ナショナル・シアター・ライヴ「アントニーとクレオパトラ」 | First Chance to See...

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 シェイクスピアの「アントニーとクレオパトラ」は、恥ずかしながらこれまで読んだことも観たこともなかった。とはいえ、主人公は歴史上の有名人だから、どんな話か全く見当もつかないというわけではない。ま、何とかなるだろう、と、特に予習もせずに臨んだところ。

 

 

 めっっっっちゃ、おもしろかった。

 

 観る前は、現代に置き換えた意匠の演出って大丈夫なのかとも思ったけれど、実際に観てみると、ローマとエジプト、その対比がはっきりしててすごくわかりやすい。舞台転換は早いし、衣装は美しいし、時代物っぽい演出じゃなくて本当に良かった。どのみちシェイクスピアが描いた「ローマとエジプト」なんて、厳密に時代考証や史実に依っているはずもないしね。

 

 レイフ・ファインズのアントニーは、クレオパトラに骨抜きにされ弛緩した体にだらしなく服を羽織っている色ボケ親父っぷりと、部下からの信頼も厚い優秀にして懐の深い指揮官ぶりとが、何の違和感もなく共存している。迫力の独白も聞きごたえたっぷりで、ああもう本当に巧いったら。

 

 そしてソフィー・オコネドのクレオパトラは——その妖艶さも老獪さも愚かしさも崇高さも、向こう当分この人以外にクレオパトラをやれる人は出ないんじゃないでしょうか、と言いたくなるレベルだった。彼女の巧さは『ホロウ・クラウン』のマーガレット役でよくよくわかっているつもりだったけど、舞台での彼女には改めて脱帽。ああもう本当に巧いったら。

 

 が、しかし。レイフ・ファインズとソフィー・オコネドが巧いことはもともと知ってたし、「アントニーとクレオパトラ」での二人が劇評で絶賛されているのも読んでいたから、たとえどんなに巧かろうとある程度までは私の予想の範囲内だった、と言えなくもない。それにひきかえ、完全にノーマークだったイノバーバス役のティム・マクマランには心底びっくりした。これまではテレビドラマ「パレーズ・エンド」や「刑事フォイル」の影響で、小心で保守的な政治家とか小心で保守的な役人とかを演じる脇役の人、という印象だったんだが、うわ、私が知らなかっただけでこんなにいい舞台俳優だったのか!

 

 ティム・マクマランは、2016年に観たナショナル・シアター・ライヴ「人と超人」にも出ていたらしい。家に帰って「人と超人」のパンフレットを確認したら、ほんとだ、確かに出ていた(汗)。その節は見事にスルーしちゃって申し訳ないっ!

 

追伸/「アントニーとクレオパトラ」のパンフレットによると、ヘレン・ミレンやジュディ・デンチもクレオパトラ役を演じたんだそうな。このお二人なら相当に高水準のクレオパトラだったろうな、とは思うけれど、「褐色の肌」と形容されるクレオパトラを演じるにあたり、かつてローレンス・オリヴィエがオセロを黒塗りで演じたように、彼女たちも肌を褐色に塗ったんだろうか。当時はそれでオッケーだったとしても、今じゃアウトだよね?