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There Must Be An Angel Eurythmics


私に学生証を手渡すと彼は無言で振り向き歩き出した。

「あ、あの。」

「ん?何?」

「あ、いえ、ごめんなさい、何でも無いの。ありがとう。」

返事もせずに彼は向き直って歩き去っていく。

とても・・・ぶっきらぼうな人だと思った。

ただ、それは私にだけでは無く、等しく誰に対しも同じだった。

歩き去っていく彼に声を掛けた女の子がいた。

「あ、樫村くん、2時限目休講よ。高橋先生。」

「あ、そ。」

そのまま歩き去る。

これはもはや、ぶっきらぼうと言うより無視に近い。

午前最後の授業前に女の子達が騒いでいた。

「ねぇ、樫村くんってひどくない?」

「そうそう、名簿作るから住所教えてって言ったのに、ガン無視よ。」

「あの人、女嫌いなの?」

侃々諤々姦しい。

何となく彼らしい気がして一人で納得していると、ある男の子から声を掛けられた。

「柘植さん、お昼一緒に・・・。」

そこにあのケバイ柴田志麻が口を挟む。

「馬鹿ね、斎藤くん。柘植さんはダメよ。」

「えっ?ダメだなんて・・・・。」

「だって柘植さんはあのチェックのシャツ着てる・・・。」

「し、柴田さん!」

「ああ・・・ダメなのかぁ~。」

「ちょっと、柴田さん、あなた・・。」

「うふ、ショージキー、柘植さんって、ユニーク。あなた気に入っちゃった。」

「ユ、ユニー・・・。」

いや、私に言わせれば貴方のほうがよっぽどユニークだと思うけど。

「あら?あなた、何持っているの?」

手元を覗いていたと思いきや、樫村くんを目の端に見つけると返事も聞かずに。

「あ、有人さんっ!」

えっ?有人さん・・・・?

何やら二人で話している姿が親しそうに思えた。

「うふ、柘植さん、彼、OKだってよ。」

何が?OK?

意味もわからぬうちに教室から連れ出された。

どうやら3人でご飯を食べる事になってしまったみたい・・・授業、初日からサボりって・・・・。

どういう事なのか、呼び方、無愛想な樫村くんがお昼一緒に、とか。

近くのレストランに入って食事会?になった。

「あら~~!何!エビグラタンなのにエビちゃん入ってないじゃん・。」

店員さんがこちらを睨んでる。

キョワイ・・・。

「ねえ、食べないの有人さん。冷めちゃうわよ。」

「あ、うん。」

樫村くんはどこか遠くを見ている。

この人の深い、深い、瞳の色は何故・・・。

「ちょっと、有人さん、溢しているわよ。もう、相変わらずなんだから。あ、もう、器引きずっちゃダメだって~。」

樫村くんと柴田さんって親しいのかな?

樫村くん、友達なんて居そうにないのに。

薬指のリングは・・・・

そうしてその日のご飯は味が分からないまま終わり、授業も終わって帰りの電車へと時間は早足で過ぎ去った。

ぼうっとしていたら目の前にお婆ちゃんが立っている。

「あ、あのどうぞ。」

誰かの声と重なる言葉。

あ・・・樫村くん。

「あらま。お二人共ありがとうね。でも、私はここで降りるのよ。」

ニコニコとお婆ちゃんがドアから出ていく。

私は樫村くんの顔を呆然と見つめていた。

「あの・・・。」

「あ、はい。」

「クスクス・・・良いんだけどさ。でも、ちょっと、足の上は痛いかな。」

きゃあ~。

さっき買った植物図鑑が。

「ご、ごめんなさい。これ、重いのに。」

私が取ろうとする前に彼が手に取り渡してくれる。

「アハハ・・・大丈夫、はいどうぞ。」

胸が詰まりそう、笑顔がとても優しい。

いい人なんだ、ううん、それはひと目見たときから感じていた。

「どうもありがとう。」

「2度めだね、ありがとうを言われたの。」

どうしよう・・・・彼の事が好きになったみたい・・・。



続く