「私たち、ここに何日いてみようか？」

 

 

以前、私の近しい先輩が出演していたチャン・ニュル監督の『慶州（경주）』（2013）という映画をご紹介したことがありました。パク・ヘイルさんとシン・ミナさんの主演で、その先輩について試写会にも行き、監督と出演俳優の方々の舞台挨拶も拝見してとってもいい思い出になったものでした。ヾ(≧∇≦)〃♪

 

今回ご紹介するは、チャン・ニュル監督の『慶州』に続く地名シリーズであるところの『群山：ガチョウを歌う（군산: 거위를 노래하다）』です。主演も同じパク・ヘイルさんであり、今回のヒロインは名女優のムン・ソリさんですね。全体的に『慶州』にとてもよく似た雰囲気の作品ではあり、歴史ある街において狐につままれたような異色な感覚と遭遇する、というお話です。やはりとっても印象深く、とてもいい映画でした。

 

チャン・ニュル監督の作品はこれまで、その二つの間に作られた『春夢（춘몽）』（2016）という素敵な白黒作品もあったし、それ以前の地名シリーズである2009年の『豆満江（두만강）』も、2008年の『裡里（이리）』も、本当に印象深く観た記憶が残っています。ここまで好きな作品ばかりですから、私もファンだということですよね。♪ヽ(´▽｀)/

 

 

●かつて１万人の日本人が暮らして去った群山

 

ということで、私はやはり似ているという意味で、『慶州』と『群山』を比べながら観ることになったわけですが、まず慶州のほうは新羅の遺跡を残す古墳の里です。それゆえに、いわば死という背景を背負った場所であり、映画も「生と死」の間の共感と断絶を通して、「時間的喪失感」を描いたものであったろうと思います。

 

では、今回の群山はどういう街かというと、実はこの地は植民地時代に日本人が約１万人も住んでいて、日本へ米を輸出するための港として栄えた土地柄でした。それゆえ、日本家屋はもちろん、日本式寺院の東国寺など日本と関連の深い近代文化遺産が数多く残されています。

 

私ももちろん訪れたことがありますが、講演の後でやはり日本家屋を利用した食堂に連れて行っていただいて美味しい料理をご馳走になった覚えがあります。でも私としては、この地が古代の「白村江の戦い」の地であることにより興味があって、ここで日本・百済と新羅・唐の軍が互いにぶつかったんだなあという感慨を感じたものでした。

 

 

●違う内面世界持つ同士が共感できる場所

 

いずれにせよ、群山で感じるノスタルジーは慶州とは違って、たくさんの日本人たちがここで生き生きと生きていたはずなのに、今は帰ってしまった、いなくなってしまった、ということで、今回の作品も、「在と不在」の間の共感と断絶を通した「空間的喪失感」を描いた映画だという印象を受けました。途中、中国人観光客と主人公のやりとりも出て来ましたが、実は中国人も多く住んでいたという歴史を持つのが群山でもあります。

 

その上で、『慶州』が最終的に死者との共感を描いたとするならば、『群山』は異郷人との共感を描いていたといえます。同じ空間にいたとしても、日本語を話す人は日本語の記憶の中に生き、中国語を話す人は中国語の記憶の中に生きています。『群山』のヒロインは別れた夫との記憶の中に生き、主人公がひそかな思いを寄せる自閉症の少女はその独自の記憶世界に生きています。しかし、それらが空間的に一つに交わって共感することができる所、それが「群山」という場所であることを感じさせました。

 

まあ、感じる世界は人によってまったく違うのではないかと思いますが、私はそのように感じました。旅が、人それぞれの経験であるように、この映画の中の群山に感じる世界もその人独自のものであり、その人独自の美しさがこの映画の魅力でこそある、ということを思います。そういった玄妙な意味においてとってもお勧めです！ヾ(≧∇≦)〃♪

 

 

【あらすじ】 詩人だったユニョンは、かつて好意を抱いていた、先輩の妻であるソンヒョンが、先輩と離婚したと聞いて嬉しい。お酒を飲んだ勢いでユニョンとソンヒョンは群山へ行き、民宿に泊まることになる。しかし、ソンヒョンは民宿の主人に関心を持ち、ユニョンはその主人の娘が気になり始めるのだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画『群山：ガチョウを歌う（군산: 거위를 노래하다）』（チャン・ニュル監督）予告編。

 

 

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