「八十一歳かぁ。あー怖」


我が家のソファーに腰掛け、自分で嘆く皺だらけの腕をさすりながら退院したばかりの義母が言う。


大きな窓の外は久しぶりに澄み切った青空にくっきり白く浮かぶ夏の雲。





「結婚させてください」


緊張しながらあなたにそうお願いしたのは二十七年前の春先の頃。


今の僕たちより若かった。


「よろしくお願いします」


呆気なく反対に言われた。


時を超えて今、私がありったけの気持ちを込めて返す。


「一緒に暮らしましょう」


繋がっては離れてた時の流れが停留し、床の上に落ちた。


「お世話になります」


今まで拒んでいたあなたは少しはにかんだ笑みを浮かべながら頷いた。


振り返り、また前を向く。


前を歩き、後ろを見返す。


互いに辿ってきた道がようやく一本に交わる。


このままずっと。


いつか別れても。


確かなこの道、二度と繰り返せぬ今日の日。


カラッと晴れ渡った涼しげな風が吹き抜ける。