今回は寅さんシリーズ第17作、「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」(1976年・松竹 山田洋次監督)です。

 

 

子供の頃、あるいは若いころに一度見ていると思うのですが、内容がはっきり思い出せません。しかし、改めてフルで見ると、寅さんファンの多くが名作として挙げるのも納得の一言です。

 

渥美清も40代後半ですし、他のレギュラー出演者もまだまだ若い(もちろん山田監督も)ので、全体的に生き生きとした印象。それだけでなく、17作目ということで出演者同士の息もピッタリ。とにかくテンポが非常にいい感じです。

 

また、マドンナの太地喜和子がとにかく素晴らしかったですね。龍野芸者の「ぼたん」役、おそらく複雑であろう生い立ちや、涙を隠して明るく振る舞わざるを得ない、芸者という厳しい身の上。さらに、詐欺師に200万円(当時の額)もだまし取られるという、過酷な境遇を見事に演じ切っています。実力派である太地の、圧倒的な演技力のなせる業でもありましょう。

 

子供の頃の印象としては、ノリのいい気さくなおばさんという感じでした。しかし、年を重ねて改めてみると、このころは30歳そこそこでしょうか、実にかわいらしい。“エロカワイイ”というやつです。シリーズ中でも指折りのマドンナでしたね。

 

ゲストで画壇の大家・池ノ内青観を演じる宇野重吉の飄々とした演技もいいですね。一つひとつのしぐさが実に味わい深く、巨匠ならではの孤独さ、悲哀もしっかりと表現されていました。

 

そして、青観のかつての恋人役として登場するのが伝説の女優・岡田嘉子。シリーズ中屈指の名セリフである、「人生には後悔はつきもの。ああすりゃよかったという後悔と、どうしてあんなことをしてしまったのかという後悔…」。彼女の激動の人生と重ね合わせると、より深みを増します。非常に贅沢なシーンだと感じました。

 

ほかにも、古本屋の主人(大滝秀治)、龍野市の観光課長(桜井センリ)、観光課の若手スタッフ(寺尾聰、つまり親子共演だったわけですね)、詐欺師(佐野浅夫)ら、脇のゲスト陣もいい味を出しておりました。

 

序盤のドタバタから、ジーンとくるエンディングまで、いっさい飽きさせない完成度の高い作品。思いやりと優しさにあふれており、特に詐欺師の元に殴り込もうと寅さんが出ていったあと、その情け深さに感激してぼたんが涙を流すシーンはグッときます。嫌なことや辛いことがあったときに見ると、元気をもらえそうです。見ごたえという点では第15作「寅次郎相合い傘」と双璧じゃないでしょうか。

 

最後にですが、冒頭の夢のシーン。当時流行していた「ジョーズ」のパロディですが、胴体を食いちぎられた源公の姿がシュールでしたね。

 

 


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