さらに、感染があった施設を保健所が公表するかどうか対応はまちまちで、旅行を口外しない感染者もいるとみられる。観光庁は感染者数の正確な把握はできないとし、もっと多い可能性もある。新型コロナウイルスの感染状況に対する新首相の認識の妥当性が問われている。

　菅氏は12日夜、ニコニコ動画の自民党総裁選候補者討論会に出た際、「トラベル」事業は経済立て直しに必要だとして「この1カ月半の間に780万人の方がキャンペーンを利用しまして、コロナにかかった方が7人だったんです」と発言。「しっかり守るべきことを守ればコロナにはそんなに感染しないということがわかった」と述べた。

 

 

　前日の11日には午前の官房長官記者会見で「これまで少なくとも延べ780万人の方々にご利用をいただき、判明をしています感染者は7名にとどまっております」と説明した。

　観光庁が把握する感染者数は、菅氏発言直近の10日時点で①事前に割引価格で旅行代金を支払った人が7人②正規価格で代金を支払い、事後申請で割引相当分の還付を受けられる人が13人――だった。これ以外に「トラベル」を利用せずに旅行し感染した人が16人いた。なお、①のケースでの利用者は延べ約780万人で、菅氏は①のみに言及している。また、②の利用総数は未集計だった。

　菅氏はなぜ、②を含めて感染者数を20人としなかったのか。赤羽一嘉国土交通相も18日の記者会見で①の感染者数（11人、16日時点）のみ発表し、②の人数には言及しなかった。

　菅氏らが②を除外する理由について、観光庁の担当者は「（事後還付のケースは）広く言えばトラベル利用者だが、全員が申請をするかは分からない。一般的にトラベル利用者の感染者数を聞かれたら（①の）割引価格で支払ったケースで答えている」と説明した。

　一方、担当者は「保健所により対応も異なり、利用者が口外しないケースなども想定され、感染者を100％把握できる形にはなっていない」としている。菅氏は11日の官房長官会見で「判明しているのは」と断りを入れたが、ネット討論会で断りはなかった。

 

 

　そもそも「トラベル」事業では旅行先での感染拡大が懸念されている。事業との関係は不明だが、10日時点（累計）で宿泊施設57人、旅行会社11人の感染が判明している。【牧野宏美】

ファクトチェックの真偽判定基準

　ファクトチェックは特定の主義主張や党派などを擁護、批判することが目的ではありません。社会に広がっている情報が事実かどうか調べ、正確な情報を読者に伝えるのが目的です。これは、国際ファクトチェックネットワーク（米国、IFCN）が掲げる国際的な原則「非党派性・公正性」に基づいています。

　毎日新聞は今後、新たなスタイルでファクトチェックの記事を随時掲載していきます。記事は国内で取り組みを支援するNPО「ファクトチェック・イニシアティブ」（FIJ）のガイドラインに基づき、チェック対象の情報について以下の基準で真偽を判定（レーティング）し、温度計のイラストで示します。毎日新聞はFIJの「メディアパートナー」の一つです。

　・正確

　事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。

　・ほぼ正確

　一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。

　・ミスリード

　一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。

　・不正確

　正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。

　・根拠不明

　誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。

　・誤り

　全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。

　・虚偽

　全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。

　・判定留保

　真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。

　・検証対象外

　意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。