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二階堂を始め所属議員が衆議院へ向かうと、ホテルにはナオと有人だけが残る事となった。

ナオはそこで有人にこれからの様々な注意点を告げ始めた。

「有人さん。これから言う事は絶対に守る事。「うっかり」とか「間違って」とか、どんな理由でも許されないから心して聞いて。」

それまでのナオと打って変わって、真剣な表情でそう告げるナオの言葉に、有人は少々戸惑いを感じた。

「あ、はい。心して聞きます。」

「じゃあ、まず1点目。私と奈緒の連絡帳は絶対に見ないこと。」

「・・・・はぁ・・。」

それがどれほどの大事なのか?逆に手助けになる事があるのでは無いか?と、有人は納得がいかない顔で生返事を返してしまった。

「有人さん、ちゃんと聞いて。これは奈緒と私を繋ぐ最大の約束なの。もしこれを破ったら、奈緒から私への連絡は一切取れなくなるの。奈緒からの絶対条件なのよ。」

「そうなんですか・・・。解りました。どんな事があっても守ります。」

「うん、そうしてね。じゃあ、2つ目。奈緒の研究室には絶対に入らない事。これはね、家族も私も入れないの。これも奈緒からの絶対条件なの。」

「解りました。もし、奈緒ちゃんが研究室にいる時に緊急の連絡が必要な時はどうするんですか?」

「あら?クスッ・・・それは普通に電話かメールで。」

「あ・・・はい。」

「じゃあ、3つ目。これは私から。奈緒の行動を次の日に全て私に教える事。」

「えっ?でもさっきは連絡帳は見るなと・・・。」

「連絡帳は見ちゃダメ。それは奈緒の条件。

でも奈緒の行動を教えてはイケナイと言う条件は奈緒からは言われて無いの。

だから奈緒が何をしたのか、ちゃんと教えて。

あの娘・・・時々私に隠れて何かやるのよ。」

「はぁ・・。」

直感的に後で奈緒から同じ事を言われる、と感じた有人だったがそれは口に出さずにいた。

「ははん。奈緒から同じ条件を出されると思っているでしょ?」

女の直感は鋭い。

「う、あ、はぁ・・。」

「そこが4つ目の条件、奈緒には私の事を全部は話さない事。言っちゃイケナイ事は私がちゃんと言うから。」

「えっ?」

「不公平だと思うでしょ?でも、政治家になりたいなら、その事は守って頂戴。」

「それは、どうしてですか?奈緒ちゃんもナオさんの行動を把握していないと、その行動に矛盾が生じたり不都合がありませんか?」

「そこは連絡帳でちゃんとするから大丈夫。でも私のプライベートな事とか、秘密にしたい事とか奈緒には知られたくないの。」

有人には二人の微妙な関係がイマイチ理解出来ていない。

「あのね、有人さん。私達は体は共有しているけど、人格は完全に別なの。兄弟でも知られたくない事ってあるでしょ?」

それはそうだが、それでは奈緒の事だけ報告しろと言うナオの言葉は不公平では無いかと少々不信感を顔に出してしまった。

「あら?奈緒に加担したい?奈緒では有人さんを政治家にする事はできないわよ?私にはそれが出来る。それはさっきその目で見たでしょ?」

「あ・・・・はい・・・・。」

確かに人見知りで殆どコミュ障気味の奈緒に自分を政治家に出来る力があるとは思えなかった。

「よろしい。」

少々小悪魔的な笑顔でそう言うナオが、その他いくつかの条件を付け加えた。

話を終えた後、二人は部屋のテレビを付けて国会の中継を並んで見始めた。

マスコミには二階堂と瓦斯の密約が漏れてはいないらしく、国民が期待する大泉新総理誕生の瞬間を報じる体制が取られておりアナウンサーも解説者もその話題一色である。

いよいよ本会議場に議長が入場し、テレビからはその瞬間が近づく興奮がひしひしと伝わる。

しかし、議長が持つ「紫の袱紗」に気がついた一部の議員が悲鳴とも歓声ともつかない声を上げた。

ざわつく議場に議長の声が響いた。

「ただいま内閣総理大臣から、勅書が発せられた旨伝えられましたから、朗読いたします」

与野党問わずこの議長の発言には全議員が起立せざるを得ない。

ここに至ってその重大事に気が付き、野党議員が罵声を浴びせかける。

「暴挙だ!」

「陰謀だ!」

その騒然とした雰囲気の中議長は声高にそれを告げた。

「大和国憲法第7条により、衆議院を解散する。」

一斉に二階堂の一派と与党議員がバンザイを三唱する。

通常ならその後、議長が発する「この際、暫時休憩致します」の言葉は解散の場合は発せられない。

議長も解散と同時に失職しているため、会議での発言権が無くなるのである。

バンザイの声が響く議場を無言で議長が退出する。

国会の衛視たちが議員に対して敬礼をしなくなる瞬間でもある。

いざや、決戦の刻。


続く