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SkyrimとFallout4・76の二次創作メインブログです。 たまにMODの紹介も。
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04.26.03:07

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  • 04/26/03:07

06.21.21:49

Tell Me(1)

※Fallout4パパマク小説です。
これは第四話(1)です。最初から読みたい場合はこの前の前の前の記事「Where is My Wished」からお読みください。

 海の上を船が行き交わなくなって何年経つだろうか。
 爆弾が投下されて2世紀あまり。今では造船技術を持った人間が生きているかどうかも疑わしい。かつては船が行き来していた証として、チャールズ川やコモンウェルス東にある港付近では残骸となった船が停泊している姿をそこかしこで見かける事が出来る。
港の先には、これまたかつて戦前に栄えていたボストン空港の遺跡が残っており、今ではそこはB.o.Sの拠点となっているものの、巨大な軍用飛行船プリドゥエンが連邦全域を睨みつけるがごとく宙に浮かんでいるのが嫌でも目に入ってくる。
 そして、俺たちが目指す目的地はその空港のさらに先にあった。
 ダイヤモンドシティからやや北東にある、細長い幹線道路のみで繋がっている小島はかつてナハントと呼ばれ、こぢんまりとした集落だけで構成されていたそうだ。小さな集落と本土を繋ぐ幹線道路は今現在も残されてはいるものの舗装はぼろぼろで表層は剥がれ落ち、車という前時代の文明の利器があっても舗装の上を走る事は難しい。
 そんな小さな島だったが、ネイトが一部を居住地として開拓したおかげもあって今では歩きにくい道路を何人かのプロピジョナーがバラモンを連れて歩く姿が見られ、本土との補給を繋ぐ一環として役立ってもらっている。
 四方を海に囲まれたナハントの居住地はかつての姿よろしく、静かな場所で過ごしやすい場所だ──誰もがそう思っていた。……奴らが来なければ。
 内陸側の入り江に面して作られたナハント埠頭。
 戦前は海産物や輸入品等を仕入れていた場所も、既に寂れて久しく僅かに残った建物が点在するのみで、人気は殆どない。……いや、人気があってはならない場所と今では姿を変えている。
 埠頭を海側に視線を移せばその理由にすぐ気づくだろう。かつては船が停泊していた海上には、不揃いの板がいくつも浮かんでおり、それらは流されないようロープで固定されて通路のように並んでいる事を。その先にはいくつもの船舶──というより既にその役目を終えて半ば沈みかけているのもある──へ繋がっており、板切れの通路はさながら、船同士を繋ぐ連絡線の役目のようだった。
 船は先程も言ったようにどれもほぼ沈んでいたりするせいで、さしずめ船の墓場と呼んでもおかしくない。……そんな場所に人の手が入った、板切れを結んだ通路と電気が通っているのか、いくつもの明かりが見受けられる。そんな船の墓場の中心──一番目立つ場所に、一番目立つものが浮かんでいた。
 元はタンカーだったものだろう、しかし今ではほとんどが沈み船尾が僅かに洋上から顔を覗かせている。その一部を利用してそこに“棲みついた”者達が居住区として作り替えてしまった。最も海上から高い場所──即ち船尾には付近全体を見渡せる見張り台のようなものがしつらえてあるのが遠めでも確認できる。
 この場所に侵入する者達を見つけては、周りを警備している仲間に知らせ駆逐するのだ。 ……そんないかれた連中が棲む集落。勿論彼らは一般人ではない。連邦周辺ではレイダーと呼ばれる集団が作った巨大なアジト。
 人々はその場所を、侮蔑を込めてこう呼び、その場所には近づこうとする者は殆どいなかった──“リベルタリア”と。

「……! 誰だ!」
 扉に近づくだけで、内側からくぐもった声が聞こえてきた。別にスニーキングをしながらここに来た訳ではないから、気配を察知するのは容易いだろう。元より、そういう事に長けた奴等ばかりだというのは、ダイヤモンドシティで嫌という程分かっている。
 飛んできた声に一瞬、扉に近づいていたネイトは足を止めた。が──扉に顔をくっつけるようにして、
「──色、一回ずつ」
 あの合言葉を言うと、扉の内側に居る誰かは一瞬、逡巡するような様子を見せたが──次には扉の施錠を解除するがちゃがちゃという音とともに、所々海錆で赤茶けた鉄製の扉はぎぃぃ、と軋む音を立てて開かれた。
 元は埠頭の一角に作られた倉庫の役割だったであろうその建物、というより小屋の内部は薄暗かった。明かり取り用の窓──ガラスは既に無いため窓枠のみが残っている──はいくつもあるが、どれもこれも木の板で塞ぐようにして光を遮っている。人目を避けるようにして誰かが打ち付けたのだろうか。海側に面したシャッターも閉まっており、殆どといっていいほど外側からは中の様子は窺えないようになっていた。……一部を除いて。
 既に使い物にならない機械や木箱、船の一部の残骸などが散乱している一階と違い、鉄製の階段の先にある二階の一角だけ、窓から太陽の明かりが差し込んでいた。そしてその前には何人かの人影が見える。窓は海側に面しているため、恐らく彼らは監視作業をしているのだろう。
「見ない顔だな。……新入りか?」
 扉を開けた男は目深に被ったフードを親指でつまみ、こちらに目線を向けてくる。意外な事にフェラルではなかった。しかしその目は疑いを色濃く滲ませ、こちらを凝視してきた。
「いや、俺たちはブレイサーではない。ミニッツメンだ。……ある男を探してここまでやってきた」
 ネイトがそう言うと、男ははっ、と鼻で笑ってみせた。ミニッツメンなんか怖くもない、といった態度に、内心むっとする。勿論口には出さないが……表情には少し表れているかもしれない。
「はっ、ミニッツメン? どうしてミニッツメンが俺達の合言葉を知ってる? 誰かに情報を漏らされたのか?」
 小馬鹿にした口調で煽ってくる。それでも声のトーンは抑えている事から、習慣からして身を隠す方法を心得ているのが見て取れた。しかし、ネイトはそんな挑発には乗らず涼しい顔をしたまま、
「ボスに聞いてこの場所にやってきた。俺たちが探している男がここに居ると聞いてな。……ヒューイ! ヒューイはいるか!!」
 突然ネイトが声を張り上げるものだから、ほぼ密閉に近いこの小屋全体にその声は響いただろう。二階で監視作業をしている数人がこちらに顔を向けたのが分かる。俺は黙って相手に目線を向けたまま、ゆっくりとネイトの背後へ回り、右足脛に括っている10mmピストルをホルスターから引き抜く。至近距離で打つにはライフルは適さない上に装填する時間を考慮すると、ピストルの方が扱いやすい。
「……てめぇ! 何大声で叫ぶ! 俺たちの行動が奴らにばれたら──」と、ネイトと対峙している男が相変わらず声を抑えたままドスの効いた声で脅してくるのと、
「あの、……ヒューイは俺ですが……」
 と、小屋の一角、残骸が積まれた場所から這い出るようにして出てきた男。……なんでそんな所に居るんだ?
 ネイトは脅しすような口調でまくしたてる目前の男を無視し、這い出てきた男の方に顔を向け、
「ヒューイはあんたか?」
「……は、はい。俺がヒューイですが、あなたは……?」
 ネイトの姿に気圧されているのか、それとも元からこういう性格なのか知らないが、どうもヒューイと呼ばれた男はおどおどして、ネイトの視線にも目を泳がせている。
「俺はネイト。ミニッツメンだ。お前のお父さんからお前を探してくれという依頼を受けてここまでやってきた」
 父さん、という言葉に弾かれるようにして、おどおどしていたヒューイの表情が一瞬にして変わった。「……親父が? どうして?」
「突然失踪したお前が心配で俺達を頼ったんだ。戻ってきてほしいと言っている。お前の行方を見つけるのは骨が折れたぞ。俺達と一緒に行くんだ、いいな?」
 有無を言わせない口調でネイトが言い切ると同時に、奇妙な事にヒューイはネイトの両腕をがしっと掴んできた。意外な展開に思わずネイトは後じさりする。
「お、おいあんた──」何をしでかすのかと思わず声を掛けてしまう、が、相手はこちらなぞ見向きもせずネイトを食い入るように見つめ、
「……助かった! ありがとう!! 早く、早くここから出してくれ!」
 予想外の返答。……しがみつかれたネイトは思わず俺の方へ目線を送ってくる。──“どういう事だ?”そう伝えていた。
 俺にだってわかるもんか。思わず肩をすくめて見せる。
「……自分から出て行った癖に、どういう事なんだ?」
 明らかにうろたえているのが伝わってくる。両腕を掴まれてネイトは身動きが取れない様子。
「ああ、そうだよな。……俺は父さんを裏切った。黙って何も残さず失踪した形で消えたのは本当に悪かったと思ってる。でも……でも! 今は後悔してるんだ。本当なんだ! 俺はここの奴等に騙された! まさかこんな薄暗い場所で延々同じ場所を見続けてる日々が続くなんて思ってなかった! あんな言葉一つを教えて貰ったせいで!」
「おい、てめぇからやってきておいてそれはねぇだろう」
 フードの男がヒューイに声を飛ばす。が、先程までのおどおどしていた態度はもう微塵も見せず、ネイトに窮状をまくし立てている。……いいからヒューイはいい加減ネイトを開放しろよ。まるでしがみついてるようにさえ思えてくる。くそ、嫉妬してる場合じゃないってのに。
「ネイトさん、助けて! 俺をここから出してくれ!」
「わ、分かった、分かったから腕をどけてくれないか」
 と、ネイトが言ってようやくヒューイは掴む手を腕から離した。余程強い力で掴まれてたのだろう、何度か両腕をさすりつつ、ネイトは男に向き直って、言った。
「そういう事だから、彼はブレイサーから脱退させてもらう。……こちらの用事は以上だ。失礼させてもらう」
 軽く頭を下げて踵を返そうとした時、フードの男は素早くポケットから何かを取り出し、ネイトの目前に素早くそれを向けた。柄から飛び出たそれは半回転し、ぱちんと音を立てて身を現す。──フォールディングナイフ。
「おっと、待てよ。あんたは何の権限があって俺達の仲間を連れ去ろうとしてんだ? そいつは使えないが俺達の大事な仲間なんだよ。勝手に連れて行こうとすんじゃねぇ」
 ちらちらとナイフを見せつけるように動かしながら、半笑いを浮かべフードの男は言ってのける。何事かと二階から降りてこようとする仲間らしき数人の男。俺は躊躇わず手にした10mmピストルを一発、階段に撃つ。
「……それ以上降りてこようとすればあんた達の身体に風穴が開くぜ」
 精一杯の威嚇をしたつもりだった。が……降りてきた奴等は階段の途中で懐から拳銃を取り出しこちらに照準を向けてくる。
「──ネイト!」
 俺の声が響く。それに反応してこちらに目を動かすフードの男。
 その僅かな隙をネイトは逃さず、ネイトは瞬時に突き出してきたナイフの柄を持つ男の手を掴む。しまった、と相手が思うよりも早く男の腕を軸に捻るように身体を半回転させ地面に叩きつけた。ぐはっ、と男がうめき声を上げる。
 男がやられた姿を見るのと、階段の途中でこちらに銃口を向けている奴等が手にした拳銃の引き金を引くのはほぼ同時だった。たん、たん、と小気味良い音と共に銃弾が飛んでくる。
「う、うわぁっ!」
「ヒューイ、こっちだ!」
 ヒューイの悲鳴と、それを庇うネイトの声。撃たれてはいないよな……と半ばそちらに目線を向けたいのを堪えつつ、俺は手にした10mmピストルの照準を相手の頭に合わせた。
「くたばれっ!」
 引き金を引く。狙った照準は違う事無く相手の眉間に小さな弾をめり込ませ、開いた穴から勢いよく鮮血を吹き出した。──しかしまだ終わってない。
 仕留めた一人は頭から血を流して倒れていく。その裏にもう一人立っているのは分かっていた。構えた銃を下ろさず、俺は再度引き金を引く──よりも早く、だーん、と重々しい銃声が耳を貫く。……瞬間、ネイトがマグナムで相手の頭ごと吹っ飛ばしていた。彼の後ろでは地面に伏せ頭を抱えてうずくまるヒューイの姿。
 どさり、と頭を失った身体が先に倒れていた仲間の身体に折り重なって頽れた。小屋の中は窓が打ち付けられているせいで鮮血の匂いが籠り、息苦しくなってくる。早い所出た方がよさそうだ。
 ……と、地面に叩きつけられていたフードの男が頭を振りつつよろよろと起き上がってきた。
 ああ、そうだった、こいつがまだ居たんだったな。
「ミニッツメン……貴様等、仲間を殺したな!」
「正当防衛だ。こちらは威嚇はしたが攻撃を仕掛けてきたのはあんた等──」
 ネイトが言うより先に相手が再びナイフで襲い掛かってくる。しかし身体はふらついているせいでネイトは難なくひらりと身をかわし、素早く背後に回って男の首に自分の腕を巻き付けた。
「ぐぁっ! ……くそ、くそっ!」
 男はネイトの腕を引きはがそうとするも、びくともしない。
「なぁ、攻撃しないで聞いてくれないか。俺達はあんたらのボスに会ってきた。ボスにヒューイを居場所と、彼がブレイサーに入った事も聞いた上で彼を開放してほしいと頼んだんだ。ボスは了承してくれた」
「うっ、嘘……だ!」
 なおも引きはがそうとするフードの男。持っているナイフを背後にいるネイトに突き刺そうとするも、叩き落とされてしまう。
 その隙をついて逃げようとするのを、俺が彼の腕を掴んで捻り上げた。ぐぁぁ、と男が再び呻き声を上げた。
「嘘じゃないんだ。だから俺達はここに来たんだから。……ネイト、さっさとここから出ようぜ」
 捻り上げた腕を掴んだまま俺は足を上げて彼の足元をすくうようにして蹴る。抵抗する間もなく男は今度は顔面から地面に叩きつけられ、そのまま気を失った。
「そうだな。……しかし、殺すつもりはなかったんだけどなぁ」
 ネイトは頭を掻きながら、気を失った男の懐から数キャップと銃弾を奪っている。抜け目がない。
「……あ、あの、終わり……ました?」
 頭を抱えていたヒューイが恐る恐る、といったようすで頭を上げ、立っているネイトに声をかけてくる。
「ああ、終わったよ」
 ネイトの声にほっとする様子のヒューイ。歩けるか、とネイトが聞いている。腰が抜けてしまったようだ。だらしない男だな……なんて思ってしまうのは多分まだ俺は変に嫉妬しているせいだろうか?
 ネイトが扉を開け、光の元へヒューイを戻す。彼はまぶしそうに太陽の光に目を細めながら、深呼吸をしていた。……まぁ、小屋の中は血の匂いで充満してたからな。思わず自分も深呼吸をしてみた。身体中に新鮮な空気が行き渡っていくのが感じられる。微かな塩の匂いが気持ちいい。
「……親父は、赦してくれますかね」リベルタリアの方を見ながら、ぽつりとヒューイが呟く。
「赦してくれるさ。……お前がちゃんと農作業を手伝って、居住地を発展させていけばな」
 ヒューイがネイトと俺の方を振り向く。そして深々と頭を下げてみせた。
「本当にすいません。元はと言えば、俺が興味を持ったせいでこんな世界に飛び込んだりしたせいで……親父やネイトさん達に面倒かけさせてしまって」
「全くだ。けどあんたが一体どこであの言葉を知ったか知りたいもんだ。一体どうしてブレイサーに入ろうと思ったんだ?」
 謝られると憎まれ口がつい出てしまう。ネイトはちらりと俺を見たものの、特に何も言ってこなかった。……ただ、彼の視線が妙に俺の事を気遣うそれだった気がする。俺が何を考えているかわかっているよ、というような目つき。──気のせいか?
 ヒューイは反論も弁明もせず、話し始めた。
「……半月ほど前だったかな。スカベンジャーがテンパインズの断崖を訪れた時でした、俺は、知ってると思いますけど、ダイヤモンドシティに行ってみたくて、よくそっちから経由してやってくるスカベンジャーや商人からダイヤモンドシティの情報を聞いては、行ってみたいってずっと思っていたんです。
 ……で、その日のスカベンジャーの話は、色一回ずつ、っていう謎の暗号を聞いた、それはどうやらダイヤモンドシティの秘密の宝か何かに繋がっているらしい……という、今思えば眉唾物な情報でしたけど、宝なんてあるのかって舞い上がった俺は、どうしてもその言葉の真意が知りたくなって、とある月がない夜に居住地から抜け出したんです。
 スカベンジャーが言うには、その言葉を頼りに酒場や町中で聞き込みをしてみるんだって事でした。……完全に騙されていました。あのスカベンジャーもブレイサーの一味だったんじゃないかと。俺は若いから、うまく育てればブレイサーの隠密行動を任せられるとでも思ったのでしょう。
 で、俺はダイヤモンドシティに辿り着いて、あの言葉を用いて聞き込みをしました。……あいつらが寄ってくるのはすぐでした。俺はセンターフィールドの地下に入れられて、ボスに遭って……そこでブレイサーという組織の事を知りました。
 秘密の宝なんて嘘だった、と思いもしましたけど、ブレイサーの組織の話を聞いて、そんなに悪い人達じゃないんじゃないか、って思うようになったんです。それで、俺の事を育ててくれるならってことで仲間になったんですけど……」
「……最初の派遣先がリベルタリアだった、てことか」
 ネイトの言葉に、ヒューイは力なく笑って見せた。「はい。右も左も分からない場所に連れてこられて、やる事はリベルタリアのレイダーの動向を見張る、というものでした。比較的楽な作業だと思ってたんですが、二日も経つと締め切った小屋の中でじっと窓の外にあるレイダーのアジトを見張る事が辛くなってきて。
 それに、隠れているとはいえ、いつレイダー連中に見つかるかも分からない。見つかったらアジトに居る連中が全員襲ってくるでしょう。
 こちらは僅か数人しか居ないし、殺されるのは目に見えてました。そんな恐怖に耐えて奴等の動向を見張るなんて余裕もなくなって……ここ数日は何もやる気が起きず、ずっとマットレスに横たわったままでした。
 ネイトさんが俺を呼んでくれた時も、俺は小屋の隅で寝てました。やる気が無いなら見えないところに居ろ、って言われて。俺の居場所はないのに、なんでここに居るんだろう……って思ってたんです。
 本当にこのまま黙って死ぬしかないのかって思っていました。だから、あなたが来てくれて本当に嬉しかった。ネイトさん、……それに」
 言葉が途切れ、ヒューイは俺の方を見る。ああ、そういえば名乗ってなかったな。
「マクレディだ」
「マクレディさん。……お二人とも、ありがとうございました」
 再び深々と頭を下げるヒューイ。
「……ま、いいさ。あんたも色々あったんだしな、気にするなよ」
 二度も頭を下げられると嬉しいというより少し申し訳なくなってくる。照れ隠しのようにそう口に出すと、ネイトもそうだな、と俺の意見に同意した。
「それにまだ依頼は終わった訳じゃない。お前をテンパインズの断崖に連れ戻すまでが依頼だからな。さあ、暗くなる前にここを離れよう」
 促すように言うと、ヒューイは頷き、歩き始める。ネイトを先頭にし、俺は最後尾でヒューイを守る形で歩き始めた。日は傾き始めている。今からテンパインズの断崖に向かって、休憩を取りつつ歩いたとしても、着くのは夜明け頃になるだろう。
 長い旅になりそうだな、と俺は依頼を受けた際思った事と同じように心の中で呟いた。

 テンパインズの断崖に着いたのは夜明け前だった。父親は既に朝早くから農作業に精を出しており、俺達の姿と──背後から申し訳なくとぼとぼと歩いてくるヒューイの姿を見て表情がぱっと輝いたのが印象的だった。
 ヒューイは何度も父親に頭を下げ、そんな姿を見て父親は目に浮かんだ涙を隠そうと目頭を何度か押さえていた。
「本当にありがとうございました。ミニッツメンの方々。この恩は……忘れません。これからもミニッツメンへの支援も行っていきます」
「ああ。そうしてやって欲しい。……じゃご主人、俺達はこれで失礼する」
 ネイトが軽く挨拶を済ませ、やや斜め後ろに立つ俺の方へと身体を向ける。と、父親の隣で反省するように頭を下げていたヒューイだったが、
「ネイトさん、……いつか俺、ミニッツメンに加入します。ネイトさんが居るなら騙される必要もないですから。だから……」
 ネイトが振り返り、微笑んだ……ように思える。俺は顔が見えないため窺い知ることは出来ない。が、
「ああ、待ってるよ」
 という彼の声は嫌味もお世辞もない、紛うことなき本心から出た言葉のように聞こえた。
「臆病な性格を直してから来いよ」と相変わらず憎まれ口を叩くのは俺の役目。
 ヒューイはむくれる事無くはい、と元気よく挨拶し、そして俺達の去り際、山の木々によって見えなくなるまで彼はずっと手を振り続けていた。


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