『岐路にたちつつ 』・・・(第93回)

 困難にぶつかったときに ③ 

 令和元年12月掲載

 



 動物園の動物は、食べる不安は何もない。他の動物から危害を加えられる心配も何もない。きまった時間に、いろいろと栄養ある食べ物が与えられ、保護されたオリのなかで、ねそべり、アクビをし、ゆうゆうたるものである。

 



 しかしそれでかれらは喜んでいるだろうか。その心はわからないけれども、それでも彼らが、身の危険にさらされながらも、果てしない原野をかけめぐっているときのしあわせを、時に心に浮かべているような気もするのである。

 



 おたがいに、いっさい何の不安もなく、危険もなければ心配もなく、したがって苦心する必要もなければ努力する必要もない、そんな境遇にあこがれることがしばしばある。しかしはたしてその境遇から力強い生きがいが生まれるだろうか。

 



 やはり次々と困難に直面し、右すべきか左すべきかの不安な岐路にたちつつも、あらゆる力を傾け、生命(いのち)をかけてそれを切りめけてゆく―そこにこそ人間としていちばん充実したはりのある生活があるともいえよう。

 



 困難に心が弱くなったとき、こういうこともまた考えたい。
 


 

 松下幸之助

 


 

 

 


 


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