三四郎の死から十年以上がたった今、ピピは動物のための病院へ行き、獣医に診てもらいます。
三四郎や、その前にうちにいた犬たちのような、年に一回近所で受ける狂犬病の予防注射だけでなく、ピピには子犬の時からかかりつけのお医者がいて、他の病気にもならないよう、予防注射や検査や、手術だって、してもらうのです。
食べ物も、ピピには犬のために作られたドッグフードが用意されます。
毎晩、やわらかくあたたかいベッドがつくられ、昼間、その寝具は日に干され、汚れがひどくなると、洗濯機で洗われます。
夏、ピピの寝床のまわりには、蚊よけランプと蚊取り線香がともされ、冬にはカイロが、小さなタオルと布袋に包まれて出てきます。
さんぽは毎朝、そして毎晩です。
外に出かけない時、ピピは自分のために建てられたフェンスの庭で、鎖につながれることなく、首輪だけでぶらぶらしています。
ピピは、大切にされています。
しあわせに暮らしています。
三四郎や、その前にもみんなみんな若くして死んでしまった悲しい犬たちとは、違うのです。
ピピのしあわせな日々のための、そのひとつひとつをわたしが決め、わたしが働いて稼いだお金で支える。
それが、わたしはうれしいのです。