650

『習近平(しゅうきんぺい)帝国の暗号2035』
中澤克二(なかざわかつじ)
日本経済新聞社
1800円+税
2018年3月刊

このブログを広く知っていただくために、[人気ブログランキング]をクリックをぜひ、お願いします。

著者は日経の中国総局長を歴任した人です。習近平国家主席は、いよいよ権力を掌握したのかと思いきや、去年(2018年)の夏以降は個人崇拝を抑えようとする動きが広がりつつあります。それでも党内での権力基盤が固まってなければ日本と仲良くするのは政治的・党内的にリスクとされてきましたが、アメリカとの貿易戦争のおかげで日本と仲良くとなっているようです。

江沢民(こうたくみん)元・国家主席や胡錦涛(こきんとう)前・国家主席が、最も野心がなさそうで平凡であろうと思っていた習氏が、それまでの不文律を破って大幹部の腐敗・汚職摘発キャンペーンを利用して、己の権力を強化していったのには誰もが驚いたことでしょう。ここまでやってしまったらもう権力を手放すことはできません。なぜなら、手放した途端に自分が摘発され、おそらくよくても無期懲役にされるからです。中国の権力争いは昔から命がけです。日本の政治家の権力闘争など、子どもの遊びでしかありません。

習氏の国家目標の最も遠いものは、建国100年後の2049年の大中華帝国の再興ですが、これは清(しん)時代の最盛期の乾隆帝(けんりゅうてい)の世を再現することです。次に遠い目標はタイトル通り2035年になります。目的は習近平新時代の現代中国の建設です。その真相は中国一強による覇権主義を確立するというものであり、中国を中心、盟主とする国際社会の具現化となります。そのために途方もない額の軍事費を使って、真に戦える軍隊作りを始めているのです。

率直に言えば、中国人には国のために自分を犠牲にする人は極度に少なく、一人っ子政策のせいで「わがままで忍耐力のない」軍人が多く、弱兵と分析されています。本書の冒頭から習氏による軍政改革の描写が続いていましたが、佐官や将軍クラスの高級幹部になるには、日本円で何億円にもなる賄賂(わいろ)を上の人に贈らねばならないほど、腐敗しているのが現実でした。2017年の党大会では最高幹部の常務委員7人のうち、5人を代え、さらにその下の25人の政治局委員の15人を入れ替えて習派としました。

2018年になっても従来の2期10年という国家主席の任期を憲法改正でなくし、習氏の長期政権への布石(ふせき)を打っています。それにしても憲法改正、あんなに簡単にできてしまうのは、「なんだこりゃ」という感じでした。さぞ、安倍首相にしてみれば羨(うらや)ましく感じたことでしょう。

一帯一路などの中華経済圏の拡大、アフリカをはじめとする資源確保競争でのリードぶりなど、さすが共産党一党独裁(形の上では8党あるけれど)は長期的ヴィジョンが立てられていいなというものでした。こういうことを、日本という国のことを一心に考えている安倍首相にもさせてやりたいものです。人間がどうとか抜きにして、そうなれば日本は経済だけではなく、根幹の安全保障、国際的地位も含めて飛躍的によくなって、皆さんの他に皆さんの子孫の代まで安心して暮らせる国になります。

いいですか、好き嫌いではなく、国と国民のために何をする人かを、しっかりじっくり見て下さい。今はトランプ大統領が何をするかわからない人なので、習氏は経済も含めて日本を粗雑に扱うわけにはいきません。安倍首相がトランプ、プーチン両氏と良好な関係というのも大きな無言の圧力になっています。この中国と上手に付き合っていくには安全保障に力を入れて国防を増強すると共に、経済などで友好を深めていくというのが、教科書通りのやり方で、これは今の安倍首相だからこそできるでしょう。

国際関係は人間関係に似ていて、誰かと誰かの関係にも左右されるのです。習氏としては最優先はアメリカですが、トランプ大統領ゆえに先が見通せず、「保険」としての日本とロシアとの関係が鍵になっています。本書は中国国内だけではなく、日米ロを含む北朝鮮との関係にも触れていて、なかなか内容のある一冊でした。それにしても軍事や科学についての力の入れ方は見事です、中国。日本は今、頑張らないと10年後に泣くことになるのかもしれません。

 『我々が生まれつき持っているものは、じつに少ない。人間とは自分自身を創造していく存在なのだ』
(アレクサンダー・グラハム・ベル 発明家)

このレビューで美達が紹介した本