。そして、もしかすると河井議員夫婦の有罪は安倍、菅にも波及しかねない。判決前に菅自民党が大勝すれば、判決にも影響を与えられる考えているのだろう。
 衆院選早期実施という安倍の主張を「側面支援」するように、読売新聞は「始動 菅政権」という連載(1面)を始めている。その見出しが「コロナ・解散 両にらみ」である。でも、実際は「両にらみ」ではない。

 内閣発足直後の報道各社の世論調査では、内閣支持率が軒並み6割を超えた。首相は無派閥で自民党内の基盤が弱く、政策の推進力を得るためにも「早く衆院解散・総選挙に踏み切るべきだ」(閣僚経験者)との声が上がる。首相自身はコロナ収束前の解散に慎重な発言が目立つが、17日には実績のある選挙プランナーとホテルで朝食をともにし、永田町では早期解散の臆測も飛び交っている。

 ここでも、もっぱら菅にハッパをかけている。だから、衆参同日選があり得ないいま、インタビュー記事の見出しは、

衆院解散、総選挙を常に頭に

 という菅に向けたメッセージなのだ。同時に、自民党員に向けたメッセージなのだ。2月だったか3月だったか、うろ覚えの記憶しかないが、コロナ拡大のさなかに、安倍は自民党役員会で「議員は地元にかえって、選挙のためのアピールをしろ」と言っている。そして、実際、それにしたがって動いた議員もいる。読売も「注目の選挙区」のような連載をやっていた。
 ここで安倍がしゃしゃり出てきて「衆院選をしろ」というのは、何も菅の基盤を安定させたいからではない。実際に衆院選がおこなわれ、自民党が大勝したとき「ほら、ぼくちゃんが言った通りだろう」と言うためなのである。
 安倍は、自分が引退したことを忘れ、「いまなら勝てる」と思っているのだ。そして、菅を勝たせることで、いっそうの支配力を発揮しようとしている。「院政」を確立しようとしている。「院政確立」のために、想起の衆院選、自民大賞が必要なのだ。

院政、常に頭に

 というのが、安倍のいまの状態である。

 ②の「外交特使」については、1面では、こう書いてある。

「菅政権を支えるのが私の仕事だ。求められれば様々なお手伝いもしたい」と意欲を示した。トランプ米大統領やプーチン露大統領ら各国指導者との間で築いた親密な関係を生かし、外交特使などの形で協力する意向を示した。

 しかし、「外交特使」というものは、自ら進んでなれるものなのか。菅が協力を求めているという動きがあって、「協力します」、では「特使に任命します」というのふつうの展開なのではないか。「外交特使」といえばカーターが有名だが、あのときカーターは大統領をやめて、ふつうの市民だった。安倍は国会議員のままである。国会議員が外交の前面に出るなら、それは「外相」として働けばいいだけである。なぜ「特使」なのか。
 1面の記事を読んでいるだけでは、何がいいたいのかわからない。
 自分から「外交特使」をやりたいなどというのは、「一議員の権限」を超えているだろう。今後は「球拾いをしていく」と安倍は言うが、「外交特使」が「球拾い」なのか。
 しかし、2面の記事と結びつけて読むと、1面の見出しの「狙い」がわかる。
 2面には、こういう見出し。(番号は、私がつけた。)

①菅氏、外交も「安倍路線」
②手腕未知数 米中との関係課題

 「安倍路線」継承は、菅が言い続けていることだから、①の見出しは問題がない。単に菅の主張を紹介しているだけだ。
 問題は②の見出し。これは1面の安倍のインタビューと違って、菅の主張ではない。読売新聞の菅に対する「評価」である。

 菅首相は外交・安全保障政策で、安倍前首相の路線を継続する考えを明確にしているが、安倍氏が得意とした首脳外交に関する菅氏の手腕は未知数だ。

 と、書き出しでいきなり「未知数」という評価をしているが、その根拠はどこにも書かれていない。どんな経験を積んだ人間が首相になろうと、はじまったばかりの仕事の結果は「未知数」に決まっている。
 菅自身は、どう語っているか。

 首相はこれまで、安倍外交を官房長官として支援してきたが、ペンス米副大統領らと会談した以外に、外交の表舞台に立った経験は少ない。自民党総裁選の討論会では、トランプ氏ら外国首脳と良好な関係を築き、課題の解決を目指した安倍氏を念頭に「そうしたことは私はできない」と認め、「自分型の外交姿勢を貫いていきたい」と語った。

 これは、どう読んでも、「安倍流のトップ外交はしない。自分の姿勢を貫く」としか要約できない。外交課題の「方針」は「安倍路線を継承する」。しかし、外交スタイルは「安倍流を継承しない」。
 ここから見出しを取るならば、

②首脳関係 自己スタイル模索

 くらいだろう。菅の主張を見出しにとらず、はじまってもいないことにたいして「手腕未知数」と断定するのはなぜか。
 「未知数」の菅にまかせるのではなく、経験が豊富な安倍にまかせろ、と読売新聞は言っているのだ。安倍は「外交特使」に意欲を示している。安倍にまかせろ、と2面の記事で、1面の安倍の「意欲」を支持している。

 ここから整理すると、読売新聞は、安倍は衆院の早期解散を提唱している。外交問題については、菅にまかせるのではなく安倍にまかせた方がいいという「考え」を読者に浸透させようとしているのである。
 菅が考えていることよりも、安倍の考えていることの方が大事、と、いまでも忠実に「安倍よいしょ」をしているわけだが、問題は、その「よいしょ」を紙面を使って読者に押しつけていることだ。
 私は菅を支持しているわけではないが、このあからさまな菅無視、安倍尊重という姿勢には非常に違和感を覚える。あまりにも菅に対して失礼だろう。
 読者に対しても、菅の考えていることより、安倍の考えていることの方が重要と主張するのもおかしいだろう。
 それとも菅はお飾り、安倍院政が「始動」した、と読売新聞は言うのかもしれない。まあ、そうなんだろうねえ。
 そして、そうなんだろうなあ、と思うと同時に、やっぱり読売新聞は「正直」だねえ。知っていても「隠す」ということができない。安倍院政がはじまった。私はこんなに安倍のやりたがっていることを知っている、と宣伝せずにはいられないらしい。








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「情報の読み方」は10月1日から、notoに移行します。
https://note.com/yachi_shuso1953
でお読みください。
 

#安倍を許さない #憲法改正 #読売新聞



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