(フィクションですのでご注意ください)
昔々あるところにデイビッドと言うおじいさんがいました。おじいさんは代々お金持ちの家に生まれたため、お金には一生困りませんでした。
好きなところには何の苦労もなく行け、別荘が世界中にありました。文化人、政府高官やVIPと呼ばれる人々はおじいさんの後ろ盾が欲しいため、特に何もしなくても交友関係は広がりました。おじいさんと直接会えることがステータスだったからです。
欲しいものは何でも手に入りましたが、年齢だけはどうにもなりませんでした。おじいさんは、年老いていく自分に歯止めをつけようと、できることは何でも取り入れました。
それでも老化は止まりません。世界が羨むお金持ちであっても結局人間ですから。
おじいさんはある科学研究所に目をつけました。肉体を保存して未来で生きる装置を開発・販売していました。おじいさんは死後に自分の体を冷凍保存するため、契約書にサインをしました。契約担当者は、この爺さんは今世のみならず未来も自分がトップに立って支配したいのかよ、と誰もいないところでひっそり悪態をつきました。
そこまでしても、おじいさんにはどうしてもやっておきたいことがあったからです。
それにしても、おじいさんの願いとはなんだったのでしょうか。
おじいさんはとても敬虔深い人でした。毎日書物を読み、神様に感謝を捧げ、同様に敬虔深い家族や仲間たちと神について語り合いました。
自分に権力というパワーがあることはわかっていたおじいさんは、神様が望むような世界にするために努力しました。時には荒っぽい手段を取ることもありましたが、これも神様に仕えるものとしてやむを得ない、と考えていました。
そしてある日、おじいさんはとある人物と出会いました。
その人物は、世界中の人とあってきたおじいさんでも、今まで会ったことのないタイプの人でした。その人は、なんと神様とおしゃべりができました。おじいさんが敬愛してやまない神さまと直接会話ができたのです。
おじいさんは、その人物のような人がいることは知っていましたが、おじいさんの周りにいる人たちは誰も会ったことがありませんでした。そのため、おじいさんの中ではファンタジーとして解釈していました。
何の偶然か、目の前に噂の人物が現れたため、おじいさんはとても衝撃を受けました。おじいさんは、その人が神様と話せるなら自分もそうなりたいと願いました。おじいさんは本当の意味での”神”になりたかったのかもしれません。
食事を変え、健康管理をし、いつも以上に神様への奉仕活動に精を出し、神様に近づくための努力を怠りませんでした。
しかしながら、どんなに頑張っても、神様とはお話しができません。そうするうちにおじいさんの体はどんどんと衰えていきました。
そして、体力的にどうすることもできないと悟ったおじいさんは、どんな手段を取っても長生きして神様と会える可能性を探りました。
なぜなら、おじいさんは、生きているうちに神様に会い、神様に愛されていることを実感したかったのです。幼い頃から尊敬してやまない神様と直接お話しできる機会は、この生のあるうちでしかなかったのです。
彼の信じた宗教には輪廻転生という概念はありませんでした。死んでしまったら、「デイビッド」という自我は完全に消滅してしまう、と信じていました。肉体を持ったディビッドであるうちに、どうしても神様と会いたかったのです。
おじいさんは他の人よりほんの少し長生きをしましたが、年齢には勝てず亡くなってしまいました。肉体がその後冷凍保存がなされたのかどうか、そして、生きている間に神様とお話しすることができたのかは誰にもわかりません。
<終わり>