皆さま、こんにちは!らぶばなです。星にまつわるお話のBANANAFISH二次創作小説をぼちぼち書いています。お付き合いいただければ幸いです。
「星空に君を想う」(2)
「できたぁ!」
英二は手にしていたハサミとノリを置き、気だるさを感じていた腕を天井に向けてのばしながら唸るように声をだした。
「結構な出来栄えじゃないか」
集めて作り始めたのだが、意外にも楽しかった。
リビングのローテーブルの上には華やかな七夕飾りが並んでいた。英二は満足げにそれらを眺めて、それぞれ手にとってみる。
アッシュに買ってもらった高級な千代紙を使ったせいか、ただの折り鶴ですら”アート”らしく見える。
事前にネットで七夕飾りについて検索しておいてよかったと思いながら視線を下げると、床に散らばった失敗作や切った紙の残骸が見える。それらについては今は見なかったことにしておいた。
(せっかくだから。。。撮影しておこう!)
自分の部屋に戻り、いそいそとカメラを用意して撮影し始めた。
たったひとつ残念なのは、笹が手に入らなかったことだ。
七夕らしく笹に吊るしたかったのだが、できないものは仕方がない。何かで代用できないかと部屋を見渡すと観葉植物が目に入ってきた。
茎が三つ編みのようにねじれている特徴的なマネーツリーの木だ。このアパートに引っ越した際、キャッシュでポンと購入してくれたお祝いとして不動産会社の人がくれたものらしい。
他にも観葉植物はあるのだが、この木はすでに英二と同じくらいの高さに成長していて、他のものよりもダントツに高い。
笹とは随分イメージが違うものの、雰囲気だけでも伝わらないかと、英二は折り紙で作った七夕飾りを観葉植物に吊るしてみた。
「うーん。。。。何だか違うよな。。。。」
首を傾げながら英二が唸っていると、いつの間にかアッシュが出先から戻ってきてた。
「Hi, オニイチャン。クリスマスまで我慢できなかったの? さすがに気が早いんじゃないか?」
ハッとして振り返ると、腕組みをしながらアッシュが英二をみていた。
「アッシュ! いつのまに。。。気づかなかったよ。おかえり!」
「あぁ」と言って、アッシュはマネーツリーの木にぶら下がる星飾りを指差した。
「クリスマスまでまだ半年はあるんだぜ?」
「えっと。。。クリスマスじゃなくて、七夕祭りの飾りを作っていたんだ。なんていうんだっけ? Star festival かなぁ? 本当は笹に吊るすんだけど。。。」
どこまで伝わるのか不安に感じながらも、英二は携帯で画像を検索してそれをアッシュに見せながら、7月7日は天の川で隔てられた織姫と彦星が年に一度会えること、短冊に願いことを書いて笹に吊るすことなどを説明した。
「へぇ。。。変わった祭りだなぁ。。。」
マネーツリーに引っかかっている網目のように細かな飾りを不思議そうに色々な角度で眺め、アッシュはそれをビローンと伸ばした。
「何だこれ? 蜘蛛の巣?」
「ちーがーう! それは投網(とあみ)。魚を獲る漁網なんだ」
「じゃぁ、この輪っかは? コングが似たようなのを首に巻きつけてたぞ?」
「。。。それは輪飾りです。」
「かぼちゃモンスターは完成したのかよ? 楽しみにしているのに」
「。。。よく言うよ」
わざと揶揄ってくるアッシュの相手をするのに疲れてきた英二は気だるそうに答えた。
「あー、ちょっと肩こっちゃった。コーヒーでも作ろうっと。君も飲む?」
「あぁ、頼む」
***
「おまたせー」
英二はコーヒーの入ったマグを2つトレイにのせ、リビングのドアを開けた。
アッシュは英二が作った折り鶴の羽を広げ、パタパタと閉じたり開いたりしながらそれを窓ガラス越しに空へかざしていた。
「あ、それ気に入った?折り鶴は折り紙の定番だよ。」
「綺麗だし、ちゃんと細かいところまで動くんだな」
「君もやってみる?」
「そうしたいところだが、遠慮しておくよ。おれは”ぶきっちょ”だから。お前が作ったもので遊ぶ方がいい。」
なぜかアッシュはツルが気に入ったようで、さっきからずっと手に取って動かしていた。
「あはは、そのツル、本当に空を飛んでるみたい」
英二が笑うと、アッシュは穏やかに微笑んだ。
「。。。まるでお前みたいだな」
「。。。?」
理解できず首をかしげると、アッシュはトレイからコーヒーを受け取り、窓からの景色を眺めていた。いつの間にか夕暮れ時になっていて、空は美しいオレンジ色に変わりつつある。
「夜になってもここはあまり星が見えないよね」
英二は少し残念そうに空を見上げた。
「高層ビルに遮られているからな。街頭や照明の人工的な光のせいで夜空が明るくなってしまうんだ。肉眼で見るのは難しいだろうな」
「そっかぁ。。。僕の故郷は田舎だし、遮るものがないから良く星が見えたよ」
「。。。俺もガキの頃、ケープ・コッドで夜空を眺めていた。」
「そうなの? 流れ星をみたことはある?」
「あぁ、もちろん。おまえは?」
「僕もみたよ。願い事言おうと思っている間に消えちゃうんだよなあ。。。どこの星が流れてくるんだろうってずっと不思議に思ってた」
「流れ星は宇宙空間にある氷や岩のカケラが地球に向かって飛び込んできたものさ。地球の空気との摩擦で熱くなって光るのさ。でも大抵は地上に着くまでに燃え尽きてしまう」
「へぇぇ! そうなんだ。でも流れ星もたまには地上に落ちるでしょ? たまに隕石が落ちてきたっていうニュース聞くよね? 民家の屋根を突き破ったとか、地面にすごい穴があいたとか」
「隕石は流れ星とほぼ同じものだ。火星と木星の間には小惑星帯がある。その小惑星帯の小惑星同士がぶつかってできた破片の一部が地球に落ちてきたものだと考えられているそうだ」
「火星。。。木星。。。あぁ、太陽の周りを回る星だな! たしか "すい,きん,ち,か,もく,ど, てん, かい, めい…” って昔覚えたぞ。。。太陽から近い順に、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星だっけ。でも小惑星帯があるだなんて知らなかった」
「自ら光を放つ星を恒星(こうせい)と言う。太陽は恒星だ。俺たちが住む地球はその太陽の重力によってその周りをまわる惑星だ。”太陽系”というところに属しているんだ」
「惑星。。。?あれ、月はどうなるの?月も惑星じゃないのかい?」
「月は地球の周りを回る”衛星”だ。地球の衛星は月ひとつしかないが、木星や土星には衛星は60以上見つかっている」
「へぇぇ。。。。君、物知りだとは思ってたけど星や宇宙についても詳しいんだね!」
「天文学も”一般教養”として教えられたのさ。偵察衛星って知ってるか?軍事目的の人工衛星で、スパイ目的のためにバンバン打ち上げられてるんだぜ? 俺の”専門” と”得意分野”は 他にあったから天文学は広く浅く学ぶ程度だったけど、ひょっとして俺も研究者の一人にさせられていたかもしれないな」
皮肉っぽくアッシュはククッと笑った。
「。。。。。」
それを聞いて英二はキュッと唇を強く噛み締めた。
アッシュが天文に詳しいことは新鮮な驚きだったが、誰が何の為に躾けたのかと想うと複雑な気持ちになってしまった。
その様子に気づいたアッシュが静かに口を開いた。
「宇宙は星について学ぶのは嫌じゃなかったし、興味深かった。昔、グリフが天体望遠鏡を持っていて、一緒に見せてもらったことを思い出したから」
グリフの名前が出て、うつむいていた英二は顔を見上げた。アッシュは穏やかに微笑んでいた。数少ない兄との貴重な思い出話を聞けるチャンスだと、英二はやや興奮気味に問いかけた。
「お兄さんと一緒に観察してたの?いつ?」
「あぁ、兄貴がベトナムに行く前の年だったな。。。友人に天体望遠鏡をもらったと言っていた。兄貴のやることすべてに興味があった俺はもちろん”見せて!”とせがんだよ。 星がまるで川のように広がって。。。儚くて綺麗だった」
懐かしそうに微笑むアッシュの横顔が愛おしく感じられた。
「きっと天の川だね。僕も妹と夏の夜に見たことがあるよ。君も同じように星空を見ていたんだね」
まだ二人が出会うずっと前 同じ宇宙(そら)の下で 美しい天の川を見ていたのかと想うと感慨深く感じられる。
「いいなぁ。。。僕も君と星が見たいなぁ」
英二のつぶやきがアッシュの耳に入ってきた。いまNYを離れることはできないと英二はよく分かっている。ほとんどアパートから出ない不自由な生活をさせていることもあり、思わずポロリと溢れた英二の本音にアッシュはチクリと胸が痛むのを感じた。
*続*
お読みいただきありがとうございました。 ”水金地火木...”。って覚えませんでしたか?懐かしい。。。
観葉植物を笹の葉にみたてて飾りを吊るしている英二は天然なのか?(笑)
アッシュが何かと英二を揶揄って遊んでいます。。。(笑)仲良しな二人が好きです。。。。
こちらの第二話、Upしてたつもりが消えていたので、再度UPし直しました。ちょっと前回と変わってたらごめんなさいね。
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