9月のイギリス

「新たな感染防止策導入にうんざり、でも……」

ボッティング大田 朋子

 

新型コロナウイルスの新規感染者がここにきて再び急増中のイギリス。

前回のコラムでも紹介した通り、イギリスでは9月に入って学校が再開し、ほとんどの子どもたちにとってほぼ半年ぶりに学校に通う日常が戻った。けれどその矢先コロナ対策が再強化され始め、9月14日からはそれまで30人までの集会が許されていたのが屋外屋内を問わず6人以上で集まることが違法になった。続く9月24日からはパブやレストランの営業が午後10時以降禁止されるはこびになり、我慢しても我慢してもふりだしに戻る現状に絶望とやりきれなさを感じている人も多い。

(参照;9月イギリスからのレポートはこちらhttps://bit.ly/3mMZg0T

 

3月にロックダウンが始まったときは「前代未聞なことが起きていて大変だけど、コロナの感染拡大防止のために自分もできることをしたい」と従順だったイギリス人も、出口が見えないまま再びロックダウンルールが強化されている今、コロナ過が長引くことへ疲労感を募らせ、仕事や生活面での具体的な問題に直面し、心配、嫌悪感、いらだち、さみしさなどどこにぶつけたらよいかわからない感情を抱えながら毎日を過ごしている。

 

このコロナ騒ぎが行き着く先はどこかと思いめぐらすと暗くなってしまうが、こんなご時世だからこそコロナ禍のイギリスで見られるポジティブな動きを紹介したい。

 

 

・前代未聞のベイキング熱

3月からのロックダウンを境にイギリスではパンやクッキーを焼く人が相次いだ。ある調査によればロックダウン中の2か月で国民の53%がベイキングをしたとか。なかでもパン作りは一種のブームになっている。ロックダウン当初はパニックからの買いだめもあってスーパーの棚から小麦粉類がすっかり消えてしまったのだが、代わりにファーマーズマーケットや地元の小売店に足を運ぶなどして調達した人も多かった。

 

 

 

 

・売切れていても自家製で対応

小麦粉と同じようにドライイーストも一時期スーパーの棚から消えてしまったが、イースト菌なしでできるパン作りレシピがSNSを駆け巡り、または「イースト菌は手に入らないけど時間はあるしね。」と小麦粉と水から発酵種を自宅で手作りしたり、レーズンやりんごなどの果物を使って自然酵母を作ってパンを焼いていた。人々が現状と折り合いをつけて工夫している様子が印象的だった。庭に咲くバラの花びらやラベンダーを使って天然酵母を作る人までいて圧倒されてしまった。

 

初心者レベルだが何を隠そうわたしもコロナ過にパン作りまっしぐらになった一人で、今までホームベーカリーを使ってお手軽なパンしか作ったことがなかったのだが、小麦粉と水で発酵種を培養してパンを作る「サワードゥブレッド」作りに挑戦した。「サワードゥブレッド」は小麦粉と水をまぜたものに毎日小麦粉と水を足し続け、その結果できる「スターター」を使って作るパンで、慣れるまではやたらと時間と手間がかかるように感じるのだが、始めてみると実に奥が深くはまってしまった。いつもの料理以上に段取りが必要で手間を考えると買った方が早いとも思うのだが、世界が不安定だからこそ手を動かしたかったのかもしれないし、面倒くさいけれど生活が潤うことをしたくなったのかもしれない。それにパン生地のフワフワ感に癒される。

 

周りの友達を見ると同じようにそれなりの楽しみを見つけてコロナ過に対応している様子が伺える。たくさん花を植えたり、野菜を育てたり、ポプリを作ったり、チームスポーツはいつ制限がかかるかわからないからと一人でできる運動(ウォーキングやランニング)を始めるなど、人それぞれだが身近でできることを見つけて自分の毎日をよくしようとしている。

 

 

 

・レジリエンス発揮

再びわたしのことで恐縮だが、数年前に買って以来ほこりがかぶっていたミシンをようやく春から使い始めた。小さくなった子どもたちの衣類を再利用してカバンやマスク、帽子や髪飾りなどを作っている。こんな感じでやりたいと思っていたけれど面倒くさくて手につけていなかったことをこの機に始めた人は少なくないと思う。これもコロナがあったからこそともいえる。

 

仲が良い友人たちと会うと「気が滅入らないために何をしているか」といった話にもなる。ある人が、「毎朝、1)今日やること、2)やらないことを一つ決め、3)ありがとうと思う事を一つ思い浮かべる」というのを習慣にしていると言っていた。別の友人はアプリを活用してマインドフルネスをしたりオンラインでヨガを続けている。多くの人が自分の体と心に優しくなれることを知らずしらず実践しているなあと感心してしまう。

 

コロナに焦点をあてるとうんざりしだが、身近にはそんななか毎日の生活に集中しようと淡々と力強く生きる人たちの姿がある。今を生きる私たちの「レジリエンス」も捨てたものではないかもしれない。

 

 

ボッティング大田 朋子 Tomoko Botting-Ota

ライター&プロジェクトプロデューサー

 

アメリカ→ドイツ→インド→メキシコ→アルゼンチン→(数か月ばかりの英国滞在)を経て、2011年秋スペインへ移住。

現在イギリス・カンタベリー在住。

 

メキシコでオーガニック商品の輸出会社立ち上げ+運営。

アルゼンチンのブエノスアイレスでマンガの国際著作権エージェント立ち上げスペイン語出版。

 

 ⇒プロフィールはこちら https://tomokoota.wordpress.com/about/

 

ブログ https://tomokoota.wordpress.com/