向精神薬由来症状/離脱症状の安全な取り組み方の検討と治療 11 | 藤原航太針灸院

藤原航太針灸院

痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床

「症状の成り立ちと重症度を決める原因、病態を考える」

 

重症度は受傷時のエネルギーと暴露時間で左右されます。強い力で継続的に力を加え続ける場合と、弱い力で短期的に力を加えた場合では壊れ方も異なります。壊れ方が異なれば治り方も治るまでの過程も回復率も異なります。人間は身体/精神/環境ストレスによる継続的な暴露で異常を帯びた生理機能を自律させようと、各種ホルモンや神経伝達物質がアクシデントに対し、平衡を保とうと機能します。この現象をホメオスタシスや恒常性と表現します。

 

只、生きている限り恒常性の機能には外因から治癒遅延を促す様々な圧力が掛かり続けるのも避けられず、自然治癒の機会を逃しがちである環境も否めません。多くは日常から発症する為、発症起因が即座に解消する事もなく、また、その起因が無ければ元々傷める理由もありません。これらの理由もあり、手っ取り早く各種ホルモンや神経伝達物質の機能を上げ下げする薬物に辿り着くのかもしれません。

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age 25 sex f

 

入眠障害と中途覚醒を訴え近医受診。低力価短時間型のベンゾを処方されるも10日程度で中途覚醒が目立つ。高力価中時間型のベンゾに切り替えられるも、10日程度で中途覚醒が目立ち始める。その後、3倍の量を服薬するように指示されるが、10日程度で中途覚醒が毎日訪れる。

 

受診時に経過を伝えたところ、どのような経緯かは不明だが断薬が提案される。手段や方法が提示されなかった為、ネットで調べ漸減法や隔日法を数日に渡り試みるも、よく分からなくなり結果的に一気断薬となる(※注 仮に手段や方法が提示されても似たような結果になっていたと思います)。

 

その数日後、不眠以外に 両手指の振戦 頸部硬直 頸部後面と胸背部に熱感 両上肢と両下肢に脱力感 両手関節と両足関節より遠位に硬直感と疼痛 頭痛 心窩部痛 動悸 突然心臓が止まった感覚 頻尿 皮膚の乾燥 脱毛 毛髪/爪が伸びない 生理が止まる 体重減少 喪失感 焦燥感 不安感 が惹起され部屋に籠るようになる。患者家族曰くゾンビのような歩き方。これらの症状を抱え再受診するも異常なしと言われる。

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1)服薬契機に至る症状 = その個の脆弱部位

 

服薬初期から薬剤耐性が獲得された事で、服薬契機となる既存症状の中途覚醒が服薬中から再燃し始めたのは明らかですが、断薬後に絶不眠となる他、服薬前には見られなかった症状群で溢れた事が、時系列からもベンゾ離脱の事実性が高まるエピソードを持ちます。多くの症例の共通に、服薬契機に至る症状が離脱時は更に増悪しています。ベンゾ離脱以前の問題とし、人間は様々な理由で症状を自覚します。生理的、構造的な脆弱部位、既往疾患の有無や付随する薬物、生活を送る上での諸々のストレス、栄養摂取状況や嗜好品等で人間は成立しています。

 

その為、100人に同様のストレスが掛かったとしても個々で症状は変わるかもしれませんし、症状を出さない人もいるかもしれません。その個が持つ閾値を超えない限り、受傷しても症状として訴える事もないかもしれません。自然発症の内容が何故個々で異なるかと推測すれば、その個が持つあらゆる理由で成立した脆弱部位の存在が基礎にあるからと考えられます。また、個々の症状の表現は、過去に経験した症状や、情報収集元で表現されている内容を模倣する傾向もある為、脳神経1本でも表現は多岐に渡るでしょう。ベンゾは脳や脊髄の広範囲に渡る抑制/鎮静作用を持つ為、その離脱時は元来溝の深い部位が最も重症度が高くなる印象を持ちます。

 

2)GABAが強化されるイベントはベンゾの服薬に限らない

 

GABAのエンハンスはベンゾ薬に限らず、バルビツール酸系、ステロイド(コルチゾル)、ペニシリン、フロセミド、エタノールが知られています。また、フルマゼニルやNSAIDs、キノロン系やマクロライド系で拮抗反応を示すのも有名です。そのような中、日常生活で当該チャネルを開口するのはエタノールやステロイド(コルチゾル)に絞られ、それらも相乗する可能性もありますが、継続的な強化はレセプタのダウンレギュレーションや結合部位の器質性を示唆する障害に繋がる懸念もあります。

 

また、ベンゾ離脱を抱えている時期にストレス/ネガティブな状態に追われる行為、手段、環境に引き続き身を置くことは継続的にGABAを強化する結果となり(事実上はベンゾ離脱を基礎に持つとエンハンスし難い為、異常に興奮する/興奮性が持続する/興奮性を自律出来ない)、症状増悪に繋がる懸念があります。ストレスとは全てのネガティブを指します。身体/精神/環境等であらゆる不快を自覚した時、人間は防御反応や攻撃姿勢を見せ、危険信号を知らせる為に症状として発信します。

 

自律神経は自己制御がし難く(逆に自己制御が出来れば人間はすぐに死ぬ)、否応なしに環境に対応しようと機能する為、ネガティブな興奮状態に抑制を掛けようとコルチゾルが分泌されたり、そのホルモンが結合部位に結合し、GABAが強化され、抑制へベクトルを向けようと働きます。このようなGABAを強化させるイベントが継続する事で、過剰に消費される体内備蓄の栄養素や、血糖の変動で食生活が変わる事もあれば、諸々の身体/精神へ非日常的な状態を以て反映されるかもしれません。

 

持続的なコルチゾルの分泌が当該ホルモンの分泌能力を抑えるかもしれませんし(ネガティブフィードバック)、GABAも継続的に強化される為、レセプタ側の器質面の障害も十分に考えられ、その後のイベントに対しても、脆弱性を抱える背景からGABAの強化がされ難く、結果的に症状自覚も目立ち、自然治癒し難い環境が構築され続けます。

 

薬物の背景がなく、自己免疫疾患や感染症、外傷等の原因も考え難い身体/精神症状の易発症性に、過去の過度な継続的ストレスによって傷めたレセプタや結合部位の結果と考えられます。ストレス脆弱性モデルの成り立ちは、外因と神経伝達物質、長期暴露のレセプタ関連を絡めると考え易くなりますし、ベンゾ離脱の概念を追加すると、一層の脆弱性モデルが完成する事も分かります。しかし、ベンゾ離脱の病態概念が存在せず、それらの症状群は自己免疫疾患や整形外科領域疾患に類似する為、関連薬物の処方も珍しくありません。

 

3)レセプタや結合部位に脆弱性を抱えたデメリットと、十数年の服薬から一気断薬しても問題のない例から前者の安全を考える

 

暴露され続けるネガティブに対応しようと自律的に機能した結果、脆弱性を抱えた上でのベンゾ服薬によるデメリットの高さは、今件に限らず様々な面で見えてきます。服薬初期、再服薬初期、飲み忘れの時、服薬時間が遅れた時、減薬した時、増薬した時など、必要以上のデメリットを短期長期問わず浴びます。反面、10年や20年に渡り漫然と服薬し続けたベンゾを一気断薬しても全く平気な人間も多数います。では何故、一気断薬でも問題のない例が存在するのかも考える必要があります。

 

1つのポイントは「漫然」だと考えています。人間は如何なる物質や環境にも適応しようとする生き物で、薬物に対しても同様です。同一量で服薬し続けた結果、その量でキレイに適応した結合部位は器質性の異常が見られ難い為、何らかの形で一気断薬に至った場合も予後が良好なのかもしれません。鋭敏な離脱症状を抱える背景の多くは、増薬や減薬、服薬や休薬、頓服的な追加が繰り返されていたり、異なる薬物を追加していたりと結合部位も慌ただしく、器質性の異常が高い傷だらけになる為、僅かな増減でも進行増悪を抑制出来ない程の重篤例が生まれるものと推測します。

 

誰しも一気断薬で平気な群で在りたいと願うものですが、離脱症状を自覚している時点で到底真似できる行為ではなく、結合部位とレセプタの器質的な障害が示唆される状態の回復を優先する必要が生まれます。先程も触れましたが、この手の神経系は自己制御が出来ない事にメリットとデメリットがあります。ベンゾ離脱は抑制系の機能を奪い続ける為、寝ても覚めても生存機能を奪う症状群に溢れ続ける恐怖があります。

 

離脱症状を端的に述べると、脳や脊髄が現在の服薬量で慣れた結果、空白部位が生じ、その空白部位が埋まるまで症状が継続すると考えられます。その為「今の異常な症状は薬が原因だ」「だからさっさと止めよう」の考えと行動は、空白部位を自ら拡大させる行為となり、重篤化を進めてしまう結果になるのでしょう。

 

4)現場感覚から見えるその個の離脱症状の軽重

 

結論から述べると上記症例は極めて順調に回復した例です。ここまで順調に進む例は寧ろ少ない為、参考症例としては挙げ難いのですが、今回は睡眠にスポットを当てたかった為、こちらを挙げました。継続治療で症状数は減り、症状の度合いも弱くなり、安定性を保持し易くなる経過を考える限り、幾つも抱える症状も個々で軽重が見られます。全ての症例に共通している事に、一律に改善自覚を得る事はありません。結果論で述べる事しか出来ませんが、軽いものから早期的な改善を見せるものの、それは患者が訴える「軽い」「重い」「痛い」「きつい」ではなく、その症状を発症する罹患部位の損傷度に依存します。

 

上記を例に経過を追うと、体重減少、毛髪/爪が伸びない、皮膚の乾燥、生理障害などの代謝性障害から改善自覚を得た後に、頸部後面と胸背部の熱感、頸部硬直、両手関節と両足関節より遠位に硬直感と疼痛、心窩部痛、等の知覚神経由来の改善、オーバーラップするように精神症状の改善自覚等が得られた模様ですが、睡眠障害と頭痛、両上肢と両下肢の脱力感が最後まで残存した印象を持ちます。患者自身は睡眠障害よりも断薬後に生じた身体/精神症状や、体重減少や皮膚の乾燥、脱毛等の他覚的にも認められる症状群に対し、その重症度を訴えていましたが、これらは最も早期に改善自覚していきました。こちらの症例に限らず、重症度は術者側から考察した云々ではなく、患者が送る日常生活での天秤となる為、常に相対的なものではありません。

 

服薬契機の睡眠障害にスポットを当てて経過を見ると、1か月目は睡眠ゼロが丸々30日、2か月目は睡眠ゼロが半月、残りは1~2時間睡眠、3か月目はゼロ時間は数える程度、3~4時間睡眠が2~3日、残りは1~2時間睡眠、4か月目は3~4時間睡眠が半月以上、残りは1~2時間睡眠、5か月目は~…と、月日の経過で改善傾向であるものの、日差変動も著しく改善の伸びが悪い印象を持つのも、元来の脆弱部位がベンゾ離脱でも顕著に表れている証拠かもしれません。このように経過は極めて順調と思われる例も、基礎的な脆弱部位が日常生活に支障を来すレベルで残存する事から、ベンゾ離脱が始まったタイミングでも重症度が高い事を示唆します。

 

5)急性と遅発性の両者を持つ病態は神経細胞壊死がイメージに近い

 

ご存知の通りGABAはGamma Amino Butyric Acid(γ-アミノ酪酸)と呼ばれるアミノ酸です。また、レセプタや結合部位もアミノ酸(一部はリボ核酸)で構成されています。現場感覚で経過を追跡する限り、地味ながらも推測ながらもアミノ酸の集合体となる構造的な問題の修復もされている印象があります。上記のエラーを抱えた後に影響を受けると推測される神経細胞に関しては、原則的に酸素とグルコースに栄養を依存し、何らかの要因で受傷した場合、選択的及び優先的に壊れる部位は在るものの、栄養が途絶する事でダメージを受ける事には変わりません。

 

急性期が長引くほど予後も芳しくないのは全症例で同様です。冒頭でも述べた受傷時のエネルギーを如何に最低限に留めるかが、以後の遅発性の離脱症状の度合いや、急性期を過ぎた後に残存する症状群の軽重に繋がると思います。また、急減薬や一気断薬が症状を重篤化させる要因である事実性は高く、たまに見かける多剤大量処方から「リセット」と呼称する一気断薬は、危険性を高める行為でしょう。惹起される症状群や経過からも、GABAの自己分泌能力の低迷や、当該レセプタの器質性を示唆する障害を由来とする、アップレギュレートされた興奮性神経伝達物質による神経細胞の破壊と推測するのが自然な病態です。

※画像は奈良女子大学 植野研究室より引用 http://www.nara-wu.ac.jp/life/health/ueno/mbio_research.j.html

 

抑制性神経伝達物質のGABAは、GAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)を触媒として興奮性神経伝達物質のグルタミン酸から合成されます。GABAレセプタがベンゾ薬の継続的な服薬や、その他の当該レセプタをエンハンスし続ける暴露環境によりダウンレギュレーションを起こし、当該チャネルの開口機能が脆弱性を持った場合、グルタミン酸の過剰流入が止まらず、神経細胞の破壊要因の主になると考えられます。ベンゾ薬そのものが原因で発症しているのだとしたら、休薬後、薬物が血中から抜けた頃には症状も落ち着くと思われますが、実際はそのような事もありません。この件に関しては薬物の脂肪貯留~放出説もありますが、断薬後も5年10年と継続する症状群に対し、説得力は弱いと思います。このように、大前提が異なる源流の為、節々から違和感を覚えるケースも少なくありません。

 

多くは抜き方次第で一層の重篤例に発展していきますが、先ほども述べた通り「今の異常な症状は薬が原因だ」「だからさっさと止めよう」の思考が蔓延している為、悲惨な結果が散見されます。また、添付画像の流れを汲む神経細胞の破壊の示唆と、ベンゾ離脱の病態概念を知る事で、発症要因はベンゾ薬が契機となるかもしれませんが、ベンゾ薬そのものが原因ではないと推測されます。その事から、症状を惹起する因子は自己の興奮性神経伝達物質によるものと理解でき、急減薬や一気断薬が如何に危険な行為かも理解できる他、断薬後も残存する症状の理由も明確になります。ベンゾ離脱は多くの随伴的な合併症を呈しますが、根本的な問題を抱える当該レセプタと結合部位の構造上の問題が解決しない限り、症状は継続すると考えられます。得てして回復を望む場合の優先順位は今以上に悪くしない事です。これらを踏まえれば、どのようにすれば悪くしてしまうか、どのようにすれば曲がりなりにも安定させられるかも見えてきます。

 

6)ベンゾ離脱(又は自然発症の脆弱性モデルの成立)と気が付くか、既存傷病名を受容するかによる将来性の差異と現実問題

 

(他の離脱症状でも)ベンゾ離脱も数多くの中枢神経由来症状のカテゴリの1つと捉えていますが、全体的な治療手段を改めて眺めてみます。tnf-α阻害薬、ステロイド、その他免疫抑制剤、NSAIDs、その他解熱鎮痛剤、各種循環剤や拡張剤、抗認知症薬、β遮断薬、神経細胞保護薬、免疫グロブリン療法、血漿交換療法やその類とその他です。ベンゾ離脱といきなり気付く事は滅多にない事、気付かないレベルから救急車レベルまで軽重がある事、症状は個々により異なる事、また、どのような症状にも述べられますが、ベンゾ離脱問わず消去法的に観血的手段も含め、考えられる原因を潰していくのが自然な流れです。正直よく分からなければ出来る範囲で実際に試みていくのが普通なので、批難の対象にも出来ません。

 

四肢対称の問題も多い為、画像所見によっては頚椎症性脊髄症の中枢神経由来や、椎間孔狭窄等の頚椎症性、腰椎症性の末梢神経由来を疑われた手術、関節リウマチや多発性硬化症に類似する自己免疫疾患、重症筋無力症に類似する神経筋接合部疾患の症状に溢れる為、相応の検査上で陰性であっても、当該治療が行われる例も少なくありません。四肢対称でなくても、ベンゾ離脱問わず片側(単肢)の発症もあり、肩手症候群や肩甲上腕関節の(亜)脱臼(前方下方転位)も目立ちます。手根管症候群や足根管症候群、胸郭出口症候群や梨状筋症候群、五十肩、腱鞘炎、各種神経麻痺など、カジュアルな整形領域疾患と見られてしまうケースも珍しくありません。内科や耳鼻科、脳神経外科、歯科の類を含めるとキリがありませんが、症状を個別で見てしまうとそのようになります。

 

その結果が上記の諸々の治療手段に該当します。それらを消去法的に行って改善が見られない場合、内容と対応次第で各種精神病名や、身体疼痛が激しければ精神科寄りの障害名や症候群名が宛がわれる例も少なくないでしょう。問題はそこで既存傷病名を受容するか、ベンゾ離脱の存在に気が付くかで大きく予後が変わります。前項の「薬物の害反応を無視した上で既存傷病名に信頼を寄せる弊害」でも述べた通り、既存傷病名を受容するリスクは、副作用も常用量離脱症状も全て〇〇病、〇〇障害、〇〇症候群で片付けられる(片付ける)懸念です。度々挙げている例で、以下も最後は身体表現性障害やうつ病と診断されて離脱症状に悩む例ですが、最初は腰の痛みから始まっています。はじめは単なる腰痛患者が精神病患者と言われ薬漬けになります。様々な問題が各所にある事を以下のエピソードからも分かりますが、大概は似たような順序を踏むと思います。

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age 50 sex m 主訴 両足趾の冷感 腰痛 既往 腰部脊柱管狭窄症に伴う手術(椎間孔拡大)

 

5年前の腰部脊柱管狭窄症の椎間孔拡大術から数ヵ月後、実際に触っても冷たくはないが、季節関係なく極めて厳しい冷感を両足趾に感じ、夏場でも靴下を2枚重ね履きしても落ち着かない事で受療。約数回の治療で症状が改善され始めるものの、何かの契機でMRI撮影を後日行うと、L4/5に側方突出型の椎間板ヘルニアの所見が認められ、手術を勧められる(この時点で下肢症状は足趾冷様感のみ)。手術は考え直したほうが良いのではないかと告げるも、本人の意思は固く手術(LOVE法)。術直後は腰痛は軽減されるも2weeksで再燃。両足趾の冷様感は残存。症状の残存を医師に訴え、ファセットブロック×回数不明、仙骨ブロック×回数不明、神経根ブロック×3を施行するも症状軽減に至らず、術後領野とは異なる神経走行部位に症状が出始める。

 

当初は主訴の通り両足趾の冷様感及び腰部痛が、両大腿前面、両下腿前面、両腰部、両臀部、両大腿~下腿裏へ激しい疼痛と、両大腿前面は皮膚知覚異常が出始める。1つの可能性を考察すれば、術後の脊椎の不安定性により、上下の脊椎高位が神経損傷を起こした事に由来すると推測される。少し話は戻すが、先のブロック施行にも反応性が悪い事、更に異なる部位に症状が拡大した事を訴えると、固定術の提案ではなく精神病院への紹介状を出され、精神科へ9ヶ月程入院となる。診断名 うつ病 身体表現性障害。その間、様々な薬物治療を受けた模様(この時点での薬剤名不明)だが、退院後はリリカ トラムセット デパス リボトリール サインバルタ ロキソニン ムコスタ等を服薬。処方内容は取り分け珍しいものではなく、針治療により両下肢症状は約4ヶ月程度を経てvas10→1程度となり(4~5day/1回~10day/1回)、日常生活には支障のないレベルとなり下肢痛は消失。

 

一部大腿前面の皮膚知覚異常は残存しているが、経時的に改善模様の為、今後もフォローしていく事になるが、症状の軽減と共に本人が薬物の必要を感じなくなった事から、掛かり付けの医師に相談をしたところ(外来には3人担当がいる)、1人は薬物を止める事を認めてくれなかった為、もう1人に相談。親分的存在から既に当該患者の情報が伝達されており(薬を止めたいとする意思)、「止めるなら止めれば」と言われ、今後の診察を拒否される。本人も止められるチャンスだと思い断薬(自己判断に伴う一気断薬)。幸いにも1ヶ月程度は症状(離脱症状)を自覚する事はなかったようだが、その後、シャンビリ 頭鳴 耳鳴 めまい 歯肉出血 不眠 胃痛 動悸 肋間神経痛様症状に悩まされる。「精神科に入院させられる位なのだから精神病なんだろうな」と思い込むようになり、再度精神科を受療し同様の向精神薬を服薬したところ、3日程度の期間を経てシャンビリ 頭鳴 耳鳴 めまい 歯肉出血 不眠 胃痛 動悸 肋間神経痛様症状が消失。

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7)中枢神経の栄養濃度は血管経に依存しない可能性と既存概念

 

ベンゾ離脱を代表とする向精神薬全般の離脱症状の病態や、既存病態定義の矛盾も見えたところで、改めて上記の治療手段、既存治療を照らし合わせます。結論から述べると、中枢神経の血管径は生理的に栄養濃度に依存しない可能性が高いという事です。先日も僅かに触れましたが、脳や網膜は酸素濃度が高まると血管は収縮する生理反応を持っています。罹患部位の改善は栄養濃度に依存していると思われ、血管径で推し量れるものではないかもしれません。慢性期は拡張を促す手段が見込まれますが、この既存概念に誤りがあるのかもしれません。または説明不足なのかもしれません。

 

中枢神経が罹患した場合、当該罹患部の栄養増強に向け、酸素やグルコース、アミノ酸その他の栄養素が含まれる血液を非日常的に流し込み続ける必要があります。勿論このような話は古くから当たり前の為、拡張剤や循環剤と称される薬剤が純粋な脳神経由来の症状群(例えば内耳神経や三叉神経由来)にも用いられますが、此処で大きな疑問を持ちます。血管を拡げれば治るのでしょうか。単純な作業で治らないのは分かった上で書いているつもりですが、これらは炎症由来の疼痛除去であれば良いのかもしれません。しかし、レセプタや結合部位を由来とする、アポトーシスを示唆する事後の神経細胞への処置としては、残念な結果が続いている歴史があります。

 

現場感覚でも多くの方が誤認している印象を持つ1つでもありますが、拡張は抹消局部の刺針部(又は外傷部)のprostaglandinやbradykinin、serotonin等による血管拡張性物質の凝集の責任でしかなく、中枢神経そのものが炎症を起こすイベントが発生すれば別ですが、通常で血管経が連動すると限りません。また異なる視点では、拡張剤が罹患部への栄養増進とはイコールにはならない可能性が挙げられる他、ベンゾ離脱を鋭敏に抱えているケースほど、増悪自覚を得てしまうケースも目立ち、現実問題としては耐え難くデメリットが上回ります。

 

8)GABAは増やし過ぎても全身性疼痛が惹起される可能性

 

ベンゾ離脱では全身性の疼痛も多く見掛けますが、その逆となる増やし過ぎでも全身性の疼痛が惹起される可能性が示唆されています。前項の「向精神薬由来症状/離脱症状の安全な取り組み方の検討と治療 10」2019/2/1 https://ameblo.jp/fujiwaranohari/entry-12436966097.html 「age 65 sex m 診断名 逆流性食道炎 うつ病 線維筋痛症」に対してご質問を寄せられた方がいました。概要は「ベンゾの服薬で全身性疼痛が出るのは何故?」です。「程度の差」という曖昧な表現しか適切な答えが見つかりませんが、GABAは増え過ぎても(意図的に増やしても)全身性疼痛(中枢性疼痛/アロディニア/CRPS Complex regional pain syndrome等と一般的には表現されている)の発症が示唆されています。

 

症例を読んで頂くと分かりますが、ベンゾを飲みまくったタイミングで疼痛が広範化しています。その後に自分の病気は何かと調べ、診断名をもらった(この場合、線維筋痛症)エピソードを持っています。症状の発症要因にベンゾの概念が欠落している場合、診断名に信頼を寄せて更なる鎮痛薬の投与へ発展していくのは珍しくありません。2012年以降は当該傷病名にリリカが承認を得ています。同時にトラムセットやサインバルタ、リボトリールやロキソニンの類も処方内容としては目立ちます。これらはその時代によりキャンペンが打たれていたり、承認を得たタイミングなどで流行り廃りはありますし、好みもありますので代り映えはします。

 

今症例はリリカの発売前から診断を受けていた為、ガバペンが処方されていました。大体は無視されていますが、いずれもリリカの性格はベンゾ離脱と相性が良くありませんし、トラムセットも相性が悪い印象を持ちます。セロトニン含む興奮性神経伝達物質の異常分泌を可能性に持つので、添付文書を読んでも分かる通り、SSRIやSNRI、三環系や四環系は併用注意にされていると思います。以下はその示唆です。

 

「各種脊椎変性疾患と周辺環境2」2016/8/13 より https://ameblo.jp/fujiwaranohari/entry-12190204664.html

https://www.neurology-jp.org/Journ…/public_pdf/049110779.pdf

 

末梢神経損傷後に脊髄で活性化したミクログリア細胞にイオンチャネル型 P2 プリン受容体サブタイプ P2X4受容体が過剰発現し,その受容体刺激が神経障害性疼痛に重要であること,更に,P2X4受容体の活性化によりミクログリアから脳由来神経栄養因子(BDNF)が放出され,それが痛覚二次ニューロンの Cl-イオンくみ出しポンプの発現低下をひきおこし,それゆえ,触刺激により放出された GABA の二次ニューロンに対する作用が抑制性から興奮性へと変化し,このようにして,触刺激が疼痛をひきおこすことを示した.その後更に,P2X4受容体過剰発現メカニズムや,ミクログリアの活性化がインターフェロンガンマによりひきおこされることをみいだした. また, 活性化ミクログリア細胞には P2Y12受容体が発現し,独特のメカニズムで神経障害性疼痛に関与する.

 

これらの事実は,神経障害性疼痛発症における P2 プリン受容体―ミクログリア―ニューロン連関の重要性を示唆している.触刺激は Aβ を介して一部が脊髄後角介在ニューロンへ入力しており,介在ニューロンからは抑制性の神経伝達物質・GABA などが放出される.正常時には GABA は二次ニューロンへ抑制的に働き,痛み伝達を抑制している.しかし,アロディニア病態では,P2X4刺激により活性化型ミクログリアが BDNF を放出し,BDNF は痛覚二次ニューロンの Eanionを脱分極側へシフトさせるために,触刺激により放出された GABA は痛覚二次ニューロンへ興奮性に作用してしまい,その結果,二次ニューロンでスパイクが発生し,それが大脳皮質知覚領へと伝わり激痛として認識される.(臨床神経,49:779―782, 2009)

 

9)堅牢性を持たない人間と症状との向き合いかた

 

医学は生きている人間を相手にする為、機械工学等とは異なり極めて進歩が遅いです。歩みが遅い理由は主体が薬物治療になるからと思われますが、承認を得て市場に出回ってからも、重大な惨事が次々に報告される歴史は変わりません。近年では発売から3年足らずで80人を超える死亡者を出したゼプリオンで、リスパダールコンスタやインヴェガの倍以上の死亡者数を出す等(いずれもPMDAの報告数のみで)、何処かに無理が生じているのも現状ですが、多くは突然上記の薬物には至らないと思います。先ずはセロクエルやジプレキサ、リスパダールやエビリファイ、ドグマチール辺りだと思います。年代によりストラテラやコンサータ、インチュニブ、ひと昔前はリタリン、まもなくビバンセでしょう。

 

ベンゾ離脱を基礎に抱えると、これらの薬物が出される(出したくなる)症状に溢れる為、ベンゾ離脱の理解と解決、先述した自然発症に至るまでのレセプタや結合部位関連の理解と解決が、リスクの発展を防止すると考えています。冒頭でも述べた通り、人間は機械と異なり恒常性と呼ばれる自己修復能力を持っています。「人間は機械と違って交換出来ない」とネガティブな会話を時に聞きますが、機械と異なり人間は自分で治すポジティブがあります。最近の全体としては、自己修復能力に委ねる治療手段にシフトしている印象もある事から、今後も引き続き良い方向に進むと感じています。

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