「計画になかった誘拐犯となる」

 

 

今年初めの『＃生きている（#살아있다）』（チョ・イルヒョン監督）に続いてユ・アインさんの愛さざるを得ない演技が輝く犯罪映画『音もなく（소리도 없이）』（ホン・ウィジョン監督）です。ヾ(≧∇≦)〃♪

 

紹介文は「拉致した子供を預けて死んでしまった依頼人のせいで、予期せずに誘拐犯となってしまった2人の男の危なっかしい犯罪生活を描いた作品」とあります。

 

今月初め、ネットの評点がそれほど高くないのを見ながらあまり期待せずに映画館で観たのですが、私はとってもよかったし、それ以来心に残っています。考えてみれば、かなり残念だったと思った『＃生きている』でさえ、ユ・アインさんの演技だけを見ればとってもよかったし、2018年の『バーニング（버닝）』（イ・チャンドン監督）以来、純粋だけど自己尊重感が低く、ちょっと狂気を帯びたアウトサイダー的なキャラクター演技が本当にはまっていますよね。それ以前のドラマ『六龍が飛ぶ』（2015）や、映画『ベテラン』（2015）での非凡なスター的役の時よりも、どんどん私はアインさんが好きになっています。

 

題名の訳についてですが、いちおうすでに出回っている訳に従って、『音もなく（소리도 없이）』と訳しましたが、「소리」は「声」の意味もあって、私の中では「声もなく」と訳すべきだと思っています。主人公のテインは失語症の青年であり、たいへんなことがあっても声を出せずに頭を抱えたり、うろうろしたりという体の動きで感情を表現します。彼はそういう障害もあってか、社会から断絶し、まともな愛に包まれて生きることができず、兄貴分であるチャンボク（ユ・ジェミョン扮）のアシスタントとして闇の仕事（ヤクザの死体処理）を手伝いながら、人里離れた倉庫のような家で9歳（満8歳）の妹と二人暮らしで生きています。

 

ある日、そこで頼まれた仕事が、誘拐した11歳（満10歳）の少女を自分の家に隠しておく、ということになるわけですが、その少女チョヒ役を演じるムン・スンアちゃんがとても上手で、以前紹介した『私たち（우리들）』（2015年）のチェ・スインちゃんにちょっと似ています。とてもしっかりしていて、その少女らしからぬ心遣いと愛情によってテインの心をつかみますが、でもいっぽうで相手を誘拐犯と理解しての賢いふるまいもします。

 

いずれにせよ、彼もその小さな妹も、その人質のチョヒから初めて心のこもった人間的な扱いを受けることができたがゆえに、初めて人間的な感情に目覚めていくわけで、その3人の生活の中に現れるつかの間の幸せに胸が痛くなります。何より、彼が声が出せないので、チョヒが家の庭のトイレに夜中に行く時には、彼はついていってあげながら、トイレの外でひたすら手を叩いてあげます。それが彼が出せる、最大の愛情の「音」であり、やがてそれをチョヒのほうが彼に返してあげるシーンも胸が熱くなります。

 

何より、チョヒが途中、隙を見て逃げ出した時に、テインが必死に探し回って草原の中で彼女を見つけた時の、心配で胸が張り裂けそうになった表情と、彼女のひざの擦り傷を見て心を痛める姿は完全に誘拐犯ではなくて、兄のそれのようになっていました。そういう声をいっさい出さない彼の表情演技が、とにかく胸を揺さぶる場面の連続であるわけです。それ以外にも、登場する彼以上の悪人たちについても、ひどい悪人でありながら、しかしどこか心の素直さ、本性の惻隠の情のようなものを皆、少しずつ持っていて、それが人間としての悲しさとして映ります。(´ぅ_ ；`)

 

そういう状況ですから、最後はもちろんハッピーエンドとは行かないわけですが、最後の最後のシーンで、彼はあまりの悲しさに初めて喘ぎ声をもらします。そのような、言葉も出ないほどの、かわいそうな一人の青年の、切なくつらい映画であり、ユ・アインさんを愛さざるを得ない映画としておススメです！♪ヽ(´▽｀)/

 

 

【あらすじ】 犯罪組織の下請けで誠実に専門的な遺体収拾をしながら生きているテイン（ユ・アイン）とチャンボク（ユ・ジェミョン）。ある日、常連客だった犯罪組織の室長ヨンソクから頼まれて、誘拐された11歳の子供チョヒ（ムン・スンア）を無理やり引き受けることになった。ところが翌日、子供を返そうとした2人の前にヨンソクが遺体となって現れ、2人は予期せぬ事件に巻き込まれる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画『音もなく（소리도 없이）』（ホン・ウィジョン監督）予告編。

 

 

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