トラックの走行音 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 旅先の無人駅で列車の到着を待っていた。雨が降っているが、頭上に屋根があるので濡れずに澄んでいた。ただ、辺りが薄暗くなっていて雨音が騒々しいので私は意識の体積が普段よりも窮屈になっているようだと感じていた。

 駅の周辺には田園が広がっていて遠くの道路にトラックが走っていた。他には自動車は一台もなかった。私はなんとなくそのトラックを目で追っていた。トラックは視界の中をゆっくりと移動していっていた。距離があるので走行音などは聞こえていなかった。

 その聞こえてくるはずがない音が突如として耳の奥に伝わってきたように感じたので私は驚いて身を竦ませながら辺りを見回した。しかし、身辺にトラックはなかった。走行音はもう聞こえなくなっていて辺りには雨音だけが響いていた。どうやら現実の音ではなかったようだと察したが、動揺したせいで鼓動が早まっていた。


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