「天空の城 竹田城最後の城主 赤松広英」5  奈波はるか | 瞬間(とき)の栞 

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個人的な読書感想文、読書随想です。本の内容、あらすじができるだけ解るように努めています。
ただしネタバレがありますので充分ご注意ください!

 

「日本の将官は、すべてこれ盗賊であるが、

 

ただ広通(広英)だけは、人間らしい心を

 

持っています」

 

 

 

 

 

 

「天空の城 竹田城最後の城主 赤松広英」 奈波はるか

 

 

 

 

 

【前回より】

 

 

 

 

豊臣秀吉が亡くなり、五大老の名で

朝鮮に残っていた大名衆に帰国命令が

発令されました。

 
 
 
 
待っていたとばかりに、家康が動きだします。
 
 
 
 
豊臣政権を乗っ取るために着々と手を
打ってゆく。

 

 

 

 

その頃、伏見赤松屋敷では、「四書五経」を

書き写して訓点を施す作業をしていました。

 

 

 

 

儒者の写本づくりの作業は、昼夜徹して行われました。

解釈の議論がなされ、朝鮮人、日本人ともに使命を

感じて作業に没頭していました。

 

 

 

 

妻の千鶴は、広英を心配して言います。

「休んでほしい」と。

 

 

 

 

 

それと同時に、こう感じていたのです。

 

 

 

 

「殿は今、おしあわせそうに見えまする。

毎日が楽しゅうて楽しゅうて仕方がない、

というお顔をしておいでですよ」

 

 

 

 

そんな広英を見ていると、千鶴もしあわせ

でした。

 

 

 

 

しかし

 

 

 

 

またも天下を二分する戦がはじまろうとしている。

 

 

 

 

宗舜は、広英に言います。

 
 
 
 

「彌三郎殿、気をつけてくだされ。徳川殿は

彌三郎殿のことを生意気な男だと思っている」

 

 

 

 

(中略)

 

 

 

 

「徳川殿は国を治めるには儒学をもってする

のがよい、と考えておる。徳川殿自身、儒学を

学んで、これから実践していこうとしている。

これはよきことじゃ。

 

 

 

 

ところが、竹田城では自分よりはるかに若い

城主がすでに儒学を学び始めており、城内に

孔子廟を建て、孔子祭りを執り行い、科挙の

試験をやり、家臣を採用している。

 

 

 

 

これは、徳川殿がやりたいと思っていることだ。

それを、但馬の若造が先取りしてやっていると

知って、面白くないらしいのじゃ」

 

 

 

 

それに家康の出仕を断った宗舜が、赤松屋敷に

立ち入っていることも面白くないらしいということ

も付け加えました。

 

 

 

 

姜沆の帰国が決まり、写本も完成。

 

 

 

 

喜ばしいことなのに、広英の心には

暗雲が立ち込めていました。

 

 

 

 

家康が、上杉景勝討伐に乗り出します。

名目は、上杉が徳川に反旗を翻すつもり

だという。

 

 

 

家康が大坂から出立した時点で

石田三成が動きました。

 

 

 

 

関ヶ原の戦いです。

 

 

 

 

大名がそれぞれ、大坂方につくか徳川方に

つくかを思案していました。

 

 

 

 

広英は、秀吉への恩義をとりました。

それに加えて、宇喜多秀家の妹を

妻にしていることもあります。

 

 

 

 

大坂方からの書状が届きました。

 

 

 

 

徳川方についた丹後の細川忠興の

伏見城と田辺城攻めを行うとの内容。

「広英は田辺城を攻撃せよ」と。

 

 

 

関ヶ原の戦いの3日前に、田辺城は停戦・

開城しました。広英は竹田城へと帰陣

しました。

 

 

 

関ヶ原では、はじめ大坂方の西軍が

優勢でしたが、午後2時頃に小早川

秀秋が寝返って、東軍が優勢になり

三成は敗走。東軍(家康方)が1日で

勝利しました。

 

 

 

まさか、天下分け目の戦いが

1日で決着するとは!

 

 

 

広英は、家康とつながるものが

まったくありませんでした。

 

 

 

広英は、だまって家康からの沙汰を

待つしかありませんでした。

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

切腹の覚悟をしていました。

 

 

 

家康からの書状がきました。

 

 

 

そこに書かれていたのは、広英の処遇では

ありませんでした。宇喜多秀家を匿っていないか。

また、どこにいるか知っているなら知らせよという

内容でした。

 

 

 

 

しばらくして

 

 

 

 

亀井茲矩(これのり)の使者が、竹田城にやってきます。

 

 

 

 

豊臣から徳川についた亀井は、鳥取城を

攻めていて、非常に手こずっているとのこと。

それゆえ、赤松勢に加勢してほしい旨。

もし協力してもらえたら、徳川殿によきよう

はからってもらえるように頼むと言うのです。

 

 

 

 

弟の祐高は反対しましたが、広英は亀井に

協力することにしました。

それしか、強大な権力に立ち向かう

方法が広英には思いつきませんでした。

 

 

 

 

鳥取城攻めがはじまりました。

 

 

 

 

城下のあちらこちらで火の手が上がります。

かなりの数の火の手です。手がつけられません。

 

 

 

 

城下があっというまに火の海となります。

 

 

 

 

実はこのとき、亀井茲矩は、広英の竹田城を

請け取りにいくように家康から命じられていた。

 

 

 

鳥取でぐずぐずしてはいられないのだ。

自分がいかなくて誰か代わりの者がいったら

手柄をとられてしまう。亀井は焦っていた。

 

 

 

 

火事がおさまり、亀井は鳥取城側と話し合い

開城させました。

 

 

 

 

亀井は、家康に「命をかけて広英のことを

お願いする」と言い、家康のいる大坂城へと

向かいました。

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

家康からの使者が、鳥取の真教寺へやってきました。

 

 

 

 

 

そこには・・・・・・

 

 

 

 

「広英に自害せよ」との申し伝えが。

 

 

 

 

鳥取城下を焼き尽くしたことを、家康が怒っていると!

 

 

 

 

唖然とする広英。

 

 

 

 

広英は苦笑するしかない。

 

 

 

 

<命をかけてお力添えする>といっていた亀井が、

家康に責められて「赤松が火をつけたのです」

と口走ったのだろう。

 

 

 

そういう男だった、ということだ。

 

 

 

 

 

広英は、うすうすわかっていたのだと思います。

 

 

 

 

宗舜が感じていたとおり、祐高も感じていたとおり、

どの道、こういう沙汰が下されることを。

 

 

 

覚悟をしていたとはいうものの、亀井が頼り

だったにちがいありません。

 

 

 

しかし

 

 

 

保身のために人を売って自らの利とするとは!

 

 

 

僕は恨まず憎まず、人を思える広英や、

宗舜のような毅然とした義を持った人間に

憧れます。

 

 

 

歴史の流れの中に意志があるのなら、広英と宗舜の

友情は、その流れの中に漂い続け、後世の人々の

意識に反応するに違いありません。

 

 

 

 

以下、姜沆と宗舜の言葉が、その意識の泉に

真実の波紋を広げるでしょう。

 

 

 

 

日本での捕虜生活を 『本』 にした姜沆が

広英のことをこう記しています。

 

 

 

 

「日本の将官は、すべてこれ盗賊であるが、

ただ広通(広英)だけは、人間らしい心を

持っています」

 

 

 

 

藤原惺窩(宗舜)は、広英のことを嘆き

悲しんだそうです。

 

 

 

 

そして、こう書きました。

 

 

 

 

「一とせ世の乱れしとき、亀井のなにがし、

しこちこと(讒言)によりつみなくて切腹

せしが」

 

 

 

 

今でも、広英の想いは竹田城に宿って

いると僕は思ってしまいます。

 

 

 

竹田城に登ったときの心地よさは

なんなんだろう?って考えてたんです。

 

 

 

この本を読み、広英の想いに触れ、

確信しました。

 

 

 

それは、姜沆と同じ思いです。

 

 

 

戦国大名としてではなく、一人の人間らしい

心を持った、争いのない世の中を夢見た

若者がかつていた。

 

 

 

竹田城は、そんな魂が宿っている。

「戦うための城」ではなく、「民のことを

天空から望んでいた平和の象徴」

なのだと!

 

 

 

 

慶長五年十月二十八日、朝。

赤松弥三郎広英、家康の命により自刃。

享年、三十九歳。

 

 

 

宗舜は家康から仕官するように熱心に

望まれたが断り続け、仕えることは

なかった。

 

 

 

やがて、宗舜は「日本朱子学の祖」と

呼ばれるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

【出典】

 

「天空の城 竹田城最後の城主 赤松広英」 奈波はるか 集英社

 

 

 

 

 

 

 

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