脊髄損傷と治療反応性から、中枢神経傷害と神経変性疾患の将来を考える | 藤原航太針灸院

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痛み・痺れ・麻痺・自律神経症状の難治例の検証と臨床


外側から強いエネルギーが加わり頚髄を損傷をされ、30年強経過した後に、治療をさせて頂いた方からご報告がありました。脊髄は※1)画像の通り、輪切りにして上から覗くと、担当部位ごとに層を形成しています。外側から仙髄、腰髄、胸髄、頚髄~で、各々の部位に知覚や運動など、様々な信号を送ります。脊髄損傷は腫瘍や感染症、自己免疫疾患等でも惹起されますが、多くは事故等の高エネルギー外傷になります。受傷高位で残存機能に変化があるのは前提となりますが、中心部から受傷する可能性がある脊髄損傷とは異なり、外力による損傷の為、脊髄も外側から受傷するケースが大半かと思います。

 

外傷による脊髄損傷も、完全断裂や不全断裂など軽重含め幅広いですが、側方からのエネルギーで受傷した場合、仙髄>腰髄>胸髄>頚髄の順で、重症度に変化が認められると思います。その為、下肢症状(下肢麻痺)が強く惹起されるのでしょう。治療上は、中枢神経の位置や構造上、罹患部位に直接的な栄養供給が不可能な為、末梢神経を由来とする症状群とは反応性も経過も極めて緩い事が難点ではあるものの、解剖その他を理解する事で、ある程度の工夫は可能です。

 

脊髄は幸いにも、神経根近傍に脊髄への栄養血管が周回している為、当該部位の小動脈の拡張によりポジティブな反応が期待出来ますが、栄養供給も遠達性があるのか、罹患部位が脊髄の中心部に近付くほど、反応性も薄くなる経過を辿り易い印象があります。ご報告の通り、反応は生まれるものの、脊髄外側、下肢からとなります。
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以下はご報告の内容です(掲載許可は頂いています)。

 

動かなかった方の左足の指・特に親指、足の甲、アキレス腱、ふくらはぎ、太ももの一部、もも裏の一部、左部分の腹筋に、筋肉の動く感覚が戻り、徐々にですが、確実に筋肉に力が入り動くのが実感できました。

 

動かそうとすると筋肉に力が入っているのが解りました。動きはわずかで、この程度動いたから、生活レベルに改善が起きると言うレベルには程遠いですが、いままで動く感じすらしなかった筋肉に、このような回復傾向がみられました。

 

自分もどこまで動くがリハビリ励みましたが、これ以上の改善は見られませんでした。リハビリによる筋肉痛も感じるようになりました。一時期、しびれや痛みが酷かった時期もあり、それは回復の表れではないかと感じていました。
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ご内容を読み解く限りも、反応部位は下肢に限定しています。また、冒頭の通り頚髄損傷の為、上肢の麻痺その他もあります。外傷による脊髄損傷は、事故の影響による脊髄内部の血腫の存在など、回復には障壁が存在する分野ですが、受傷年数問わず、何らかの反応が生まれる事は示唆されます。末梢神経由来含む全般的な印象として、受傷年数も然ることながら、傷め方次第(受傷度合い次第)で治療反応も大きく左右します。これは細胞の死に方次第に帰結した話となるのですが、どれくらい死んでいるかどうかも、経過を追跡し続けない限り何も分からない側面あります。

これらの分野は再生医療も盛んに行われています。個人的には、例えば今件の脊髄損傷や脳血管障害等の症状が完成する病態には大きい効果が期待出来ると推測しています。反面、進行性を示唆する神経変性疾患など、進行にエンドポイントがない領域、症状固定のない領域は、再生医療で何処まで効果が出るのか、大変興味深く見ています。

治療は確実性と再現性は当然とし、高い効果と長い作用時間を都度の治療で掛け続け、罹患部位の安定的な回復に繋がると推測し、常に模索しているものの、都度の治療による生理的な反応には天井が存在すると思います。その為、これらの問題の解決には、治療を積み重ねて罹患部位の回復に期待するしか手段はないのかもしれませんが、中枢神経にも幹細胞が発見され久しく、神経/血管新生が十分に期待出来る領域なのは事実の為、後は工夫次第かもしれません。

麻痺は神経系の受傷例では最重度症例となり、最も経過予測が不可能に近いものの、末梢/中枢神経由来問わず珍しくないのが現実です。また、今件のご報告含むほぼ全ての麻痺症例は、神経再編成の過程で麻痺から痺れ、痺れから痛みへオーバーラップしながら経過します。脊髄損傷の類は交通事故など、エネルギーの加わり方が急激な為、突如として麻痺が惹起されますが、椎間孔の近隣を原因とする、頚腕神経や腰神経の末梢神経由来も珍しくありません。

 

後者の経時経年による麻痺への発展は緩徐な為、症状も痛みから痺れ、痺れから麻痺へ自覚しながら進行するケースが多く、上記同様に回復過程では逆の順序を辿る例が最多です。その為、末梢/中枢神経問わず、受傷速度が急速か緩徐かで症状自覚の過程は異なるものの、最重度は麻痺となり、回復時は症状の変動自覚を得ながらとなります。

 

麻痺ほど神経細胞の深刻度も高い為、改善率は低くなるのが現実ですが、前項の通り受傷から30年強を経ても反応を見せる可能性は、受傷年数に依らないと捉えられます。見方を変えれば、受傷年数ではなく受傷度合いで改善率が変動する印象もある為、受傷年数と治療開始時期は早期ほど改善率が高い話は目立つものの、一概には言えない側面もあります。

前項の症例は既に数年前のものです。その為、経過は既知とした上での話であるものの、この度は再生医療による脊髄損傷の話題を頂いた為、症例含め取り上げた次第です。また、脊髄損傷の病態と回復の難しさは※1)が読み易いと思います。※2)の動画を頂きました。当該治療は※3)サイトカイン療法の応用/分枝であり、針治療が神経再編成に関与する理由に、物理的な侵襲行為が罹患部位に直接的/誘導的にサイトカインを増幅させ、実現しているのではないか(というような)とご意見を頂戴したのが本題です。

 

上記では単純に、脊髄の栄養血管が周回する神経根近傍の小動脈拡張を求むと記載しましたが、その背景には様々な※4)生理反応が生まれる為、当該サイトカインも増幅/誘導され、刺針部位を鑑みてもカスケードすると思います。神経再生の因子はサイトカインだけではないかもしれませんが、物質的に含まれるのは確かです。針治療の話はさて置いても、全ての再生医療の内容を知らないのが前置きとしてありますが、人間味のある治療手段の1つと捉えています。只、現状として※2)を辿ると分かる通り、多くは制度的にも受傷から治療可能の期間が十数日までと短期な事がネックとなり、数十年経過した慢性期の再生医療はより困難且つ実現にも※5)年数が要る印象を受けます。

 

それでも尚、全ての症例に満足な結果が出るとは断じて言えませんが、現場から見る限りも、数十年経ても神経が回復する可能性は大きな希望と捉えています。
 

※1)画像 めざせ!外来診療の達人-外来カンファレンスで学ぶ診断推論 生坂 政臣
※1)http://www.rehab.go.jp/kiyou/japanese/30th/30-08.pdf

※2)https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_985.html

※3)https://www.jstage.jst.go.jp/article/…/4/8_346/_pdf/-char/ja

※4)「炎症メディエーター」「炎症性サイトカイン」など

※5)http://www.rm-promot.com/

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私が知らなかっただけで、古くより神経変性疾患にもプラトーやリバーサルは存在したと思います。当時は私自身、情報の収集先を日本に限定していた事が良くなかったのだと思います。何処までもポジティブに向き合い続けた情報は世界に転がっているものの、日本人の主観がフィルターに掛かった情報は、ネガティブに変異して情報提供されるケースも多い事に気が付いたのは、ここ何年かの話です。

 

只、どことなく感じる事は、軽症期でプラトーやリバーサルが起きたケースでは、そもそも診断の対象にすらならないと思いますし、どの症例でも感じることは、軽症例ほど恒常性も機能し易い為に治療反応は良く、重篤化するほど治療反応が鈍くなるのは全症例で共通した現象です。また、神経変性疾患に関しては興味深い例も多く見ています。恐らくどの患者も主訴と副主訴は存在し、それを自覚された上で治療を受けられると思いますし、心情としては主訴が治れば嬉しいとは思います。

 

そのような中、全ての症例に満足な結果を出せないのも現実で悔しい限りですが、主訴は進行しきってしまうものの、副主訴は停滞、又は改善等、同一個体のなかで、「進行」「停滞」「寛解増悪の波を打つ」「改善」の4つの現象が起きるケースは往々に存在します。同一個体でも、その症状を発症するに至った理由となる、中枢神経の何処かの罹患部位の傷の深い浅いは存在すると思いますので、それに準じた結果かもしれませんが、一部は進行しきってしまう結果は見てしまうものの、

 

それ以外の症状がその段階で止まる、又は改善するのなら、そもそも以て、診断名問わず根源となる病態の停止を示唆するのかもしれませんし、診断名問わず、そのような病態だったと結論付けられるのかもしれませんが、良くなったものは誤診とされ、カウントの対象にもなりません。このようにまだまだ全く見えてこない部分も多く、それどころか見れば見るほど見たいものは見えてこないもんだなと感じていますが、希望を持つことは大切と思います。

 

参考)https://www.facebook.com/kouta.fujiwara1/posts/1458113500946578

        https://ameblo.jp/fujiwaranohari/entry-12499025955.html

        https://ameblo.jp/fujiwaranohari/entry-12549016699.html

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 イメージ 1 ~針治療から病態定義の見直しを~

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