ブラジルでハイラインの死亡事故が発生。原因は強い嵐。

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10月に起きたブラジルでのハイラインでの死亡事故について原因が考察されているので簡単に紹介します。
ISAの報告の翻訳をベースにしています。

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歩き方

2009年からスラックライン乗ってます。国内旅程管理主任者、日本山岳ガイド協会公認ガイド(自然Ⅱ登山Ⅲ山岳Ⅰ)、NACS-J自然観察指導員。アウトドア好きでキャンプ、星、植物、お魚好き。
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事故概要

ブラジルハイライン死亡事故ISA報告書より

2018年10月18日、ブラジルのとあるビーチに長さ205m、高さ20mの低いハイラインが張られていた。
時間は18時40分ごろで、日没後44分が経った薄暗い時間帯である。
遠くには雷の音が聞こえており風も強かったが小雨が振っている程度で、その時はまだ本格的な嵐は来ていなかった。

その時間にひとりの経験豊富なハイライナーがラインに取り付こうとしていた。彼はハーネスのバディチェックも受けたあと、ラインに立ち上がって歩き始めた。
そのハイライナーはどうにか反対側のアンカーまでたどり着いたことは仲間が確認している。

雨も強くなり仲間が撤収の合図をしてハイライナーは、先ほど歩いたラインをハングオーバー(ラインにぶら下がって移動できるカラビナ)でスタート位置まで戻り始めた。その時間は19:00くらい。反対側のアンカーは足場が悪いなどの理由で、戻る必要があったのだろう。

ところが、彼がライン上をハングオーバーで滑り始めたころに突風が吹き始めた。

近所の観測所の記録では時速100㎞の風が記録されているほどの突風!

仲間が危険を感じて近づくと風で大暴れする二本のラインに振り回される1人の人間。
あらゆる方向に振り回されていた。

ハングオーバーは外れていたが、リーシュ(命綱)は付いている。

とにかく仲間は彼を下ろそうと行動するが、結果的には彼はハーネスから抜け落ちて13m下に激突。
突風が吹き始めて5分間の出来事だった。

僅かな意識はあったようだが、落下の衝撃と体全体がラインに切り刻まれた損傷により三日後に亡くなった。

状況予測

ん?
時速100㎞?

えーと、風速に変換と・・・。

100×1000÷60÷60=27.777

つまり、風速27m/sの風が吹いたわけです。
27mは台風クラスの風で樹木が根こそぎ倒れたり瓦が吹き飛ばされるクラスの強さ。

そんな強風が、彼がラインを滑っているときに襲ってきた。
まず歩行用ラインとバックアップラインを留めていたテープが全部取れ、別々となった二本のラインは大暴れ。

バックアップはウィンドダンパーの役割も持つのだが、それがなくなった瞬間にラインは大変なことになる。

人間がぶら下がっていたとしてもそんな体重はお構いなしにラインが暴れる。
ラインが何百回も捻じれて戻る。風と捻じれでさらに勢いがつき、さらに凶暴に。緩いバックアップのラインは容赦なく体を切り刻む。

その繰り返し。200m以上のラインが風で暴れたら近寄りがたいほど唸って暴れる。
ただの風じゃない。台風並みの風。

人がぶら下がっていたどうなるのだろう。
想像もできない。
あらゆる方向に体がもてあそばれ、ラインが凶器となる。

そしてハーネスからの落下。
落下状況は詳しく書かれていない。砂浜が幸いしてか即死は免れた。

この事故の原因は嵐の強風であることは間違いない。
強風でメインとバックアップの双方が大暴れしたという状況は、動画等でも見たことがある。

通常のロングでも強風時にラインを張れば似たような経験もできる。

問題はそのようなラインに人が取り付いていたということであり、それが落ちたらただでは済まないハイラインで、さらに二本の暴れるラインだったということ。

死因はラインに振り回され叩かれた傷と落下の衝撃。

一本だけなら、もしかしたらリーシュにしがみついて致命傷を避けられたのかもしれないが、もう一本の暴れるバックアップラインが体を叩く。
あらゆる方向に投げ飛ばされ、挙句ハーネスから落下。

相当にショッキングな映像が想像できる。
悲惨だ。

ご冥福をお祈りします。

被害者が落ちた後、ハーネスやリーシュは木に巻き付いていた。風でアンカー地点まで吹き戻されたようだ。

ポイント

クライミングテクノロジーのハーネスから抜け落ちた。発見されたときハーネスのウェストが緩んでいた。

天候や時間帯が問題。

バックアップ留めに使われたビニールテープ(電工)は貧弱。
暴れるラインに打たれて致命傷を負っていた。これは今までに報告されていない事例。

ハーネスが緩んでいた可能性。激しい動きでハーネスが緩むことも考慮する必要がある。

改善点

  • 天気予報をチェックして荒天時は乗らない。時間も暗いと状況がわかりずらくなる。
  • バックアップ留めには強力なテープを使い、数も多くする。ビニールテープは弱い。
  • 体に合った専用ハーネスを準備する。なるべくきつく。(上着を着ている場合は上着の下にハーネス)
  • チームで事故やレスキューについて検討できる体制を作っておく。

まとめ

わかりにくい状況もあったので、多少補足しました。
想像で追加している文章がありますし、間違いもあるかもしれません。詳しくは原文をお読みください。
画像はクリエイティブコモンセンスに従って転載表示しています。

ハイラインは危険が伴うのはもちろんですが、長くなればなるほどその危険度は上がることが予想できます。風が強ければ不測の事態の可能性が起こる危険度も上がります。

今回のように台風並みの強風下では、道具も耐えないし、人も無力。

ハーネスは振動などで緩んだんだと思う。
冷静に考えてあの小さなバックルが緩まない保証はどこにもない。
仮に緩まなかったとしても、全方位に振り回されたらフルボディでない限り抜け落ちることも普通にありえる。

ハイラインの死亡事故は三例目で今年二例目。
これを増えたというなら、張られる回数が増え、レベルも上がり距離が伸びたことが原因の一つかもしれない。

ま、そんなことはお構いなしに今後やる人がさらに増えるのは間違いないだろう。

ハイラインでは、経験でしか学べないことも多いはず。
しかし、まずは事例に学ぶ姿勢が必要だ。
死んでからでは遅い。

強靭な肉体や経験も天候には勝てない。

ISA : Accident_Report_Highline_Death_Brazil_2018_v1_EN.pdf

ハイライン関連資料

ISA : Safety
ISA : Highline

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