2019年4月17日水曜日

人を雇うことの壁

私のかつて勤めていた農業法人は、もともと家族経営の小さな農家だったそうですが、規模を拡大するにあたって人を雇う必要が出たため法人化したと聞きました。しかし、不幸なのはこれまで夫婦で切り盛りしていたがために、人の動かし方を全く知らないことでした。マニュアルどころか説明もろくになく「見ればわかるだろう」の一言で片づけられ、従業員には過剰な作業量を押しつけられ、現場は常に消耗していました。
従業員を軽視するのは仕事だけではありません。給料の支払いは遅れる、社用車のガソリンはなかなか入れてもらえない、ハサミや鎌が壊れてもなかなか買ってもらえない、果ては離職表は催促しても一向に送られてこない。一般の企業では当然のことですら、ろくに行わないのですから、従業員のモチベーションは下がる一方です。

従業員は使い捨てに近く、ほとんどの人は数ヶ月で辞めていき、中には1日で辞めた人もいました。その人は今でも覚えていますが、前職を辞め、遠いところから引っ越して意気揚々と来たものの、初日の夜に退職を決め、実家に戻ってしまいました。
すぐに逃げ出すことに人は厳しい。事情を知らずに「逃げだ」「どんなに辛くても3年は続けろ」と説教しますが、私は、1日で見切りをつけたのは正解だと思っています。厳しい場所であっても、何か技術を得たり、将来に独立したり展望があれば良いのです。しかし、そういった将来への展望が何もなく、ただ年をとるだけというのなら、さっさと辞めた方が良いです。外野から口うるさく言われても、しょせん理解できない他人ですから。むしろ、あの場に居たところで何も身につくこともなく、先の役にも立たないというのに、1年もずるずると過ごしてしまった私の方こそ恥ずべき存在でした。

マネジメントの技術を身につけてこなかったのに人を雇うのは不幸の始まりです。
一時期、「これからの農業は大規模化しなければならない」というスローガンをよく耳にしました。大規模化=効率化を目指すために、農家といえども会社のように組織で運営していこう、と。しかし、今まで他人とろくに仕事をしてこなかったのに、人を雇ったところで組織が回るはずがありません。

風の噂ですが、先の農家では耕作放棄地を積極的に買い取り始め、規模を広げようとしていると聞きます。人が入ってはすぐに辞めてを繰り返しているというのに、果たして手が回るのかどうか。おそらく、どこかで無理が生じ、組織が自滅するでしょう。

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