極端なほどの人見知りの奈緒が、政治家になる事を何故望むのか?
まあ、昼間はナオに面倒を押し付けて於けば良い、と言う考えは一応分かる。
しかし政治家の一族として育った者として、昼間に真の政治が動いている訳では無い事は良く解っているはずだ。
その真の政治が動く夜の狭間のど真ん中に自分を放り込むつもりなのだろうか?
長い付き合い?でお互いの事を解って居るはずの奈緒が、何故それを望むのかが今回ばかりは理解出来なかった。
考え込んでいるナオに大叔父が真剣な顔で語り掛ける。
「気持ちはよく分かる。今まで考えた事もなかったであろう。
政治家への転身に不安は普通でもあるだろうし、ナオ達にはそれ以上の不安も重なるだろう。
しかし、角田家、二階堂家共に今回ばかりは存亡の危機に面しているのだ。」
「でもさ、それって大叔父さんが失敗しちゃったからじゃん。」
「うっ!そ、それは・・・。」
「大体なんで主流派にいたのに反主流派に寝返ったりしちゃったわけ?馬鹿なの大叔父さん。」
「ぐう・・・あうぅ・・・そ、それはじゃな・・・。」
「大人しくNO.2とか3とかでいるのは嫌だった?最後の一花とか?」
「うぅ・・・相変わらす、口の減らん小娘じゃわい。」
「ほう、ほう、そういう態度なんだ。」
「うっ!だ、だから、それはじゃな・・・。とにかく、頼まれてくれ!」
珍しい事に大叔父がナオに頭を下げている。
母がナオに呟く様に言った。
「ナオ、お母さんからもお願い。ここで両家が潰れちゃったら、お母さんの人生って何だったの?って悲しくなっちゃう。」
これにはちょっとナオも参った。
ただでさえ解離性同一性障害などという難題を抱え込ませて居るのは自分たちなのだ。
「解ったわよ、お母さん。でも、私達二人共政治の事なんか知らないから、何をどうすれば良いのか解んないわよ?」
「そうじゃ、だからこそ、樫村君の息子さんに来てもらったんじゃ。」
「あ・・・そうか。有人兄さん、そう言えば政治家になるために政治家の秘書とかやっていたんだっけ?」
「ああ、今は二階堂先生の派閥に属する先生に付いて勉強中だったんだけど・・・・。」
「えっ?じゃあ、これでそこ辞めて私の秘書をって話なの?」
「ああ、二階堂先生からのお願い、と言うか僕自身もここで二階堂先生が失脚しちゃうと将来が無くなっちゃうからね。
自分の為だから。ナオ君達の秘密のために、わざわざとか負担に思わなくても良いから。」
「う~ん・・・(いや・・・・そういう事じゃ無いんだけど・・・・ずっと一緒にとか・・・困ったなぁ。)」
「奈緒ちゃんとナオの秘密はここに居るものだけで守って行く。じゃから、ワシの神輿として一役買ってくれんか?」
「う~ん・・・あのさぁ~、大叔父さん。まあ、早く言うと自分じゃ国民に人気がなくて勝てない。
その点私達ならノーベル賞受賞者で一躍人気者、その上「角田中栄」と云うブランドも付いてくる特大のお神輿になるって訳ね?
でも大叔父さん、先々そのお神輿だった筈の私がその気になっちゃって、大叔父さんの派閥とか乗っ取ちゃったらどうすんの?」
「うおほっほっほっ!さすがに同じ事を言いよるわ。昨日、奈緒ちゃんも同じ事を聞いてきたぞ。」
「えっ?あ、そう?で、どう答えたの?」
「それは本望じゃと答えたわ。もし本当にそうなったらそれこそ亡き角田総理も喜ばれるじゃろ。」
「ふ~ん。良いんだ?知らないわよ?後で後悔しても遅いわよ?」
「ぐわっはっはっは。いい度胸じゃ。逆に頼もしいわい。構わんぞ、好きにして。」
まさか奈緒が政治家になりたいわけでも無いだろうに。
奈緒の真意は解らぬままでも、どうやらこの願いを断る事は出来そうに無さそうだ。
ナオも覚悟を決めた。
「で、私は何をすれば良いわけ?」
「おー!やってくれるか!そうか!よしよし、これで何とかなりそうじゃ。」
大叔父は如何にも嬉しそうにナオの頭を撫で回した。
「ちょっと~!ガキンチョじゃ無いんだから、やめてよ~。」
「わっはっは。すまんすまん。」
「詳しい事は僕が説明します。取り敢えず、記者会見用に正装して来てくれますか?」
「あ、うん。解った。」
どうにも有人と一緒と言う事が、ちょっと気掛かりな事態になりそうな気がするナオだった。
続く