『ロイスと歌うパン種』(原題:Sourdough)
ロビン・スローン(訳:島村 浩子)
〈東京創元社/単行本〉
主人公のロイス・クラーリーは、コンピューターに囲まれて育ち、大学を出て直ぐに電気自動車のモーターを制御するプログラミングの会社に入社する。
ロイスは、楽しく仕事をして家も買った。
そのローンを10ヶ月分支払ったところで、サンフランシスコのIT企業から転職の誘いが来てしまった。
仕事は、工業用のロボット・アームのプログラミングだ。
いろいろ迷うところはあったが、給料は両親二人分の合計額より大きいと聞かされて転職を決めた。
しかし、給料がいいと言うことはその分、労働と結果を求められる。
ロイスは、ゾンビの様な顔で亡霊の様に動く同僚と共に、昼夜を分かたず働いた。
胃痛持ちになり、髪の毛はぺったりと薄くなった。
そして食べ物は、総合栄養剤の『スラーリ』だけだった。
そんなある夜、アパートに帰ると〈クレメント・ストリート・スープ・アンド・サワードゥ〉と書かれたチラシがドアに挟まっていた。
マズグの兄弟がやっている伝統料理のケイタリングサービスだ!
メニューの“ダブル・スパイシー”を注文。
信じられないくらい美味しい!!
何日か続けて食べていると、胃痛も治まってきた。
そして“ダブル・スパイシー”を食べることが日課になってきたある日・・・配達に来たチャイマンが顔を曇らせて言った。
「俺とベオ(チャイマンの兄)は町を出て行くことになった」
どうする!?ロイス!!
せっかく胃痛が治ってきたのに!
せっかく楽しい兄弟と出会えたと言うのに!
どうやって“ダブル・スパイシー”を手に入れるんだ!?
どうやって、何を楽しみに生活すればいいんだ!?・・・というお話!
★☆★ ネタバレするぞ! ★☆★
作者は『ペナンブラ氏の24時間書店』のロビン・スローン。
『ペナンブラ~』は、古書の面白さと、それを扱う若者とベテランのやりとりや、程良いロマンスが描かれててとても面白かった。
『ロイスと歌うパン種』が発売されたと言うのを知って、文庫本になるのが待ちきれずに、単行本で購入した。
本書が手には入った当時、読みかけの文庫本があったので、それを読み終えてから読み始めようと思った・・・・のだが“読みかけ”がことのほか時間がかかってしまい、手に入れてから読み始めるまで二ヶ月もかかってしまった。
全ての人に面白い!・・・と言われる本ではないと思う。
が、私にはかなり面白かった。
大きな事件やサスペンスがあるわけではないが、グングン引き込まれる感じで読み進んでいく。
場面転換がかなり巧みで、丁度いい感じで謎をのこしたまま次の場面に移っていく。
登場人物もプロットもファンタジーのモノなのか、現実のモノなのか境目がはっきりしないもの面白い。
これは『ペナンブラ~~』でも同じ様な設定があって、ちょっとジュブナイルな感じで、そこら辺が苦手な人にはキツいかも知れない。
でも、話に詰まって逃げ道としてのファンタジーではないと思うので、私はその辺りが逆に面白かった。
一つだけ、気になったこと・・・というか、欲求不満なところがあった。
それは、主人公のヒロインとその恋人(憧れの人?)との心象の描き方が薄い気がした。
もう少し、何というか・・・ヒロインが“彼に焦がれる気持ち”を書いて欲しかった。
最後の場面。
人に指摘されて気付くというのがどんでん返しなのかも知れないがちょっと弱い。
読者には、もう少し気を揉ませても良かったのではないかと思う。
いろいろ書いてきたが、久しぶりに単行本で買って得した気分になった本だ!
私もサワードウを作ってみたくなった。
堅パン・ハードだ!!!!!!
パンを作るのって、面白そう!
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