パニック病20200820

2020年08月19日

ニオイ

ミスターカターブの実家は山の中腹にあった

街灯に照らされた玄関先の重たそうな鉄扉は内側から音を軋ませながら開き 庭先に車が入るとカターブのお兄さんがまた内側から閉じた

随分高地に来ている気がする(寒い) そして実家は住宅街の中なのに田舎の匂いがしていた

この世界の全てには匂いがあるという 例えば季節の匂い それから病気にも匂いがあるという 雨嵐にも地震にも天変地異にもあるそうだ(動物に訊け)

よって田舎には田舎の匂いがある

玄関を通らず庭から続いているスロープをくだって倉庫的な地下室へと案内され汚れた服を着替えた 

倉庫は静かに眠る海の底のようだった 積もったホコリを指先で弾くと魚が砂を蹴るように舞い 両親に連れられて実家がある福島の田舎で過ごした夏の日々が蘇ってきた 

山と海と川に囲まれ広大な水田とみずみずしい新鮮な野菜の緑が夏の日差しの中で眩しく揺れている

庭の古井戸や離れの汲み取りトイレや釜炊き風呂のニオイ 納屋にしまわれている農機具や干し草や穀物や 降り積もったホコリとかすかなガソリンの匂いが入り混じってゆっくりと刻む時の中を漂っていてた

ミスターの実家は現在長男夫婦と子供二人の家族が暮らしていて地下に倉庫があるけど建物は平屋で庭は車一台分の駐車スペースとその倍の広さの芝生があり洗面所とトイレが離れてあり山の中腹とは言っても住宅密集地で畑も家畜もないのに同じ匂いがしていた

大人のボクは田舎の匂いが大地に根を張って暮らす人間の営みの匂いなのだと知ったのだった


つづく

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