付き合うってなに?彼氏彼女という肩書きが欲しいの?そんなのはっきり言って"くだらない"そんなら肩書きがあったとしても、良い女、良い男と出会えば簡単に破棄できる契約みたいなものでしかない。そんな確証のないルールに縛られるなんて罰ゲームでしかない。
男は浮気をするし、女だって浮気をする。世間体で言えば女が浮気をすると悪者のように罵倒されるのに男が浮気をすると、そんな生き物だよという便利な言葉で片付けられる。
男は横に並べて、女は上に重ねるという例えが一般的に流布されているけれど、私は上に重ねも横に並べもしない。ただ通り過ぎていくだけだ。
正直、未練を感じる暇もないのは出会いには困っていないからで、私が欲すればコンビニに並べられているお弁当の様に次々と補充されていく。
私を常識的な物差し測られても困ってしまう。
あの頃の私は常識という縛りに対して嫌悪感を感じていた。全ては遊びの延長線上という信念の元に複数の男を虜にする事に嵌っていた。
「お前乾いてんな」
「何が?www」
「心がにきまってんじゃん」
心が乾いている? よくわからない。充実した毎日を過ごしているのに? こんなに刺激的で楽しく伸び伸びと過ごせる日々に感謝しているくらいだ。
「ねえねえ? 可愛い?」
「なんだよwww うぜぇなwww」
たまに確認するようにあいつに対して写真を送信するのは信用しているという意味ではなく、単純に褒められたいからだ。
「そうだな…清楚系ビッチみたいだなwww」
的を射た答えが返ってる。夜とのギャップに男は虜になる事に気づいた私は、童顔という武器をフルに活用し清楚さを演出していた。
「うけるwww いける?」
「いけるんじゃないの?」
実践で投入済みだったが再確認出来てほっとする。
なんだかんだ言って、あいつの言う事は正しかったりするので意見は重宝する。
ここまで素の自分を曝け出せる存在は貴重だ。SNSで交流している時に、付き合っていると勘違いされた事もある。それだけ周りからは仲良く見えていたのだろうけれど、当の本人達にそのつもりは一切ない。あいつには私以外にも仲の良いネ友が大量に居た。お誘いは結構あったそうだが、オフ会に興味はなく、会う事に意味を見出せないと言っていた。ネ友だから言える事もあるし、相談できる事もある。
「謎って楽しいよなwww」
それがあいつの口癖だった。私も最初こそ気にはなっていたが、今となってはあいつが何者だろうがどうでも良かった。
本当変なやつ、むかつく変なやつ。
世の中には沢山の出会いの場を提供するツールが存在する。その中でお手軽なのが出会い系アプリだ。
電話だけして楽しむ時は、ネットから拾った画像を使って男を釣るけれど、最近のアプリは本人でないと登録出来ない高性能の機能が搭載されたものも出てきた。
人間の女としては上位種の私は加工などする必要がない分、アプリ内でも入れ食い状態だった。
今回私が欲するのはイケメンの美容師。高校を卒業後、美容師を目指していた私には貴重な現場の意見を聞けるメリットのある相手だ。
その相手が簡単に見つかったのは言うまでもない。
働いてる男で、しかも自分が目指している職種という価値は大きかった。付き合っているつもりはなかったけれど、真似事のような事はしていた。2人で撮った写真をSNSのアイコンにしてみたりした。それは同時進行で遊んでいたバンドマンに見つかるという失態を犯してしまったけれど、そんなのは些細な出来事。
さすが美容師と言っていいのか、話は面白く私を飽きさせる事がなかった。そしておしゃれだった。部屋は少し汚かったけれど、そんなのは私が片付けてあげれば済む話。献身的な女を演じるというより、色々と面倒をみてあげたくなるだけ。
ただし、イケメンに限る。
「ねえ? これみて?」
「何この写真?」
「美容師の男www イケメンじゃね?」
「イケメンかどうか以前に、なぜ寝ている写真?」
あいつに送ったのは美容師の男が隣で寝ている写真だった。写真を撮ったら報告するという流れがあいつと出来ていたので日常だ。
「え? 可愛いから?www」
「楽しそうでなによりwww」
「楽しいいいいぃぃぃwww」
調子に乗っている訳ではない、楽しんでいるだけだ。
「んで? そろそろ飽きてきたんじゃないの?」
あいつは私の事をよくわかっている。そう熱しやすく冷めやすいを体現したような存在な私は長く続く相手が居ない。あいつとの関係が長く続いている事自体奇跡だと思う。
「今、バーテンの男とも並行しているwww」
「また新たな男出てきたなwww」
「イケメンじゃね?」
あいつにバーテンダーをしている男の写真を送信した。私の写真フォルダはリアルに集めたイケメン画像で溢れている。
「ん〜www」
「は? ○ね!」
基本的にあいつとは好みが分かれる。あいつが男だからというのもあるだろけれど、それでも自慢したくなるのがイケメンだ。
「俺が女なら選ばないな」
「どんなのがいいわけ?」
「王子様系」
男のくせに何言ってんだとは思うけれど、聞いた私も私だ。
「女ならどんなタイプが好き? ささみみたいなの?www」
長い付き合いなはずが聞いた事はなかった。答えに興味はないけれど一応聞く。一応ね
「そんなの、黒髪ロングでプライドの高い女に決まってる」
想定外の答えが返ってきた。
「なんで?www」
「馬鹿野郎! 黒髪ロングのプライドの高い女をいじめた時に顔を赤く染めて恥ずかしがる姿なんて至高だろ?」
忘れていた。そうだあいつはドSだった。一見ドSに思われる私もあいつに言わせたらドMらしい。
「お前やばいやつだな」
「褒め言葉だな」
「褒めてないわwww」
そんなどうでも良い会話をしながら寝ている美容師の男を横目に部屋を片付ける。
余計なものはクローゼットや納戸に入れていく。その時に発見してしまった。
無造作に置かれた手紙を私は手に取った。隠してないと言う事は見ても良いという証拠というトンデモ理論を発動し内容を確認する。
辛うじてわかる日付は昔のもので、私と出会う前に貰った彼女からの手紙のようだ。
(ひくわー)
元カノの手紙を大事にとっておくような女々しい男とわかった瞬間、魅力が一気に底辺まで落ちていった。つまらない男。
その日を境に、積極的に連絡を取るのを辞めたのは言うまでもない。優先すべきは魅力的な男なのだ。
私の目の前をイケメンなのに女々しい美容師の男が通り過ぎていった。