州によるIRA自動積立プログラムについて

比較的大きな会社や組織で働いている人は、401(k)や403(b)などリタイヤメントプランの提供を受け、所得税控除で積立ができると同時に、Employer matchの恩恵もあり、年間でかなりまとまった額がリタイヤメント資金準備に積み立てられていることが多いです。一方で、アメリカの労働人口の半分くらいは、職場でのリタイヤメントプラン提供がなく、資金準備が大きく遅れているという問題があります。前回ご紹介した、SECURE ACTもこの問題を軽減すべく、スモールビジネスのリタイヤメントプラン提供を促進することを狙ったものですが、この連邦政府での動きとは別に、各州政府がこの問題に取り組んでいます。State-run IRA(州が運営するIRA)などという総称で呼ばれることが多いこのプログラム、労働者としては何を知っておかなければならないかについて考えます。

State-run IRAって?

State-run IRAは州が運営するIRAプログラムで、州内のリタイヤメントプランを提供していない雇用主に対し、労働者へのプラン提供を義務付けるものです。他のリタイヤメントプラン(401(k)やSimple IRAやSEP IRAなど)を提供していないのなら、雇用主はこのState-run IRAを提供しなければならない義務があります。多くの場合、Automatic Enrollmentで、労働者がOpt Outしない限り、給料の一定パーセンテージが自動的に積み立てられることになります。

2017年に、最初にこのState-run IRAを開始したのはオレゴン州で、OregonSavesというプログラムでした。次にイリノイ、カリフォルニアが続きました。リタイヤメントプランの提供のない雇用主に勤める人々に、リタイヤメントプランが使えるようにする・・・と聞こえはいいのですが、これらのプランは、基本的はもうすでに個人に提供されているIRAであること、プログラムの手数料が十分低くないこと、州がわざわざしゃしゃり出てきて法律でしばらなくてもいいのではないかということ・・などなどの諸理由から、導入はスムーズではありませんでした。実際、オレゴンとカリフォルニアのプランに対しては訴訟が起こされ、結局はオレゴンのケースは取り下げられましたが、カリフォルニアはプラン側が勝訴し、2019年半ばにスタートしています。

コネチカット、メリーランド、ニュージャージーも後を追い似たようなプログラムを導入、ワシントン州は少し性質が違って、ひとつのプランを全員に義務付ける代わりに、Market Place Site(オバマケアのHealthcare Marketplaceに似たようなものらしい)を用意し、そこで提供されている複数のプランからもっとも自社にあったものを選ぶというようなシステムのようです。

State-run IRAを知る

各州ごとにプラン設定をするので、内容はまちまちではありますが、このState-run IRA、一般的に下のような性格を持ち合わせているという部分で共通点があります。これら項目ごとに考慮点を書き入れていきます。

  • 多くの場合、積み立てたお金はRoth IRAに入る
  • 労働者が自分でOpt outしない限り、自動プラン参加(Automatic Enrollment)する
  • デフォルトの積立率は収入の3~5%程度

State-run IRAという総称で呼ばれ、カリフォルニアではCalsavers、オレゴンではOregonSavesという固有の名前がついていますが、ベースのしくみはIRA(Individual Retirement Account)であり、これは1974年からずっと存在した権利です。労働者は、この新しくできたState-run IRAにわざわざ加入しなくとも、自分が選ぶ金融機関でIRAを開くことはもう長年可能であり、多くの人がその権利を使っています。State-run IRAは、この以前からあったIRAの仕組みの上に、給料天引きの自動積立機能をつけて名前を変えて提供したものです。

給料天引きというと聞こえはいいかもしれませんが、それ自体は大きなベネフィットはないように思います。これらのしくみをわざわざ使わなくとも、たとえばVanguardでIRAを開き、銀行口座と連結して月々〇ドルを自動積立するように設定することは決して難しいことではありません。

なお、State-run IRAは、多くのプログラムでRoth IRA口座を使っています。IRAには2種類あり、Traditional IRAとRoth IRAです。Traditional IRAは積立額が所得税控除になりますが将来的に引き出し時に所得税を払うことになります。一方でRoth IRAは、現在所得税を払って将来的には所得税控除で引き出すことができます。 State-run IRAは中小事業主の雇用者が多く、比較的中低所得層が多いと思われることから、先に低めの所得税を納めてしまうRoth IRAを選んでいるかと思われます。またRoth IRAはお金が必要になれば、元金はいつでもペナルティなしで引き出せるという特徴もあり、もしものときには頼りになるという側面もあります。もしも敢えてTraditional IRAに入れたいというような場合は、State-run IRAはOpt outし、自分でTraditional IRAに積み立てることになります。

また、上のように自分でIRAを利用している場合は、個人で積み立てているものとState-run IRA利用の積立額はトータルされ、積み立て限度額が適用されます(トータルで$6,000まで(2020年))。ふたつバラバラ持つよりは、State-run IRAのほうは完全にOpt outしてしまい、自分で選んでいるIRAにフォーカスする方がいいように思います。

  • Employer Contributionは不可(Employer Matchがない)

ベースがあくまでIRA(Individual口座)なので、401(k)のようなEmployer Matchのように、個人以外の人が代わりに積み立てることは許されていません。Employer Matchはリタイヤメント資金準備にとって、かなり重要な雇用ベネフィットの一部です。その意味で、労働者側からすると、State-run IRAのようなプログラムより、SECURE ACTでより提供しやすくなった401(k)をしっかりと提供してもらえるほうが喜ぶべきことです。あるいは、SEP IRAやSimple IRAなど比較的セットアップや運営のわずらわしさが少ないリタイヤメントプランもあります。

これらの“れっきとした”リタイヤメントプランであれば、Employer Contributionも受けられるようになる可能性が上がり、積み立ては所得税控除になると同時に個人が積み立てられる限度額もぐんと上がります。State-run IRAが提供されているからといってぬか喜びしないで、やはり労働者として“れっきとした”リタイヤメントプランの提供をリクエストしていくという姿勢が良いかと思います。

  • 一定条件を満たすEmployerにはプラン提供が義務

これはどちらかというと中小企業側=雇用主側の話ですが、401(k)、SEP IRA、Simple IRAなどのリタイヤメントプランを提供していない雇用主は、State-run IRAの導入期限が課されています。CalSaversの場合は、従業員5人以上の雇用主が対象になり、2022年6月末までに導入が必要です。スモールビジネスをお持ちの方は、期限にお気を付けください。

  • プラン運営を観察するBoardが州に設置される
  • 投資ファンドオプションはシンプル
  • 手数料は高すぎない

CalSaversの場合は、株式ファンド、債券ファンド、マネーマーケットファンド、これらを組み合わせたターゲットデイトファンドが提供されています。ファンドにかかる手数料(Expense Ratio)は0.025%-0.15%/年です。ただ多くのファンドで、期間限定の手数料減額が設定されており、将来的には手数料が上がる可能性が示唆されています。

上の手数料以外に、州の管理費 (0.05%)と金融機関管理費 (0.75%)が追加で年々かかり、これら管理費の合計は0.80%となり、これは低手数料時代の今、かなり哀しい数字です。今後プログラム利用者が増えれば、管理費も下がる可能性がある・・と書いてありますが、どこまで下がるかはわかりません。

たとえば、CalSaversで提供されているターゲットデイトファンドState Street Target Retirement 2045 Fundを購入したとすると、ファンド手数料(Expense Ratio)は022%(2020年4月末までは0.09%に値下げされている)、これに上の管理費が入って、年間トータルで1.02%(値下げ期間は0.89%)となります。高すぎないかもしれないけど、かなり高いです。

一方で、労働者がCalSaversをOpt outして、自分でVanguardにIRA口座を開きターゲットデイトファンドVanguard Target Retirement 2035 Fundを購入したら、ファンド手数料(Expense Ratio)は0.14%で、その他の手数料は一切なし。トータルで0.14%です。こちらの選択の方が多くの方にとって理に適うかと思います。

今回はCalSaversを中心に見てみましたが、アメリカ50州どの州でもVanguardやSchwabなどで個人IRAを開き低手数料ファンドに月々自動積立することができることを考慮すると、State-run IRAに飛びつく理由はあまりないように思います。

あるとすれば、まだ働き始めの若い層が、自分では何もしなくとも自動的にEnrollされるプランで若いうちから、少しずつではあるが積み立てが始められるということでしょうか。まだわざわざ自分でIRAを開くほど意識は高くない若者が、何もしなくとも自動積立の道に載ることができるというのはひとつの利点かもしれません。

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