美人は3日で飽きる ブスは3日で慣れるという言葉は嘘だと思う。美人はずっと見ていられるけどブスは慣れたところでブスだ。
「お前は少し人を見た目じゃなくて中身で見た方がいい」
あいつの説教定期botが呟く。その考えは間違っていると思う。イケメンでも中身がイケメンの人もいる。まだ出会った事はないけど。
「ブスは無理!一緒に歩けない」
「お前は一般の人より選択肢が多いから言ってるんだよ」
「どゆこと?www」
私は日本語は苦手だ。もっと簡潔に言ってもらわないとわからないのに、あいつはいつも難解な言葉を使うからすぐには理解できない。テストは学校だけでいいのに。
「ちょっとは考えろや」
「ごめーんwww」
「普通の人はお前みたいに選び放題じゃないからじっくり考えて付き合っていくんだよ」
「そうなんだ」
「お前の場合、次が保証されてるから深く考えないだろ?」
「確かに」
「だから変なのに捕まる率が半端ない」
イケメンは寄ってくるけれど、モテる分競争率は高い。その競争率の壁を簡単に突破出来る私は鼻歌混じりでお手軽に恋が出来ている。確かに一癖も二癖もあるような人物が多いのは否めない。
「じゃあどうしたらいいの?」
「だからwww 人を見た目だけじゃなくて中身もちゃんと見ろや」
「おけ」
これは成長するチャンスだと理解した。これまで私を通り過ぎて行った男は印象に残らない"モノ"を含めるとかなりの数がいた。付き合うまで至った人物は全部イケメンと呼ばれる人種だったけれど、性格的にはお世辞にも誇れる人物は少ない。
"中身をみろ"あいつがそう言うなら間違いではないのだろうから冒険する事にした。
高校2年の文化祭、男装をする事になった。ホスト風に髪を整えてうんこ座りをしていたら人気者になっていた。陰キャを装っていたのに目立ってしまう自分の魅力には正直びっくりだ。
その騒動の後、とある3年の先輩からよく絡まれるようになった。村田タクマこいつは私の今後の人生を大いに影響を及ぼした。
村田タクマはとにかく絡んできた、ブスではあるが性格は良いと感じていた。これがあいつの言う中身を見ろということなのだろう。村田タクマが在学中に付き合う事はなかったけれど、LINEを交換していたので、連絡は頻繁にとっていた。
村田タクマは卒業後に建築関係の仕事に就いた事で一人暮らしを始めていた。その頑張っている姿は好感をもっていた。
そんなある日、告白をされた。人を顔で判断してはいけないと思って付き合う事にした。私としては大きな成長だと思ってあいつに報告した。
「付き合う事にしたwww ブスだけど」
「そかそかwww 何か惹かれるものがあったんだな」
「うんwww」
「お前の成長に感動だわwww」
真剣な交際はこれが初めてで、色々と気付かされる事も多かった。
意外にも私は付き合った相手に趣味を寄せるようだ。彼が好きな食べ物がカレーなら、カレーをよく食べるようになったり、好きな音楽も彼が好きならと聴くようになり、その時はクラブミュージックに詳しくなった。そんな私をあいつは"メンヘラ"と呼んだ。メンヘラの定義はよくわからないけれど、一つだけ真似しない事があった、それは服装だった。どうやら服装に関しては別腹だったみたい。
毎日が楽しかった、不安にもなった。これが恋なのかと思った。
「人間になっててわろたwww」
偏屈なあいつでも定期報告をすると茶化しながらも成長を喜んでくれた。
村田タクマは可愛い私を手にした事で調子に乗っていた。学校一の容姿で自分に対して献身的なJK。ブランドとしては最高峰だったのだろう。ブスのくせに勘違いをし始めた事で歯車が狂い始めた。
付き合って3ヶ月が経った頃、女を連れ込んでいた事が発覚した。ベタに女物の腕時計がテーブルの上に置かれており、マーキングだとすぐに気付いた。
「別れたいの?」
村田タクマは何も答えなかった。私はブスに浮気をされるという汚点を作ってしまった。ブスは性格もブスなのだ。あいつも間違う事があるんだなと思った。
浮気されたという現実は私のプライドを大いに傷つけた。絶対に許す事ができない愚行だ。しかもそれがブスなのだ、到底許せるものではない。
「さようなら」
短くも長い真剣交際は私に大きなトラウマを残す結果になった。あいつに別れた経緯を愚痴…説明すると。
「見る目がなかったなwww おつwww」
そう、私の見る目がなかったのだ。ブスはブス、3日経ってもブスなのだから付き合う意味はない。
「お前と付き合った事で自信持っちゃったんだろうな」
「もうブスはいいや」
「お前ブスの中の下級ブスと付き合ったんだなwww 選択肢が多い故の弊害か」
これからは気をつけなければならない。私は相手に大きな影響を与え過ぎる。やはり同格の人間でなければ釣り合わないと認識を改めてた。
このままで終わるのも癪だった。村田タクマは連れ込んだ女と同棲を始めたらしい。なぜか相手の女にSNSをブロックされていた。フォローすらしていなかったのに… ブスの嫉妬と警戒心はすごいと思ったけれど、このブスに取られたと思うと腹が立つ。
一ヶ月もしないうちに村田タクマからよりを戻したいと電話がかかってきた。
「もうかけてくんな!」
その一言でスッキリし…ない! ○ね!
よくわからないけれど、同棲していた彼女からブロックが解除されていた。
そこには…
『これで数ヶ月の同棲生活も終わり。。。
さようなら○○(地名)
楽しかった思い出をありがとう!!』
という呟きが添えられていた。
以降、私はたかが外れたように遊びまくった。それはまた別のお話。
私の前を大きなトラウマを植え付けたブスが通り過ぎて行った。