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放り出してしまった携帯を呆然と見ていた時に玄関のチャイムが鳴った。

ドアホンの画面を見ると母の心配そうな顔が写っている。

「お母さん・・・」

ドアホンに呼びかけるも、そのドアホンの使い方が分からない。

佐知は急いで玄関へと向かった。

ドアを開けると母はじっと佐知の顔を覗き込んだ。

「佐知、本当に何も分からないのね?」

佐知は遂に我慢できずに泣き出してしまった。

「分からない、何も。どうなってるの?私可怪しくなっちゃったの?」

母は黙って佐知を抱きしめてくれた。

そのままリビングへと手を引いて、佐知をソファーへ座らせ再び抱きしめながら頭を撫でてくれた。

「お母さん、どうしたら良いの?」

「とりあえず、佐知がどこから分からなくなってるのか教えて頂戴。」

母に言われた通り、佐知はうたた寝から目覚めた時の事を話した。

「じゃあ、佐知は二十歳までの事は覚えているのね?」

「うん・・・覚えているって云うか、さっきまでそうだったの。」

「あ・・・うん、そうね。佐知にはそうなのね。」

「うん・・・・。」

「そうね・・・とりあえず、病院に行って原因が何か調べてもらいましょう。」

「・・・やっぱり、お母さんも私が可怪しくなっちゃったって思うの?」

「違うわよ。佐知が可怪しいなんて思わないわよ。きっと、ちょっとだけ記憶が変になってしまっただけ。何か原因があるはず。だから、ね、ちょっとだけ調べてもらいましょう。」

母の言う事がマトモなのだろう。

自分も他人が今の自分の様な言動をしたらそう思うはずだ。

「分かった・・・病院に行く。お母さんも付いて来てくれる?」

「勿論よ。お母さんが行かないでどうするの。心配しなくて良いのよ。」

「うん・・・・。」

その時またドアホンが鳴る。

「はい、・・・あ、ちょっと待ってね、隆さん。」

母がドアホンに向かって話していた。

隆さん?

あ、私が結婚したと云う男性・・・旦那様?

佐知は混乱している今どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。

思わず母の腕を掴んだが、母は笑顔でそっとその手を握りながら諭すように言った。

「大丈夫だから。心配しないで。貴方が選んだ人なのよ。心配するような人じゃないから、落ち着いて、ね。」

「うん・・・・。」

手を離すと母が玄関へと向かい、私の旦那様だと云う男性を連れて戻って来た。

その男性は私を心配そうに見て近寄って来たが、佐知は思わず身体を捩って逃げてしまった。

「あ・・・ごめんなさい・・・・。」

申し訳ないのはこちらなのに謝った私に笑顔で首を振って側から離れてくれた。

「いや、僕こそごめん。佐知には今僕が何処の誰かも分からないんだよね。それなのに急にそばに寄られたら怖いよね。」

佐知は申し訳け無いと思う気持ちが胸を押しつぶしそうになった。

「大丈夫だから、気にしなくて良いだんだよ。佐知が悪いわけじゃない。きっと何かの拍子にちょっと忘れちゃっただけなんだよ。心配しないで。」

母の言う通りきっと良い人なんだと思う。

でも・・・・それでも佐知には今は他人にしか思えなかった。

俯いていた佐知はさらに驚くべきことを聞かされた。

「佐知、落ち着いて、あまり興奮したり、心配したりしないようにね。お腹の子供が驚いちゃうからね。」

「えっ?」

私は妊娠しているの?

誰の子供?

考えるまでも無く、この旦那様の子供なんだろう。

彼・・・旦那様には申し訳ないが、佐知はゾッとした。

見も知らない男性の子供を宿している。

力無くへたり込んでしまった。

「大丈夫かい?佐知?」

声を掛けてくれるが返事をする気力も無くなってしまいそのまま突っ伏してしまった。

「佐知・・・」

何となく母が抱き締めてくれた感覚は分かった・・・。

そして意識が遠くなった。






チャララ~ン、チャララ~ン。

はっと目を覚ますと、いや、眠って居たわけじゃない。

ヘッドセットを外した。

汗びっしょりだ。

「いかがでしたか?新発売、プレイステーション7、新型VRゲーム{記憶}。新作発表モニター体験のご感想をお願いします。」

「え、あ、はい・・・・。」

「楽しんで頂けましたか?」

「あ、え、あ、はい・・・・。」

「それはありがとうございます。では、申し訳ありませんが、こちらにアンケートをお願いします。」

「あ、はい・・・・。」

質問事項は結構多岐に渡るものだったが、適当に書いてやった。

こんなクソゲー誰が2度とやるか。

気分が悪い。

俺、男だし。

あんな不気味な奴の子供を妊娠なんかしたくない。

俺、男だし。

畜生!これからうたた寝するのが怖くてしょうがなくなるじゃないか。


オシマイ
(いや、オチに困ってあるあるに逃げたんじゃ無い!違うって~)