もしかして、自分でネタを作ってるのか? そうは思いたくないが、考えてみれば今まで、そんなことが少なくない。確かにこれをきっかけにこうして久々にペンを執り、改めて書く気になっているのは、やっぱりネタ作りなのかと思えてしまう……。

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 登壇を知らせるBGMが流れ始めた、いよいよだ。ふっと、小さく息を吐いてみる。
大丈夫だ、多少の緊張感はあるものの、それほどではない。自分に言い聞かせつつ、舞台へと踏み出す……。

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 思えば、昨年の今頃だ。企業相手の仕事から、個人客相手の仕事へと大きくシフトして半年、待つだけの営業に少しもどかしさを感じ、ちょっとしたビジネスモデルを考えて、手探りながら自治体や金融機関に相談をしていたところ紹介を受けたのが今回のビジネスコンテストだ。それまでは実業として仕事をしていたこともあって、そんなコンテストがあること自体に目を向けたことがなかったが、起業を考えている人たちにとっての登竜門になるというもので、調べてみると各所でいろいろと開催されている。大賞を手にすると百万円単位の賞金がいただけるほか、金融機関や先行企業の目に留まれば、いろんな支援なども期待できるというわけで、これからの時代を背負う若い人たちに交じって、小生もコンテスト前段のビジネススクールから参加させてもらうことになったのが始まりだ。

 それから半年、講義はもちろんのこと、スクールの中でそれぞれ異なるフィールドに身を置く人たちの思いとか、抱えている課題、考え方など窺い知ることができたことで、自身の考え方が整理され、少なくとも当初の考えからブラッシュアップしたことは間違いない。自分で言うのもなんだが、それなりにはまとまったモデルになったと思っていて、幸い一次の書類選考もパスできたから、一応一定の評価はしてもらえたんだろうと思う。

 かくして二次選考となった。ここをパスすれば、晴れてファイナリストとなり、2,000人収容の大ホールでのプレゼントなるが、まずは目の前だ。二次選考のプレゼンは300人収容の中規模ホールに審査員の方々と我々一次選考通過者のほか、主催者サイドの併せて50名ほど。コロナ禍ということもあってか半分以上は空席で、体験したことはないが、恐らく何かしらのオーディションもこんな感じなんだろう。

 小生、人前で話すことに対して特に苦手意識もなく、どちらかと言えば結構好きな方で過去にはビジネスショーなどでも話したこともあるが、今回のプレゼン時間は3分という短さだ。この3分間で審査員を始め、聴く人たちを納得させなければならない。ここは言いたいし、これも含めたい、ちょっとしたボケもかまして、この辺りは流れに任せて例など挙げて、と骨格だけ決めて雰囲気を見つつ適当にアドリブで行ってきた過去のプレゼンとはまったく勝手が違う。アドリブなど入れていたら、3分などあっという間だ。だから今回はシナリオを用意することにした。最初は淡々と、一旦止まって転調、ここで少し笑いでも取れたら、なおよろし。そこからは一気に盛り上げてと、短い中にも起承転結を込めて、出来上がった台本は案外悪くない。あとは、この台本通り演じられるかというところだが、なかなか難しい。練習を重ねて、ようやくそらで行けると思っても、少し詰まると3分を超えてしまう。詰まらずに行けるようになったと思って、スライドの操作を入れるとスライドの内容に目が行き、セリフが飛んでしまう。この辺り、目から入る情報というのは思った以上に多いのだ。特に見る気はなくても、そこにキレイな女性がいなくても、目を奪われてしまう。

(暇なとき……、ちゃうちゃう、お客さん来ないとき、やがな。読んだらあかんがな……)

 こうして、練習を重ねて迎えた二次選考、会場に向かう途中で台本を家に忘れてきたことに気が付いたが致し方ない。試しに頭の中で復唱してみると、一応セリフは出てくるから、ここは肚を決め、台本を忘れてきたこと自体を頭から振り払い、会場に向かう。会場到着後も頭の中でセリフをつぶやく。途中詰まっては最初に戻り、また初めからと復唱を繰り返す。隣の話し声が気になる……、また初めから復唱する。そういえば、最寄りの金融機関からも応援に来ていただけているはずだ、と思いながら、また初めから復唱する……。袖で出番を待つ間も復唱を続けながら、実は内心ワクワクもしていた。よし、うまくやればこの場の空気が変わるぞと。

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 BGMが鳴り止み、司会者より紹介を受ける。スポットが降り注ぐ。

「私、社会人になってから……」

 予定通り淡々と最初のフレーズを話し始めた。1フレーズが終わったところで一旦止まるが、こともあろうにここでスライドを見てしまった。文字通り、止まってしまった。言葉が出てこない。

(これはなんや? ん? あれ? 言葉が……)

 要するに、これが頭が真っ白になるということだろう。初めての体験だ。この時点で脳みそがパニックを起こし、何も頭に浮かばないという状況になってしまっていたということだろう。正にこの場の空気を変えてしまった瞬間だ。それも悪い方に……。そこから先は、何を話したのかも覚えていない、転調どころか、笑いどころか……。こんなことが起こるのだと自分で自分にビックリしつつも、恐らくは小生以上に会場の人たちには居心地の悪い3分間だったに違いなく、はなはだ申し訳ない状況を作ってしまったのだ。大失態を演じてしまったのだ。練習が足らなかった、台本をなんでちゃんと持ってこなかったのかと思ったところで今さら致し方もない。恥ずかしながら、この辺り後進の人たちには参考にしてもらえればと思うところだ。

 結果、当然ながらファイナルに進むことはなく、二次敗退となってしまった。もちろん、まともにプレゼンを終えていたとしても結果は同じだったかもしれないが、少なくとも選考結果が出るまでのドキドキ感を感じられたのではないかと思うと実に残念だ。ただ、ファイナルに行っていたなら、舞い上がってしまっていたかもしれず、今年の正月に引いたおみくじに書かれていた「慢心を去れ!」という言葉に従えば、まあ結局は縁がなかったのだろうと思う。もちろん、応援に来て下さった金融機関には後日、お礼とともに謝りに出向き、連れ合いを始め、コンテストに出ていたことをご存じの方には頭を掻き掻き失態を語りと、みそぎを済ませていたが、どうせならネタにしてやれとこうして書いているわけだ。

 いずれにしても、うまくいったこと、成功したことを語るのは自慢話にしかならないが、失敗はネタになる、新たな体験はネタになるというのを改めて思い出させてくれたと、まあプラスに考えている。ただ、ちょっと悔しいが……。