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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

聖なる酔っぱらいの伝説 他四篇

2019-12-07 18:16:54 | 読んだ本

ヨーゼフ・ロート作/池内紀訳 2013年 岩波文庫
これを読みたくなったのは、丸谷才一の『快楽としての読書 海外篇』のなかの、「すばらしい幸福」という章(初出は1990年「週刊朝日」)でとりあげられていたからで。
>われわれの人生には喪失といふことがあつて、これはいくら嘆いたつて仕方がないのだが、それでも充分に嘆くに価するし、また、とりわけ小説であつかふのに向いてゐる。それをじつにきれいに書いてみせたのが、ヨーゼフ・ロートといふユダヤ人作家だつた。
で始まり、
>この短篇小説はロートの最晩年の作で、死後に発表されたが、作柄といひ、完成度といひ、現代の古典とも称すべき名作だらう。
と結ばれている、そんな評を読んだら、知らないでいるのはかなり残念な気がしてきた。
そしたら白水社の「ライ麦畑~」でおなじみの大きさのを探そうとしてたのに、近年になって岩波文庫で出てるのがあると知ったので、そっちにしてみた。
古本を見つけに行ったのに、ふつうに書店で新刊を買うことになってしまった、いいんだけど。
収録作は短篇五つ。
「蜘蛛の巣」
第一次世界大戦後のドイツで、軍隊から学生になっていたテオドールがまた軍隊に戻り、いろんなスパイみたいな連中とかかわりながら、動乱を制圧したりして偉くなっていく。
ナチスドイツをモデルにしてんだろうと思ったら、解説を読んだら1923年の作品なんで、ヒトラーたちがそういう熱狂的支持を受ける前のことであり、独裁者の登場とか親衛隊的なものの跋扈とかの予言をしてたことになるってのには驚いた。
「四月、ある愛の物語」
四月のある夜に町についた「私」が、居酒屋の真向かいにある郵便局の二階の窓に姿をみせる美しい娘にホレるんだが、なかなか会いにいけない。
給仕女のアンナとか、とほうもなくノッポな鉄道助手とか、カフェの給仕でロシア革の財布をもったイグナーツとか、登場人物がちょっと風変わりな感じ。
「ファルメライヤー駅長」
オーストリア鉄道のファルメライヤー駅長は、1914年3月のある日、急行列車と貨物列車の衝突事故からヴァレヴスカ伯爵夫人を救出し、彼女に恋をする。
戦争がはじまるとファルメライヤーは軍に入り東部戦線に出撃するが、キエフ近くで伯爵夫人と再会する。
「皇帝の胸像」
旧オーストリア=ハンガリー君主国の直轄領のひとつだったロパティニー村に住むモルスティン伯爵は、皇帝を敬愛していた。
大戦後にポーランド共和国が誕生したあとも、騎兵大尉の制服を着て、屋敷の戸口に立てたフランツ・ヨーゼフ皇帝の胸像に敬礼する毎日をおくった。
「聖なる酔っぱらいの伝説」
1934年のある春の宵に、セーヌ川の橋の下にいた宿無しの飲んだくれのアンドレアスは、見知らぬ年配の紳士から二百フランをもらう。
カネを返すんだったら、バティニョルのサント・マリー礼拝堂の小さな聖女テレーズさまに納めてくれればよいと紳士は言った。
アンドレアスは、ひょんなことから千フランを見つけたり、小学校のとき友達でいまは有名なサッカー選手と再会したり、幸運に恵まれるが、二百フランを返そうと礼拝堂に行こうとするたびに、近くの酒場で誰かにみつかってペルノーとかで飲んだくれてしまい、テレーズさまのとこまでたどりつけない。
作者自身が深酒で健康を損ない、ホテルを出たところでバッタリ倒れて死んだってのを読んだあとに知ると、なんともいえない気になった。


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