遠い星242(TDL編39) | たろすけ日記
「おにい、お待たせ。入って」

「あ、あぁ。早かったな。やっぱり眠いからはよしたんやろな。よっこらせと・・・」立ち上がってヨロヨロとユニットに向かってシャワー浴び始めた。

もう23時になろうとしてたけど、裕美さんにはどうしても確認しておきたいことがあった。誰が見ても頼りないおにいへの気持ちはこれからもずっと続けていくつもりなのか。言葉はいくらでも取り繕える。出来れば誤魔化しじゃない裕美さんの本心が知りたかった。普通なら誰も相手にしないようなおにいのどこが良くて付き合って結婚まで考えるようになったのかを。裕美さんが言ってたおにいが恩人って言葉の意味がイマイチよく飲み込めてなかったし・・・。

裕美さんの髪はまだ乾いていない。おにいのいなくなったパソコンの画面を見ながら熱心にタオルで髪をほぐしてる。

裕美さんに近づいておにいの座っていた椅子に腰掛けて、
「裕美さん、今日も有難う、お疲れ様でした」

「ううん、私の方こそゴメンね。また酔ったとこ見せちゃって幻滅したよね。おまけに、私の本音まで言ってしまったしね。私も彼と同じでなかなか本音って出さないから」裕美さんの酔いもすっかり醒めてた。明日で私も帰るから多分今しか機会はないと思ったので、

「裕美さん」

「なあに?」

「裕美さんともこれでしばらく会うこともないよね。あんなことがあったから私どうしても最後に裕美さんに訊きたいことあるの。質問していい?」

「そうね。これでもう当分会うこともなくなるね。・・・いいよ。きちんと答えられるかどうか分からないけど、言ってみて」

「うん。・・・あのね、私、裕美さんが言った『私のこと嫌ってる』って言葉が腑に落ちないの。裕美さんから出る言葉じゃないって感じで。どうして裕美さんが下手(したて)に出るようなこと言うんだろうかってね。だって、どう見てもおにいと裕美さんって釣り合わない気がするもの。裕美さん本当にあんな頼りないのと一緒になるつもりなの?」

ほぐしていた髪の毛の動きとめてしばらくじっと考え込んでた裕美さん。眼は開いてるけどどこも見てないような虚ろな視線。それから急転回したvividな表情私の方に向けて、

「私の気持ちは変わらないよ。彼が浮気とかしても私、許せると思ってる。志奈子ちゃんにはまだ話せないことがあるんだけど、私の冷たい心の壁に穴開けてくれたのが彼だったから。彼が私の全てを溶かしてくれたの。彼は私の彼氏である以上に私自身の恩人なの。これから先何があっても離れないし離れたくない。私が下手っていうのは志奈子ちゃんの勘違い。私たちはお互い尊敬し合ってるし気持ちは変わらない。ちょっとしたいざこざはあるけどそんなの些細なことだし。だから志奈子ちゃんが思ってるような別れたりすることはないの。私たちはずっと一緒」

ポツリポツリ、それでいて意思の確かなはっきりした口調で語る裕美さん。何か圧倒された。裕美さんの過去が全ての原因だったのか?裕美さんの過去知りたいって思う。でも、今は駄目だ。話してくれないだろうし、私には訊けなかった。おにいと裕美さんの関係は何があっても壊れることはないだろうと思った。
「それと、志奈子ちゃん、さっき鮫君と私じゃ釣り合わないって言ったよね?」

「うん、言った」

「もう兄妹だからわかるでしょうけど、彼って少年隊の植草さんそっくりでしょ?」

「へ?」少年隊?植草?誰それ。「裕美さん、悪いけどそんなタレント知らない」

「そうだろうね」そう言うと裕美さんはおにいのパソコンで『少年隊 植草 写真』で検索かけた。出てきた写真を見て、

「志奈子ちゃん、見て」と言うものだから見てみた。うーん、そっくりじゃないけどどことなく似てるような気がする。

「似てないこともないけど、でも、それだけだね。裕美さん、その植草って人知ってるの?」

「残念だけど私も知らないタレント。でも、ホントたまたまだったけど、少年隊が出てきてね」

「うん」

「この3人組見てると、何となく植草さんって人が彼に似てるなって思えてきたの」

「でももうオジンでしょ?昔売れたのかもしれないけど今は何もなしって人じゃないの?」

「今はただの人でしょうけど、おそらく30年前の80年代、私も志奈子ちゃんも生まれてなかったけど、当時は今の嵐みたいな人気だったようよ」

「ふーん、過去の人か、植草って人。そうだね、似てると言えば似てるのかな。でもこの人の方が男前だね」

「私も植草さんがどんな人なのかはしらないわ。でも、外見だけで言えば彼に似てるって思ってね」

「何かしてるの?」

「写真だけこっそり取ってUSBに残してる」

「ふーん、じゃ裕美さんて隠れ少年隊ファンなんだ」

「嵐ほどじゃないけどね」

「裕美さんも嵐好きなんだ」

「ま、ね」

「誰が好き?」

「やっぱり大野君」

「大野君か、彼もいいけど私は松潤だな」

「志奈子ちゃんもメンクイなんだ」

「へへ、誰だってそうでしょ。でもわかった。その少年隊の植草の写真、おにいに見せようよ」

「ダメだよ。彼って恥ずかしがり屋だし、そんなの見せたら逃げるよ」

「あ、そっか、そうだよね。じゃ植草のことは私たちだけの秘密にしよ」

「いいわ、秘密ね」

「そう、秘密」そんな感じでおにいの隠れた一面が出てきたのは面白かった。