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★原作★田渕由美子
鬼束ちひろ 月光
選曲・・・結局好きな歌ですww
3番目の物語も、やっぱり白いペンキ塗りのフランス窓のある小さなお家から届けられます。
季節は夏真っ盛り、庭のびわの木のびわは少女たちにすっかり食べられてしまったようです。
3人目の少女の物語は少しだけ時をさかのぼって大学がざわめき出した4月から始まります。
最初の1講目、教室はざわめいていた。
それぞれ、知り合いや顔見知りを見つけたり、あるいは初めましてのご挨拶であちらこちらで賑わっている。
私は地方からの出身だったので、それを遠くから眺めている傍観者だった。
その時にある場所だけ輝くところを見つけてしまった。
その最初の瞬間、思わず私はその人に見入ってしまったの。
なんて、深い、深い、瞳の表情。
「・・・・・・・ますか?」
思わず見とれていた私の背後からの声に、はっとして我に返った。
「あ、ごめんなさい。なんでしょう?」
「アハ♪うふふ、この席空いてますかって聞いたのよ。でも、どこかにお心が飛ばれていて、お返事無かったので座っちゃった。」
「えっ?あ・・・。ああ、どうぞ、空いていますから。」
「うふふ、意外と男子が多いのねぇ、この学部。びっくりしちゃった。」
「そうですね。」
「知らない人ばかりでドキドキよ。あなた、お名前は?東京の人?」
「あ、私は、柘植・・・」
「あっらまぁ~~!斎藤くんじゃん!」
うわ!人の話し聞かない人種の人だ・・・。
「おー!」
「あら?あなた都落ちしたんじゃなかったの?」
もはや、私は眼中には無い様子だ。
参ったなー。
これが東京の人種・・・
これはどうもついて行けそうに無いわ・・・・
一体、このだだっ広いキャンパスの中の数万人の中に、私という人間を分かってくれる人が何人いるんだろうか。
もしそれが10人いたとして、その何人と私は知り合う事が出来るのかしら?
そんな事を呆然としながら考えていた。
「つげ せんこさん。」
いきなり呼ばれて驚いて立ち上がって返事をした。
「あ、はい。」
「おや?あてたんじゃ無いよ。これ、出席ね。」
クラス中からクスクスと笑い声があがっている。
ああ・・・何という失態。
入学早々から・・・おかげで名前の読み方を訂正するのも忘れてしまったし・・。
「渡辺まなびくん。」
「はい。」
「樫村有人くん。」
「はい。」
あ・・・あの人・・・。
「はい、以上で出席確認おしまい。では来週から使うテキストのお話を・・・」
担当教授の話が続いている。
その横から先程の女の子が話しかけてきた。
「ねえ、あなた、美人ねぇ・・・柘植さん。きっとクラス中で評判になるわよ。」
「えっ?」
「でも、あなた、ず~っとあのチェックのシャツ着たひとばかり見つめてるわよねぇ。うふふ。」
あうっ!
「あ、あの、あなた」
「うふ、彼はひと目を引く容貌ですものねぇ・・・。でもね、彼はダメよ。樫村有人は。」
「えっ?」
「私、柴田志麻、ま、聞いてなかったでしょ?うふ、ねぇ、あなたお昼休み一緒にお食事しない?」
「い、いいえ!!私、お昼はひとりでとることに決めているんです!!」
で、思わず立ち上がった・・・・。
もちろん、声も大声だし・・・・教授の顔があんぐりしていたのは分かった。
授業が終わって即座に教室から抜け出した。
二度も、恥をかいてしまった。
でも、何という人だろう。
苗子も負けそうな、あの厚化粧と馴れ馴れしさ・・・。
「落とし物!」
えっ?
「今、落としましたよ。柘植・・・栓子(みちこ)さん・・・。」
えっ?
あ?学生証・・・
「あれ?要らないの?これ?」
「あ、いいえ、要ります。今日は失敗続きなので、二度ある事は三度ある思っていたのよ。どうもありがとう、樫村有人くん。」
「へ?俺の名前そんなに覚えやすい?」
「あ、一番最後に呼ばれたから、あなた。」
「ああ・・・」
驚く事は2つもあった。
未だ嘗て誰も読めなかった私の名前を正しく呼んだ事。
それから・・・
前髪をかき揚げた時に左手の薬指に光った金色のリング。
続く
★原作★田渕由美子
鬼束ちひろ 月光
選曲・・・結局好きな歌ですww
3番目の物語も、やっぱり白いペンキ塗りのフランス窓のある小さなお家から届けられます。
季節は夏真っ盛り、庭のびわの木のびわは少女たちにすっかり食べられてしまったようです。
3人目の少女の物語は少しだけ時をさかのぼって大学がざわめき出した4月から始まります。
最初の1講目、教室はざわめいていた。
それぞれ、知り合いや顔見知りを見つけたり、あるいは初めましてのご挨拶であちらこちらで賑わっている。
私は地方からの出身だったので、それを遠くから眺めている傍観者だった。
その時にある場所だけ輝くところを見つけてしまった。
その最初の瞬間、思わず私はその人に見入ってしまったの。
なんて、深い、深い、瞳の表情。
「・・・・・・・ますか?」
思わず見とれていた私の背後からの声に、はっとして我に返った。
「あ、ごめんなさい。なんでしょう?」
「アハ♪うふふ、この席空いてますかって聞いたのよ。でも、どこかにお心が飛ばれていて、お返事無かったので座っちゃった。」
「えっ?あ・・・。ああ、どうぞ、空いていますから。」
「うふふ、意外と男子が多いのねぇ、この学部。びっくりしちゃった。」
「そうですね。」
「知らない人ばかりでドキドキよ。あなた、お名前は?東京の人?」
「あ、私は、柘植・・・」
「あっらまぁ~~!斎藤くんじゃん!」
うわ!人の話し聞かない人種の人だ・・・。
「おー!」
「あら?あなた都落ちしたんじゃなかったの?」
もはや、私は眼中には無い様子だ。
参ったなー。
これが東京の人種・・・
これはどうもついて行けそうに無いわ・・・・
一体、このだだっ広いキャンパスの中の数万人の中に、私という人間を分かってくれる人が何人いるんだろうか。
もしそれが10人いたとして、その何人と私は知り合う事が出来るのかしら?
そんな事を呆然としながら考えていた。
「つげ せんこさん。」
いきなり呼ばれて驚いて立ち上がって返事をした。
「あ、はい。」
「おや?あてたんじゃ無いよ。これ、出席ね。」
クラス中からクスクスと笑い声があがっている。
ああ・・・何という失態。
入学早々から・・・おかげで名前の読み方を訂正するのも忘れてしまったし・・。
「渡辺まなびくん。」
「はい。」
「樫村有人くん。」
「はい。」
あ・・・あの人・・・。
「はい、以上で出席確認おしまい。では来週から使うテキストのお話を・・・」
担当教授の話が続いている。
その横から先程の女の子が話しかけてきた。
「ねえ、あなた、美人ねぇ・・・柘植さん。きっとクラス中で評判になるわよ。」
「えっ?」
「でも、あなた、ず~っとあのチェックのシャツ着たひとばかり見つめてるわよねぇ。うふふ。」
あうっ!
「あ、あの、あなた」
「うふ、彼はひと目を引く容貌ですものねぇ・・・。でもね、彼はダメよ。樫村有人は。」
「えっ?」
「私、柴田志麻、ま、聞いてなかったでしょ?うふ、ねぇ、あなたお昼休み一緒にお食事しない?」
「い、いいえ!!私、お昼はひとりでとることに決めているんです!!」
で、思わず立ち上がった・・・・。
もちろん、声も大声だし・・・・教授の顔があんぐりしていたのは分かった。
授業が終わって即座に教室から抜け出した。
二度も、恥をかいてしまった。
でも、何という人だろう。
苗子も負けそうな、あの厚化粧と馴れ馴れしさ・・・。
「落とし物!」
えっ?
「今、落としましたよ。柘植・・・栓子(みちこ)さん・・・。」
えっ?
あ?学生証・・・
「あれ?要らないの?これ?」
「あ、いいえ、要ります。今日は失敗続きなので、二度ある事は三度ある思っていたのよ。どうもありがとう、樫村有人くん。」
「へ?俺の名前そんなに覚えやすい?」
「あ、一番最後に呼ばれたから、あなた。」
「ああ・・・」
驚く事は2つもあった。
未だ嘗て誰も読めなかった私の名前を正しく呼んだ事。
それから・・・
前髪をかき揚げた時に左手の薬指に光った金色のリング。
続く