赤ら顔の発症機序について解説してきました。
要約すると、赤ら顔特に酒さの発症には肥満細胞という免疫細胞が関与している。
ストレス、イライラで、交感神経からサブスタンスP(SP)をはじめとする痛みや不安を伝える
神経ペプチド(イライラホルモン)が分泌される。
SPは肥満細胞を活性化して、炎症を起こすと同時に皮脂分泌を増加させる。
SPで刺激された皮脂腺は神経成長因子を分泌させ神経を皮脂腺のすぐ近くに引き寄せる。
その結果大きくなったあるいは敏感になった神経が肥大活性化した皮脂腺のすぐそばに接近する。
その結果、少しの不安、イライラでも大量のSPが皮脂腺のすぐそばから分泌され、皮脂腺はそれに反応して皮脂分泌を増やす。
SPは肥満細胞を血液中から皮脂腺のすぐそばに動員して、皮脂腺周囲の肥満細胞が増加して
SPを分泌したり炎症を起こして血管がさらに拡張して皮膚は赤くなる。
というような現象が起こります。
ヒトはストレスを炎症として感知して、炎症反応を起こすことで、細菌やウィルスなどの異物を排除します。
対象が排除できる異物ならいいのですが、皮脂腺や毛穴の中のアクネ菌はなかなか排除できずに
赤ら顔がますますひどくなるという悪循環が起こるのです。
この反応を抑えるためにビタミンABCやグルタチオンそしてトラネキサム酸や蛋白分解酵素阻害剤であるナファモスタットが
効果を発揮するのです。
トラネキサム酸もプラスミンという蛋白分解酵素を抑制する薬剤です。
赤ら顔を抑えるには神経や肥満細胞から分泌されるSPなどを抑制すればいいのです。
もう一つのアプローチとして炎症をひどくしたり、アクネ菌を増加させる皮脂の分泌を抑制すればいいのです。
残念ながらSPの分泌を抑える内服などをすると誤飲性肺炎を引き起こしてしまいます。
それではどうしたらいいのでしょうか?
皮膚レベルでSPの分泌や肥満細胞の活性化を抑えればいいのです。
僕がボトックスなどのボツリヌス毒素製剤が皮脂分泌を抑える作用に気が付いたのは開業してすぐの時です。
開業した当時はdysportというボツリヌス毒素製剤を使用していました。
上の方は眉を持ち上げる癖がある方で額にしわが入っています。
コラーゲンを使用してもシワが残ったので、dysportを皮膚に浅く注射してコラーゲンを増加させると同時に
眉の上には筋肉に注射して、眉が動かないようにしました。
その結果上の図の下段に示すように、シワはほとんどなくなりました。
注目していただきたいのは、毛穴が注射後は非常に小さくなっています。
それを応用して鼻の毛穴が目立つ方に注射すると鼻の毛穴が閉じるだけでなく、
赤みも大幅に低下してコラーゲン増加の結果鼻も高くなっています。
鼻は笑うときに使用する骨格筋から離れているので注射により笑いにくくなることもありません。
上の方はdysport注射後は毛穴は大幅に縮小して赤みが低下しています。
酒さの原因は皮脂分泌の過剰と、炎症です。
ですからdysportにて酒さなどの赤ら顔が治る可能性があると考えました。
上の方は酒さの方です。痛みに強い方なので麻酔はしていません。
ボツリヌス毒素製剤の注射液には血管を収縮させるさせるアドレナリンが配合されているので
注射部位に一致して皮膚が白くなっています。
アドレナリンによる血管収縮は数時間で消退します。
14日後には、頬の毛穴は収縮して赤みも低下して、火照りやひりつきもなくなっています。
この効果は数か月から半年継続します。
上が酒さの発症機序です。
ボツリヌス毒素製剤が骨格筋を収縮させるアセチルコリンの分泌を抑制して表情しわを抑制することはよく知られています。
アセチルコリンは骨格筋の収縮以外に、血管を拡張させて、内皮細胞の隙間を大きくして皮膚を赤くする作用があります。
その後の実験でボツリヌス毒素製剤は神経からのサブスタンスPなどのイライラホルモンの分泌を抑制することが判明しました。
さらに肥満細胞はボツリヌス毒素製剤受容体を持っており、
ボツリヌス毒素製剤にて、肥満細胞を活性化する脱顆粒を抑制することが判明しました。
上にボツリヌス毒素製剤の作用部位を示しました。
青山ヒフ科クリニックでは酒さだけでなく、脂漏性皮膚炎や難治性のニキビにもボツリヌス毒素製剤を使用しおります。
難治性のニキビには、アンチアクネメソセラピー、抗菌メソセラピー、そしてボツリヌス毒素製剤の
3種の薬剤を注射して加療しております。
ボツリヌス毒素製剤は痛み、ひりつきを起こすSPの分泌を抑えるので
痛み、かゆみなどはすぐなくなる効果を発揮します。
ボツリヌス毒素製剤をビタミンABCやグルタチオンあるいはトラネキサム酸による治療を組み合わせることも可能です。