ピピとわたしは、こうした「ともだち」の他にも、いろいろな犬や人に会いました。
たとえば、去年の夏の、ある日のこと。
海の草原で、高く伸びた草の壁を回りこんだら、その先にいきなり黒い顔と茶いろい体の犬があらわれたのです。
その犬には、引き綱がついていて、綱は若い男のひとが持っていました。
わたしは、びっくりした拍子に
「こんにちは!」
反射的にあいさつしました。
でも、男のひとは
(もぐもぐ・・)
と口を動かしただけで
さっ!!・・
と逃げていってしまったのです。
彼は、近所の青年でした。
高校を卒業したあと、家にいるまま、何年も経ちました。
きょうだいはなく、両親と犬の、三人と一匹ぐらしです。
青年が外に出かけるのは、この犬の散歩の時だけのようでした。
・・・いぬとなら、つきあえる・・・
ああ。
そのかんじなら、わたしにもとてもよくわかります。
草たちの領土。
ひそかな虫や、鳥のけはい。
吹き来て吹き行く、風の群れ。
雲のかたち、ひかりと、くらやみ。
人間ではだめな世界に、ピピとなら、すんなりと入ってゆけるのです。