Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

新型コロナウィルス感染症COVID-19:一人ひとりが行動変容を!行政は医療者を守る施策を!

2020年03月25日 | 医学と医療
今回のキーワードは,医療者の保護,マスクの合理的使用,クラスターと2次感染,呼吸器外症状(消化器症状,心筋症,嗅覚低下),アビガンの有効性です.「日本は現在,ギリギリの状況に置かれている」という認識を共有し,一人ひとりが「3つの条件が重なる場所」を避けるなどの「行動変容」を徹底して何とかオーバーシュートを防いでいきましょう.

◆医療者の保護(1).中国34病院の医療者1257名(女性76.7%)の精神状態に対する調査.職種の内訳は看護師60.8%,医師39.2%.結果はうつを50.4%,不安を44.6%,不眠を34.0%で認め,71.5%が苦痛を訴えた.重症となる危険因子は,看護師,女性,最前線での勤務(診断,治療,ケアに関わる),武漢での勤務であった.医療の質を保つために,医療者の精神的負担を軽減する対策を早急に実行する必要がある.JAMA Netw Open. March 23, 2020

◆医療者の保護(2).Lancet誌のEditorialで,政府による医療者保護の重要性が論じられている.中国では2月末までの報告で3300人が感染し,22人が死亡した.イタリアで20%,スペインで10%の医療者が感染し,重大な問題となっている.肉体的・精神的苦痛,トリアージの難しさ,患者や同僚を失うつらさ,個人防護具(PPE)不足と高い感染リスクへの恐怖,そして家族の感染リスクに苦しんでいる.これから医療は何ヶ月にも渡って,限界を超えた状態になる.しかし医療者は,ベッドや人工呼吸器と違って急ごしらえすることも,長時間フル稼働することもできない.行政は「医療者をコマとしてでなく,人間として見る必要」がある.PPE供給はまず行うべきで,不必要な業務の中止,休養の確保,精神的支援,家族への支援などが必要である.医療崩壊は多くの人命に関わる.Lancet. March 21, 2020

◆感染と予防(1).不足するマスクの合理的な使用について.マスクに対する方針は国によってまちまちの状態.エビデンスは十分ではないが,まず着用すべき人は,WHOが推奨するように,呼吸器症状がある人や患者のケアを行う人である.つぎに検疫・自己隔離中の人が何らかの理由で外出するときには,無症状でも着用すべき.高齢者や慢性疾患をもつ人も着用したほうがよい.そしてもし供給が確保できるのであれば,すべての人が着用すれば,無症状感染者からの感染を防止できる(結局,COVID-19のような特殊な感染症の場合,全員マスクは着用したほうが望ましいということになる).一方,マスクの使用可能時間の研究や,再利用可能マスクの開発も進めるべきだ.Lancet. March 20, 2020

◆感染と予防(2).発症前の感染者からの感染の頻度についての初めての報告.2月8日までの中国の患者468人の検討.次の人に感染するまでの日数(serial interval)は平均3.96日(95% CI 3.53–4.39日)で,MERSの14.6日よりかなり短く,対策が難しい.また49/468名(12.6%)は,発症前の人からの感染と考えられた(図1).未発症者からの感染を防ぐ対策が必要となる(つまり自覚症状や検温,サーモグラフィーでは見逃しうるため,行動変容による予防対策が大切になる).Emerging Infectious Diseases. March 19, 2020



◆感染と予防(3).シンガポールでの最初の3つのクラスター(A-C)36名に関する論文.中国への渡航歴があるのはCの2名のみ.この36名と濃厚接触者425名が検疫の対象となった.ウィルスの潜伏期間の中央値は4日(IQR 3-6)で(図2),次の人に感染するまでの日数は3-8日と幅があった.Aは店頭での接客,Bは会議・会食,Cは礼拝での感染で,握手などの身体的接触があると多くの人が感染してしまう.よって一定の距離を置くことが重要である(社会的距離戦略).またそれぞれのクラスターから家族以外の2次感染はなかった.つまり家族のような濃厚接触がない限り,2次感染が生じる可能性は低い(一方,3連休に数十万人が花見をしたというニュースは,社会的距離戦略に完全に逆行).Lancet. Mar 16, 2020



◆感染と予防(4).当初,市中肺炎と考えられていたものの,のちにCOVID-19であることが判明した重症肺炎患者に対し,2 m以内の距離で,10分間以上エアロゾル発生を伴う医療行為を行った41名の医療者全員が,幸い感染しなかったという報告.41人のうち85%は手術用マスクを着用し,残りはN95マスクを付け,さらに手指消毒,その他の標準的予防を行っていた.マスク,手指消毒の重要性を改めて示す報告.Ann Internal Med March 16, 2020

◆呼吸器外症状(1).「消化器症状」を主訴とする症例は予後不良であることが報告された.湖北省の3病院の204名の検討で,99名(48.5%)が食欲低下(83.8%),下痢(29.3%),嘔吐(0.8%),腹痛(0.4%)といった消化器症状を主訴とした(図3).消化器症状を主訴とした群は,そうでない群と比べて発症から入院までの期間が長かった(9.0日対7.3日).これは非典型的な症状のため入院が遅れるためと考えられた.重症例ほど消化器症状を主訴とする頻度が増えた.消化器症状のみを主訴とした患者が7名(3%)いた.退院できた患者は消化器症状あり群で少なかった(34.3%対60%).既報の便からのウィルス持続排出や消化管のACE2(ウィルス受容体)発現を考えると理解できる結果である.Am J Gastroenterol. March 18, 2020



◆呼吸器外症状(2).米国初の重症患者の症例集積研究にて「心筋症」の指摘.対象はワシントン州318床の病院のICU(20床)に入院した21名(平均70歳).併存症あり18名(86%).急性呼吸促迫症候群(ARDS)を呈した15名全例が人工呼吸器を装着した.昇圧剤を14名(67%)で使用.7名(33%)が心筋症を呈した.転帰は死亡14名(67%),重症のまま5名(24%),ICUを退室できたのは2名のみ.心筋症はウィルスの直接感染によるものか,重篤な全身状態に伴うものかは不明と考察.しかし心筋症は他の報告でも指摘されていることや,心臓もACE2を発現することから,心筋炎に伴うものである可能性はある.JAMA. March 19, 2020

◆呼吸器外症状(3).COVID-19が重症化した病態として,ARDSに加えて二次性血球貪食性リンパ組織球症(secondary hemophagocytic lymphohistiocytosis; sHLH)がある.発熱,血球減少,高サイトカイン血症(IL2/6/7,GCSF,MCP1,TNFαなど),多臓器不全を呈する致死的病態で,既報の二次性の病態としてはEBウィルス感染が有名.スクリーニングには血清フェリチン↑,血小板↓,赤沈遅延,そしてHScore(https://www.mdcalc.com/hscore-reactive-hemophagocytic-syndrome)が有効.この病態には積極的な免疫抑制療法が有効である可能性が高く,ステロイドパルス,IVIG,サイトカイン阻害剤(トシリズマブ)をトライすべき.免疫抑制剤の有効性については当初から議論があったが,この病態には有効であろう.Lancet. Mar 13, 2020

◆呼吸器外症状(4).前回(3月19日)の投稿で,ウィルスによる中枢神経障害として,味覚・嗅覚障害を紹介した.経鼻的感染による嗅上皮細胞から脳幹までのウィルス伝播の可能性が示唆されていることも紹介したが,米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会は,味覚・嗅覚障害をCOVID-19のスクリーニング項目に追加することを提唱している.
https://www.entnet.org/content/aao-hns-anosmia-hyposmia-and-dysgeusia-symptoms-coronavirus-disease

◆新規治療(1).新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する薬剤標的として,ウィルスが複製に使用するメインプロテアーゼ(MPro)がある.αケトアミド分子はこれに結合し,阻害剤となることが報告されていたが,今回,MPro単独及びαケトアミド分子が結合した複合体のX線構造解析に,ドイツの研究者らが成功し(図4),MPro阻害薬のリード化合物(医薬品開発の元となる化合物)が合成された.今後,誘導体化することで,肺への特異性や効果,薬物動態などの点で改良がなされる.最終的には肺への指向性を高めた吸入薬が開発される.Science. March 20, 2020



◆新規治療(2).ウィルスRNAポリメラーゼ阻害薬ファビピラビル(FPV;アビガン®)35名 vs 対照群としてのロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ®)45名のオープンラベル非ランダム化比較試験が報告された.いずれの群もIFN-α1bの吸入を行っていた.主要評価項目は,ウィルスが検出されなくなるまでの期間,および14日目の胸部CTの改善とした.前者はFPV群で4日(IQR: 2.5–9日),対照群で11日(8–13日)とFPV群でかなり短縮(P<0.001;図5),CT所見が改善したのはFPV群で91.4%,対照群で62.2 %とFPV群で良好であった(P=0.004).有害事象はFPV群で11.4%,対照群で55.6%で,副作用も少ない.ランダム割り付けは倫理的な問題でできなかったが,期待できるデータと言える.Engineering. March 17, 2020


この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 臨床試験において今後注目さ... | TOP | 新型コロナウィルス感染症COV... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 医学と医療