WHILE THE GATE IS OPEN-1 「M−BASE」の一派のくせして音楽理論などは全く考えていない。無の状態から過激なサウンドをぶつけてくる強心臓男。そのくせジャズの歴史を教養として身に着け,テナーサックスの扱いに関しても無敵の超絶テクニックを身に着けた男。
 「その男,凶暴につき」とはビートたけしのためではなくゲイリー・トーマスのためにある言葉である。そう。『BY ANY MEANS NECESSARY』までは…。

 何と優しいスタンダードなのだろう。何とも愛らしいスタンダード集なのだろう。『WHILE THE GATE IS OPEN』(以下『ザ・ゲイト・イズ・オープン』)からゲイリー・トーマスの“美意識”が伝わってくる。
 個人的にゲイリー・トーマスの本質は『BY ANY MEANS NECESSARY』の方にあるとは思うが,ゲイリー・トーマスと来れば『ザ・ゲイト・イズ・オープン』で見せた「優しい演奏家」のイメージが強い。

 それ位に『ザ・ゲイト・イズ・オープン』におけるスタンダードを紡ぐ演奏手法が秀逸である。
 スタンダードのお花畑から,草をむしり取るように荒々しい演奏もあれば,貴重なバラを一本一本丁寧に取り分けていくような演奏もある。全体としてパワフルな四気筒の農耕車がゆっくりと坂道を上っていくような演奏である。「M−BASE」らしからぬ,手作業で制作したスタンダード集。

 ただし『ザ・ゲイト・イズ・オープン』は落ち着いたバラード集ではない。基本はアップテンポなメインストリーム・ジャズ
 ゲイリー・トーマスの過去音源を知らない方や『BY ANY MEANS NECESSARY』を聴いたことがない人にとっては,ちょっと変わったメインストリーム・ジャズとして違和感なく受け入れることができるだろう。

 要は『ザ・ゲイト・イズ・オープン』が“あの”ゲイリー・トーマスのアルバムだから,である。この前置きが物議をかもす!
 まず「M−BASE」の派のジャズメンがスタンダードを取り上げる行為自体が初耳である。過去の演奏形式を取り入れることを否定した上でスタンダードの演奏などできるのだろうか?

WHILE THE GATE IS OPEN-2 ゲイリー・トーマスジャズスタンダード集のために用意した答えは,やはりリズムである。
 現代的でスマートな変拍子を繰り出すリズム隊の誘導により,全体的につんのめるようなスピード感に支配されたゲイリー・トーマス随一の名演集である。

 伝統に束縛されない自由な演奏が展開されている。ゲイリー・トーマスの音使いやリズム感は常識的なものから少しづつずれている。メインテーマで美メロを力業で吹き上げるゲイリー・トーマス特有のヒリヒリする緊張感にやられてしまう。
 ゲイリー・トーマスの底の知れないポテンシャルの高さとテーマを発展させるスケールの大きな歌心が実に素晴らしい。

 スイングに欠けるとされる「M−BASE」であるが,ジャズスタンダードを題材とした『ザ・ゲイト・イズ・オープン』ゆえに,ほんのりとしたスイング感が見え隠れしている。そんな「優等生のチラミセ」に毎回もんどり打って悶絶してしまう。

  01. STRODE RODE
  02. STAR EYES
  03. YOU STEPPED OUT OF A DREAM
  04. THE SONG IS YOU
  05. INVITATION
  06. CHELSEA BRIDGE
  07. ON THE TRAIL
  08. EPISTROPHY

(バンブー/BAMBOO 1990年発売/POCJ-1027)
(ライナーノーツ/成田正)

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