the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

プレヒストリック・サファリ 27 特大スミロドンの発見

2020年04月15日 | おすすめ エントリー

この復元画は、下記の論文執筆者、Aldo Manzuetti氏(M.Sc)及びRinderknecht博士によって認定されています(2020 4月)。
両氏による形態チェックや助言に感謝の意を表します。当該論文(英語)のオンライン閲読へのリンクは、下記に示してあります。

野生肉食獣の狩猟の場面が写実的に描かれているので、このような表現が苦手だという人は閲覧注意してください。
長引くコロナ禍の影響で不自由で不安な日々が続いております。皆様のご無事をお祈りします。
私のイラスト記事が少しでも気晴らしに役立てるといいな、と思います。

Prehistoric Safari Smilodon  'The Devastating Big Game Hunter' 

およそ1万4千年前の更新世後期 
南米南部、パタゴニア・・・

© the Saber Panther (All rights reserved)


: Species : (向かって左から)

スミロドン最大種(ミナミアメリカサーベルタイガー) 
Smilodon populator
 
オオナマケモノ 
Megatherium americanum
 
 
: Description :
去る2020年3月、南米ウルグアイのドローレス古地層(更新世後期)で、スミロドン属最大種(Smilodon populator)の最大級の頭骨が発見された旨の報告がありました。
(Manzuetti et al.,"An extremely large saber-tooth cat skull from Uruguay (late Pleistocene–early Holocene, Dolores Formation): body size and paleobiological implications" , 2020)

https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/03115518.2019.1701080?journalCode=talc20
 
本標本の頭骨全長は 392㎜、condylobasal長は379㎜、頬骨弓幅242㎜(各歯の寸法等はここでは省略)。私の知る限り、Smilodon populator の既知の最大の頭骨は全長400㎜ですから、これは二番目に大きな頭骨ということになるでしょうか。Smilodon populator の頭骨全長の平均は360mm程度だといいますから、かなり大型の個体だといえます。
 
もちろん、古代ヒョウ属や「シミター型剣歯猫」(ホモテリウム属やアンフィマカイロドゥス属など)に目を向けてみると、上記を優に超える大きさの頭骨の存在が知られています。
剣歯猫の中では、シミターネコのアンフィマカイロドゥス最大種 (Amphimachairodus horribilis)の頭骨が最も大きく、かつて復元画とともに紹介しましたが、全長415㎜に達します(詳しくは、拙『バトル・ビヨンド・エポック 其の一』を参照されたし)。
 
剣歯猫の頭骨は相対的に小ぶりであり、全長400mm以下の頭骨が「極めて大型 extremely large」と表現されていることを考えると、間氷期ホラアナライオン(Panthera fossilis)の485mmという異次元の大きさの頭骨(ヒョウ属史上最大)には、改めて驚かされる次第です。
 
とまれ、スミロドン属のように長大な上顎剣歯を持つ「ダーク型剣歯猫」の場合、顎を大きく開く機能形態が顕在化する過程で、咬筋力に関わる矢状陵などの発達が、ヒョウ属やシミターネコ群に比べて乏しいことを考慮する必要があります。また、剣歯猫は体長に占める頭骨長の比率がヒョウ属より劣ることも指摘しておくべきでしょう。
 
ポストクラニアルに関して言えば、Smilodon populator の肩高は平均的なアメリカライオン(Panthera atrox)と同等の1.2mに達するとされ、何よりも四肢長骨や骨格筋の骨幅(ひいては生前の筋量)がヒョウ属やシミターネコ群を著しく凌駕していたことは、よく知られるところです。
 
これまでに四肢長骨(Anyonge, 1994,  Christiansen, 2006,  Sorkin, 2008, Sherani, 2016)や第三臼歯(Van Valkenburgh, 1993)の寸法に基づく回帰分析による複数の推定体重が、いずれも優に400kgを超えることから、Smilodon populator の大型個体が体重400kg超に達したというのは、定説化しているといえます。

本個体も、condylobasal長に基づくネコ科種の推定体重の算出で436kgという結果。
 
論文の執筆者Manzuetti et al. によると、本頭骨の全長はSmilodon populator の既知の平均を大きく超えており、これは例外的な大物個体であったのか、はたまた固有の大型亜種に属する個体とみなすべきなのか、現時点では断定し難いといいます。
 
これまでも、Smilodon populator をネコ科史上最も大物猟に特化した種類とする見方は一般的でしたが、本標本の特大ヒョウ属種並みの大顎や上顎剣歯の長さなどから、このサイズのSmilodon populator は最大で体重3トン近い獲物を単独で襲うことができたとする仮説が述べられています。

更新世パタゴニアに分布していた数多の大型草食獣の中でも、体重3トンに達する程の大物といえば、長鼻類(ノティオマストドンとキュヴィエロ二ウス)を除けば「オオナマケモノ(Giant Ground Sloth)」ことMegatherium americanum を挙げねばなりません。
Manzuetti et al.は、実際に本標本サイズのSmilodon populator であれば、オオナマケモノをも狩っていた可能性があることを論じています。

もっとも、私見ではオオナマケモノの強大な前足と爪で武装された圧倒的な巨体に対して、真正面から襲いかかってもほぼ勝ち目はなかろうと考えざるを得ません(仮にそのような芸当が可能な食肉類が在ったとしたら、アルクトテリウム属最大種(ミナミアメリカジャイアントショートフェイスベア)くらいのものか。
もっとも私見では、ジャイアントショートフェイスベアであっても、オオナマケモノを正面から組み伏すことはまず難しかろうと思います。因みに、アルクトテリウム属最大種(更新世中期)とスミロドン属最大種(同後期)とでは、分布域は重複していても生息年代が大幅にずれます。正しく、両雄並び立たず)。
 
加えて、現生のヒョウ属種のごとくに多方向から獲物の色々な部位に噛みついてダメージを与えるような攻め方は、スミロドンの長大でフラットな(半面、恐らく折損もしやすい)サーベル状の剣歯では困難そうです。
 
やはりオオナマケモノが樹葉などを食んでいて油断しているところに忍び寄り、背後から電光石火の跳躍で襲いかかり、後ろから頸部の側面に噛みついて、一撃必殺のスラッシュバイト(サーベル剣歯は一噛みで頸動脈の大部分を切断することが可能なため、このように表現される)を決めるという方法くらいしか、有効打はなかったのではないか(あくまでも私個人の意見ですが)。
 
この復元画では、まさにその場面を描いているわけです。
 
Manzuetti et al. の説では、スミロドンは恐らく「致命的ダメージを与えた後でいったん退き、獲物が出血で衰弱するのを待ってから、追撃を加える」というシナリオを想定しています。獲物が窒息するまで「咬み続ける」ヒョウ属種のクランプ・ホールドバイトとは、明らかに異なった殺傷法であろうというわけ。
 
果たしてSmilodon populator が本当にオオナマケモノを獲物とし得たのか私には分からないし、このような殺傷法が有効であったかも定かではありません(加えて言えば、この復元画では狩りの成功の如何までは意図していないので、この刹那後、スミロドンはオオナマケモノに振りほどかれ撃退されたやもしれないし、あるいは、狩りを成功裏に収めたのかもしれない。それは想像にお任せします)。

が、可能性として捨て去ることはできないでしょう。なんとなれば食肉目史上でも恐らく大物猟への特化という観点からいえば究極の存在が、ダーク型剣歯猫(ネコ科のスミロドン属やメガンテレオン属のほか、バルボウロフェリス科のバルボウロフェリス属、ニムラヴス科のホプロフォネウス属など)であり、ここではその中でも無双の最大種を論じているのであるから。
 
皆さんはどう思われるでしょうか。
 

プレヒストリック・サファリ27 (更新世後期 南米パタゴニア) 'The Devastator' 特大スミロドンの発見
イラスト&テキスト by © the Saber Panther (All rights reserved)
 
☆次回作にはワニやベアドッグ、奇蹄類が登場します。ぜひチェックしてください。


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1 Comments

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Unknown (管理人)
2020-04-27 03:18:46
「いいね」を押してくださった皆様、ありがとうございます。とても励みになります。

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