タイトルには書いたが、誉田龍一さんについてよく知っているほうではない。
業界の集いで顔を合わせたことはあるが、座っている席が遠かったこともあり、言葉を交わす間もなく、散会してしまった。
しかも、特別な事情がないかぎり、私は同世代作家の作品を読まないので、例にもれず誉田氏の作品も読んだことがなかった。
だが、その誉田氏がこの3月に急逝された。
追悼の意を込めて、誉田氏がどのように創作活動を行っていたのかを氏の著書である「小説を書きたい人の本」から探ってみたい。
誉田氏は、小説の組み立てを、
まず①テーマを決定し、②アイデアを出し、③ストーリーライン④あらすじ⑤プロットと進化させろ、と説明する。
テーマは
「一番関心があり、いつも考えていて、読者に読んでもらいたいもの」
である。
アイデアは、
「その小説をおもしろくできるかどうかを左右するもの」
であり、アイデアを得るためには、
「常に考えていて、かつ常にアンテナをはっておく」
ことが必要であるとする。
そしてここからがいよいよストーリーの組立て方に入る。
ストーリーとは、
「時系列順に並べた筋書きの展開」
とし、
「類型(パターン)を参照したり、場合によっては借用しても構いません」
「むしろパターンとなっているストーリーから、どうオリジナリティのある物語を生み出していくかが勝負」
と続ける。
あらすじ(アウトライン)は、
「ストーリーラインに肉付けしたもの。これによってオリジナリティも出していく」
と書く。
プロットは、書きだす前の最後の段階となり、
「ひとつのシーンごとに書いていたあらすじに、さらなる具体的行為、背景、場所、時間などの説明や描写、伏線と伏線が生きてくる場所など、細かく書いていきます」
具体的には、カードを使い、
「一枚のカードにどんどん書きつけていきます」
と、場面別のカードを用意し、カードを並び替えたりして、どのシーンをどこに置くのが効果的なのかシミュレーションする。
このプロット組みの際に行き詰まったら、
「主人公に障害や対立、葛藤などをぶつけていくこと」
とアドバイスしている。
小説を書こうとしている人にとって、とても参考になるのではなだろうか。
ちなみに、たまに、「プロットは考えない」という作家もいる。
そのような作家は、スタートとゴールを設定しただけで、瞬時にルートが頭の中に描かれてしまう「人工ナビゲータ」内蔵の特別な人である。
自分の脳内にこのナビゲーションシステムが搭載されていると思う人は別だが、そうでない人は真似をしないほうが無難だ。
「天下を駆ける 幕府転覆危機」(コスミック文庫)は、3月10日に発売された誉田氏の最新刊である。
主人公の一色彪馬(いっしきひょうま)は、将軍徳川家斉から一色家の再興を命じられ、朝廷と幕府に根付く反体制派を討伐するように依頼される。その彪馬を、朝廷の反幕府勢力、老中を罷免された白川藩主・松平定信、尾張藩主・徳川宗睦の手の者たちが襲う。
というストーリー。
前述の「小説を書きたい人の本」を地でいくようなストーリー作りだ。
「裏高家」などといった造語も面白い。
シリーズものの書き下ろし時代小説は、筆の早い作家であれば毎月、平均でも2か月から3か月で1作の量産を求められる。
このような量産に耐えうるためには、ストーリー作りが特に大事となる。
キャラクターの魅力で作品を書いていける作家もいる。
けれども、魅力あるキャラクターを創造できたとしても、ストーリー作りの大切さが失われることはない。
そんなことを教えられたように思う。
「あ、彪馬様」
「殿様」
お紋と楓が追いかける。
彪馬はひとり走っている。
――そう言えば治済様が褒美をくれると言ってたな。
「屋敷でもいただくか」
彪馬はどんどん進んで行く。一直線の道を、男と女が駆けていく。
空は一面、日本晴れ。
明日もきっと晴れるだろう。
(天下を駆ける 幕府転覆危機)
心からご冥福をお祈りします。
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