黒い路地裏

黒い路地裏

ミステリとか黒というか推理というか・・・なんかそういう黒っぽいのです。

ミステリや推理など、少し暗めのものを書いています。




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みなさん、こんばんは。

 

はじめたばかりの「ON/OFF」ですが、最近の体調が劣悪で思うように筆が進まずに苦しんでおります。

無理に書いても皆様に楽しんでいただけるものにはできないと思いますので、今しばらく、体調が回復するまでの間連載をお休みとさせていただきます。

お休みとは言っても、たぶん2~3日くらいだとは思うのですが。

 

勝手を申して申し訳ありません。

よろしければ再開を楽しみにお待ちいただければ、と思います。

 

藤流斗

KHα:(本日はお買い上げありがとうございました!)

 

その日、恭平が家へ帰りPCをセッティング後しばらくすると、健司からメッセージが送られてきた。

KHαとは健司のキャラクターネームだ。

 

kyo:(いえいえ、こちらこそアドバイスありでしたw)

 

kyoは恭平だ。

恭平は普段、ゲームにログインしてもクランの仲間とチャットを楽しむこともそれほどなく、専らレベリングに勤しむ性格だったので、その日も恭平とやり取りをしながらもダンジョンへ向かった。

 

KHα:(今何中?)

 

kyo:(スフィンクス中)

 

スフィンクスとはゲーム内で、かなりレベルが高いプレイヤーがソロプレイで利用するダンジョンの名前である。

 

KHα:(すっげ。俺まだ砂漠入ったばっかりだよー。)

 

砂漠は恭平よりも15以上はレベルが下の狩場である。

 

kyo;(砂漠だとソロムリでしょ?クランでやってんの?)

 

クランとはゲーム内のグループでクラン同士でアイテムを共有したり、同じイベントに参加できたり、一緒に狩りをするとレベリングがはやい、などの特典がある。

 

KHα:(俺のクランそういうの全然なし。ソロ好きだから今のクランでよかったんだけどさ、こういう狩場になると痛いわ。)

 

kyo:(痛いっていうか砂漠はソロムリだって。)

 

KHα:(kyoは砂漠どうやってクリアした?)

 

kyo:(僕のクランは協力体制とるからなぁ・・・。)

 

KHα:(うらやましい・・・うらやましいが、仲良しこよしもしたくねぇ・・・、前の狩場でギリまであげるかぁ・・・。)


砂漠、という狩場をソロでクリアするつらさは恭平にはよくわかる。

自分もソロで試したからだ。

そして、今の健司と同じように挫折してクランの仲間に助けを求めた。

が、その代わり、その後だれかからヘルプが入ると必ず助けに行かなければならなくなった。

だから健司の葛藤はとてもよくわかったのだ。

 

kyo:(15離れてるから、あまり経験値が美味しくないかもしれないけど、ソロよりましだから一緒にやる?)

 

普段は絶対に自分から人に親切な提案をしない恭平だが、何せ健司は10%引きまでがんばってPCを売ってくれた相手である。義理を感じたのはもちろん、なんとなくこの健司という人間は恭平にとって憎めない相手だった。

 

KHα:(まぢで?うぉおおおおおおおおおおお!頼む!)

 

kyo:(お前リアルの喋りとチャット一緒だな。)

 

ゲームだと、相手が5つ年上なことはまったく気にならなかった。

 

その後、恭平は健司のいる場所まで移動し、二人で2時間ほど敵を倒しまくり、健司のレベルを一気に2つあげた。

二人はそれからも時間や都合が合えば一緒にゲーム内で遊ぶようになり、鯖内ではどっちかがリアル女なんじゃないか、とか、BLだとか、同一人物が2PCでやってるとか、ネットではありがちな噂がたつほどだった。

二人でダンジョン周りをしたせいで、健司のレベルは1か月もすると恭平と2レベル差まで追い上げてきたので、だいたい毎日同じダンジョンで狩りするのがほぼ日課になっていた。

グループ限定ダンジョンなので、心置きなくお互いのクランの愚痴や、リアルの仕事の愚痴をチャットで話しながら狩りするのは、ストレス解消にとてもよかった。

毎日話しても話は尽きない。

これは、生まれて初めてといっていい、友人ができたのかも、と恭平が思い始めたときだった。

健司が言った。

 

KHα:(な、今度リアルで飲みにいかね?)

 

 

 

 

それは、黙っているだけで、汗が体中を滝のように流れていくような猛暑日だった。

 

「よりによって今日じゃなくてもよかったよなぁ。」

 

そう、ぼやきながら在原恭平は池袋にある家電量販店に入った。

パソコン専用の建物は店内は涼しく静かで、外の暑さが別世界のようであった。

恭平は一昨年大学を卒業し、都市銀行に就職したばかりで今年やっと手にしたボーナスを握りしめてゲーミングPCを選びにきていた。

店員が恭平を待ち構えていたかのように、色々と話しかけてきたが、子供のころからずっとインドア派だった恭平は、PCに関する知識もそこそこあり、店員のアドバイスは不要だったので、適当に返事をしながら事前にいくつか候補として絞ってきたPCのキーボードのタッチやスペックの再確認をしていた。

 

「ゲーム用をお探しなんっすよね?」

 

先ほどの店員がまた話しかけてきた。

 

「ええ、まぁ。」

 

(いいトシしてゲームかよ)と思われたくない気持ちもあって、恭平は不愛想に言った。

家族や、会社の連中には必ず馬鹿にされるからだ。

 

「なんのゲームしてます?」

 

なおも店員は聞いた。

恭平はそこで初めて店員の顔をまともにみた。

目がキラキラして、決して馬鹿にしているのではなく、どんなゲームをどんな楽しみ方でやっているのか知りたくてたまらなそうな、小学生のような表情だった。

恭平はその表情につられて普段やっているゲームのタイトルを答えた。

その次の瞬間である。

 

「ううううううううぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁっ!!!!!俺もなんっすよおおおおおおおおおお!!」

 

穴があったら入りたい、せめて人目を避けられるところがないか、恭平はきょろきょろしたが、男はまったくお構いなしに、ぐいぐい恭平に迫ってくる。

 

「何鯖っすか?」

 

鯖とはサーバーのことで、大規模なゲームになるとログインしている人数が多くなりすぎてゲームの動きに支障がでないように、遊べるサーバーをあらかじめ決めてキャラクターを作成する。

恭平が小さな声で答えると、またである。

 

「うっはぁぁぁぁぁぁぁっ、まじっすか!俺もなんっすよおおおおおおおお!!!」

 

もはや穴を掘ってまで隠れたい気分の恭平は近くにあった商談用の椅子に座った。

これで少しは棚の陰になり、人目を避けられる。

男はすぐにその向かい側に座ると、ゲームの話をはじめた。

いつからやっているか、どんなプレイスタイルが好きか、今までどんなことがあったか、入っているクランの様子はどうか、等々、恭平自身も話したい内容だったので二人は2時間近くもその話に没頭した。

ちょうどそのあたりで、男の上司がそばを咳ばらいをしながら通ったので、二人は話をPCに戻した。

男は、原島健司と名乗り、恭平より5つ年上だった。もともと親分肌体質なのか、「俺に任せろ」と宣言し、恭平は彼がすすめるPCを購入した。

現金で買ってしまおうと思っていたのだが、ちょうどその店ではボーナスキャンペーンをやっており、夏冬2回にわければ手数料無料の上、5%割引になる、というので、早速恭平は契約書に必要事項を書き始めた。

 

「銀行員なんっすかぁ・・・。なぁんか、安心した。銀行員だってゲームするよなぁ。」

 

恭平が意味を図りかねて健司の顔をみると、健司は慌てて言った。

 

「いやいや、差別とかじゃないっすよ。俺、親とか兄弟とかがガッコの先生とか、なんかそういうカタイことやってるのが多くて、家族は誰もゲームやんないんっすよ。んで、いっつも馬鹿よばわりされてるもんだから。」

 

「僕も理解者は少ないよ。やっぱり親は口では言わないけどよく思ってないの伝わってくるし、なんか勝手に『暗い』とか思われてて友達も少ない。」

 

恭平が、書き終えた書類を渡しながら答えると、健司は嬉しそうに笑った。

よほど嬉しかったらしい健司は、結局その後、フロア主任にかけあってあと5%の値引きを成功させ、恭平はものすごくお得にPCを購入することができた。

 

「設置とか大丈夫だよね?」

 

「うんうん、むしろ誰にも触らせねぇ。」

 

「ぶはっ、すんげぇいいやつと知り合いになれた!」

 

健司は笑うと自分の名刺を渡す際に、裏に自分の携帯番号とキャラ名を書いてよこした。

 

「あ、じゃぁ僕も。」

 

恭平も銀行の名刺の裏に、自分の携帯番号とキャラ名を書いて渡した。

 

「んじゃ、あとでな!」

 

健司は小声で言ってから、すぐに大声で

 

「ありがとうございましたぁっ!!」

 

といい、二人は店の前で別れた。