私が見聞きしてきた範囲に限定されはしますが,日本人は,「ズルい」という言葉は使っても,「不公正」ないしは「不公平」という言葉はあまり使わないように見えます。ここにある差異が,単に発話される際の音の数の問題であるのならば問題はないように思われますが,そうなのかという検討は必要なように思われます。

 

「ズルい」という言葉が発せられるとき,多くの場合にそこに嫉妬などが認められるように思われます。もちろん,このことは「不公正」であることと必ずしも差を生み出すわけではありません。「これは不公正だ」と感じる前提に,「あいつの方が得しやがって」という感情が先立つことは十分にあり得るでしょう。したがって,ここは決め手にできません。

しかし,語感の問題として,「不公正」というときには,そこでは「公正」つまり“fair”が問題とされている以上,それは「正義」の問題でもあるといえるでしょう。つまり,その「ズルさ」が「正義」にも適っていない場合と整理することができるのです。

 

そうだとすれば,(とりわけ今の日本人にとっては)「不公正」であるという表明は非常にハードルの高いものになってしまいます。いうまでもなく「正義」の表明を前提としているからです。とりわけ,俗流の「正義」概念が流布している以上,「正義感を押し付けるな」のような的外れの非難を受けざるを得ない場合もあるでしょう。そうなると,曖昧模糊とした「ズルい」という言葉に逃げざるを得なくなる。ですが,「ズルい」という言葉は,より「自分が不利益を被っている」という嫉妬や被害感情が表に出た言葉であり,「不公正」や「不公平」といった,事態の理解とそれに対する規範的な検討を含んでいないように見えてしまいます。どうも座りが悪いのです。

 

我々法律家にとっては,「ズルい」のかではなく,「不公正」ないし「不公平」ではないかこそが命脈です。仮に元が「ズルい」から発していたとしても,それが「不公正」ないし「不公平」ではないかの検討が必要なのです。それで,「不公正」ないし「不公平」といえるだけの内実を備えていなければ,それはやはりただの嫉妬や自らの地位に対する不満以上のものではないでしょう。だからといって,「ズルい」という言葉が直ちにそれのみを指すというわけではないところがまた難儀なところです。


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