娯楽が多様化するなかで、
自分がまったく興味のない対象であっても
「おもしろいと思う人がいるからにはおもしろい理由があるのだろう」
と考えるのが自然です。
たいていのことは
「おそらくおもしろポイントはここだろう」と推測できるのですが、
どう考えても理解に苦しむ娯楽もあります。

朝から玄関前がにぎやかでした。
どうやらお隣が引っ越しで出て行かれるようです。
まだ越してきてから1年も経っていなかったはずです。
お年寄りの単身世帯であったはずですが、
越してこられたときも挨拶はなく、
その後も一度しか見かけていないくらい接点がありませんでした。

にぎやかなのは
引っ越し業者のかたたちが慌ただしく出入りしているせいです。
ところがどうやらそれだけではありませんでした。
別の階に住む人たちが集まって玄関前でおしゃべりしながら、
ただ引っ越しの様子を見物しているのです。

玄関ドア越しに耳を向けてみると
聞こえてくる話の内容はいわゆる世間話であり、
その人たちも引っ越しする当人と面識がないようでした。
知り合いならまだしも、
面識のない人の引っ越しを遠巻きに見物することが
娯楽として成立しているみたいです。
引っ越しとはまったく関係のない話を延々と続けられています。
知らない人の引っ越しを見守る知らない人たちによる立ち話です。


これがなかなかその場を離れがたい引力を持っています。